第17話 夢工場奪還作戦

 朝から騒がしかった。

 パケジの元に機動隊から連絡が入る。


「レムの居場所をとらえました。

 正確な場所をそちらに送ります。


 レムの食事中を狙って配達員たちが襲って

 暴動がおきました。

 鎮圧してまいります。


 今日こそレムを捕まえてやりましょう。

 パケジ警部も来られますか?」


 パケジは「まかせるよ。」と言って

 葉巻を吸った。

 機動隊がバタバタと移動する。


 レムは今や史上最悪の凶悪犯として

 指名手配されていた。

 機動隊も出動していて、

 レムを見つけ次第、

 発砲もやむなしと許可も出ている。


 パケジは乗り気ではなかった。


 トウマが工場に入った日、

 警察に届けられた映像があった。

 工場の監視カメラの映像だ。

 そこにはレムが映っていた。

 これが証拠となり、

 レムが工場を破壊した犯人として報道された。


 夢の世界の人は、

 誰もがレムを悪者だと憎んだ。

 パケジとカミュ以外。


 パケジは気になる点があった。

 一つは、あの工場が破壊されたあの日、

 パケジはガギに監禁されていた。


 パケジがガギに手錠をかけて輸送車で

 ガギを運んでいたあの日、

 ガギは銃をパケジにつきつけ、

 パケジを縛ると

 パトカーのボンネットの中に

 閉じ込めていたのだ。


 実行犯はレムじゃない。

 仮にガギとレムが組んだとしても

 謎が残る。


 それが気になる点二つ目、

 なぜ工場を破壊したか?

 レムが犯人の場合、動機がない。


「あいつは、食事にしか興味がない。」


 映像と共に送られてきたメールの差出人は

「夢ドロボー ノンノ・レム・ルムレム3世」

 と書いてあった。


「あいつが自分のことを夢ドロボーとは決して言わない。」

 それに、この映像を送ることで

 レムが夢ドロボーとして世間に認知されることこそ

 レムが1番嫌がることなのだ。


「レムが犯人ではないと?

 なぜそう言い切れるのかね?」


 署長さんに訊かれて、パケジは答えられなかった。

「長年の付き合いですから」としか言えない。

「君はそれでも警部かね?早く捕まえて来い」

 と怒鳴られた。


 決定的な証拠がなかった。


 その時、ノックの音と共に思いがけない客が来る。

 夢工場長のリーだった。

「リーさん!!」

 パケジはくわえていた葉巻を落としてアチチとなる。




 パケジはリーをソファーに座らせると、

 暖かいお茶をだした。


 1週間ほど前にバク騎士団が食中毒になって、

 パケジがリーに相談しに行って以来、

 リーは失踪していた。


「よくご無事で。今までどちらに?」


「工場よ。

 ガギに捕まって工場に閉じ込められてたの。

 工場に避難用の隠し通路があってね。

 ガギの目を盗んでそこから逃げてきたわ。」


「ガギ?今、工場の中にガギがいるのですか?」


「そう。ガギが私の工場をのっとってるの。」


 リーは悔しそうに親指の爪を噛んだ。

 赤いネイルがはげている。


「工場はレムに破壊されて

 夢が製造できないときいてますが。」


「あの子はそんなことしていない。

 工場も壊れてない。


 中では機械が動いて夢を製造してるわ。


 ガギが工場にたてこもって、

 工場でできる夢を全部自分のものにして

 観賞して楽しんでるのよ。」


 なんてことだ。

 工場ごと盗んだというわけか。


 それで、レムに罪を着せておいて

 ガギは悠々と夢観賞をしている。


 しかも、夢工場のセキュリティーで

 自分は守ってもらっているわけだ。


「工場がガギの要塞になってるということか。」


「私はあいつがしてきたことを一部始終見てきたわ。」


 パケジは「しめた!」と膝を打った。


「これで全てのつじつまが合う!」


「あの子はガギにはめられたのよ。

 あの子を助けてあげて。お願い。」


 リーはパケジの裾をつかんで懇願した。


「お任せください。

 リーさんもご協力お願いしますよ。

 証人と、レムさんの母親としてね。」


 リーの話を聞いて、

 事件の全容が見えてきた。


 整理をしてみる。


 まずガギは配達員を襲い、

 バク騎士団が食べそうな夢に少しずつ毒をもった。


 食中毒でバク騎士団の動きを封じる。

 バク騎士団が悪夢を食べなくなる。


 工場長のリーを誘拐する。

 セキュリティー解除の方法を聞き出す。

 パケジを監禁。

 パケジに変装する。

 指名手配されていない誰かを味方にして

 セキュリティーシステムを解除させる。

 工場に侵入。

 このセキュリティーを解除した人をAとする。


 セキュリティーシステムを変更する。

 ガギの指名手配の記憶を消去し、

 警察など自分の敵になりうる人を指名手配にする。

 工場はガギの完璧な要塞となる。


 監視カメラで

 レムが工場を入ろうとするところを撮る。


 おそらくレムは

 Aが工場のセキュリティーを壊すことを

 知っていた。


 レムはAによって

 セキュリティーが壊されて工場に入れると

 思ってきた。


 監視カメラの映像で

 レムが工場に入ろうとした箇所を

 マスコミや警察に送りつける。


「この共犯者Aは誰だ?」


 パケジはつぶやくと、急ブレーキを踏む。


 目の前に突然男の子が現れたのだ。



 パケジは窓を開けて身を乗り出す。


「おい、大丈夫か?」


 パケジの顔を見て、

 トウマは腰が抜けそうになる。


「ピエロだ!」

 ガギの変装と勘違いし、

 トウマは急いで逃げようとしたが、

 パケジがトウマの左手を掴んだ。


「逃げることないだろ。車の前に飛び出すなよ。」


 トウマのおびえた顔を見てパケジは困惑する。


 パトカーの後部座席に座っていたリーが、

 トウマの顔を見ると言った。


「この子よ!工場にいた子!機械にガムをつけた子。」


「なに?」


 パケジは驚いてトウマの顔を見つめてから

 警察手帳を見せた。


「ワシはパケジだ。事情を聴かせてもらおうか。」


「本物?」


 トウマがやっと発した一言はこれだった。


「ああ、本物だよ。」


 警察手帳のことだと思い、

 パケジは手帳をトウマに持たせた。

 葉巻のにおいがする。

 そこには苦い匂いだけで、

 甘ったるい匂いは混ざってなかった。


 トウマはカミュがくれた手紙を見せて

 これまでの経緯を話す。

 ガギと工場を壊しに行った話をした。

 パケジは、目をつぶって話をきいていた。


「坊や、君は大変なことをしてしまったんだよ。

 わかっているのかい?」


 トウマはうなだれる。


「ごめんなさい」


「本来ならば夢工場を壊した犯人として

 君を逮捕したいところだが、

 お前さんはただガギに利用されただけのようだし、

 夢の世界の住人でもないので、

 特別にチャンスをやろうと思う。


 もし、夢工場を元通りにしてくれたら、

 君の逮捕はなしにしてあげよう。

 どうかな?」


 トウマは頷いた。


「でも、どうすればいいの?」


 リーが提案をした。

「私に考えがあるわ。」


 セキュリティーシステムが動いている以上、

 正面突破は難しい。


 リーが知っている隠し通路を使って

 トウマが工場に潜入する。


 隠し通路は一人がやっと通れる大きさだ。

 トウマなら大きさも適任だろう。

 工場に入ったら機械にガムをつける。


 工場を止める。

 セキュリティーが動かなくなったら

 総攻撃をしかける。


 そして、

 トウマにアリスの夢から出る方法も教えてくれた。


 工場の機械からアリスと書いてあるレーンが伸びている。

 そのレーンに乗れば滑り台のように滑っていけるという。

 滑った先は大きなリュックの中。

 リュックに入れば配達員がアリスの海馬まで運んでくれる。

 海馬につくと、夢から現実に戻れる。


「アリスが目を覚ましたら、

 トウマ君は夢の中に閉じ込められてしまうわ。


 アリスが目を覚ましそうな時は、

 感覚でわかるはず。


 その感覚を感じたらすぐに夢から出なさい。

 いいわね。」


 トウマは頷いた。

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