第12話 夢ドロボーの過去
パトカーの中でトウマは緊張していた。
パケジはバックミラー越しにトウマを見る。
「ワシはガギに夢工場を渡すつもりなんて
さらさらねぇ。
それを阻止するためには工場を一時的に壊す。
それしかねえんだよ。」
大きなため息をついて前方に目をやる。
「悪いな。お前さんを巻き込んじまって。
夢がどうやってできるか知っているかい?」
トウマは首をふった。
「夢ってやつぁ、夢工場でできるのさ。
今から行く工場。
そこで全ての人間の夢を作っている。
夢工場で作られた夢は
配達人が世界中に配る。
よく寝たのに夢を見てない時があるだろ?
そいつは、この配達人が配達ミスをして
配達事故をおこしちまって届けられなかったとか、
配達途中でバクに食べられるとか、
あとは、夢ドロボーに盗まれるとか……」
パケジが指名手配のポスターを忌々しそうに見せる。
「あ!」
ポスターにはレムとピエロの顔があった。
ピエロの顔を見て、怖い夢を思い出す。
「こいつらは夢ドロボーだ。夢を盗む。
ピエロの恰好している奴はガギ。
人の夢を盗んで見ることを
楽しみにしている最低なヤロウだ。
ガギは自分の楽しみの為に
配達員を襲って夢ドロボーする。
たくさんの配達員がこいつに襲われてるんだ。
それだけじゃねえ。
ガギは特殊な能力を持ってる。
悪夢の中に人間を閉じ込める力を持ってる。
ガギが掴んでいる間は悪夢の中から出られない。
お前さんのその手錠もガギが触れた物だろ?
ガギに掴まれている状態だよ。」
トウマは右手の手錠をぎゅっと握った。
「つまり、夢工場がガギの手に渡ったら、
悪夢を製造しまくって世界中に配るにちがいない。
そうしたら、お前さんのように悪夢で
困る人が世界中に増えるんだ。
それを止めるには夢工場を壊すしかない。
大丈夫。
ガギを逮捕して、やっぱり夢を配達した方がいいってなったら、
工場を動かすようにする。
その為にはがしやすいようにガムで止めるんだ。
お前さんが責任を感じることはねえよ。
ワシが全ての責任を取る。」
トウマは手錠を握りしめたまま訊く。
「なんでガギはそんなことするんですか?」
しばしの沈黙。そして、パケジが重たい口をひらいた。
お前さんが、生まれるずっと前の話さ。
ガギは人を楽しませることが好きだった。
学校ではよく先生のものまねをして、クラスの人気者だった。
将来は、お笑い芸人や、役者、タレントとして
みんなを楽しませたいと思っていた。
時代が悪かったな。
あの頃、戦争がおこりそうだった。
民族の争いが頻繁にあった。
みんな同じ人じゃねぇかって思うけどよ。
民族、肌の色、考え方が違うからってだけで争いが起きて、
そのたびに弱い者が犠牲になる。
それで、暴動が起きる。
ガギの親友も犠牲になった。
あいつは何も悪くねえ。それなのに…。
ガギは、親友を亡くした悲しみから、
これ以上無意味な争いをなくしたいと考えた。
それで、エンターテイナーになる夢を
あきらめて兵士の志願をした。
争いをなくすための戦いに参加するつもりだった。
軍事訓練を受けていたある日。
上官に呼ばれる。
「おめでとう。特殊訓練候補生に選ばれたぞ。」
特殊訓練とは、精神攻撃をする兵器として
人間を改造する訓練だった。
「精神人間兵器」作戦。
悪夢の中に閉じ込める能力を開発する。
しかし、当時は作戦の内容なんて
教えてくれなかった。
いきなり軍需工場に連れて行かれ、
電気椅子に縛られた。
残酷な恐怖映像が脳に残るように
ぞっとする映像を見させられる。
24時間体制で見張られて、
眠ろうとすると死なない程度の電気を流される。
同じように選ばれた仲間は
精神がおかしくなって死んでいった。
ガギは訓練に耐えた結果、
悪夢の中に閉じ込める能力が使えるようになる。
それからだ。
あいつは悪夢で人間を苦しめ続けている。
「ついたぞ。お前さんの悪夢を終わらせるんだ。
頼んだぜ。」
パケジは、ブレーキをかけた。
工場は巨大などんぶりのよう形をしていて
鏡でできているようだった。
よく見ると、光を反射させながら、
工場自体が回転をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます