第6話 見えない手錠と見えない手紙
「夢なんか見なきゃいいのに」
トウマは吐き出すように独り言を言った。
あの怖いピエロの夢を7日間ずっと見ていた。
暗い。監獄があって、檻の中に電気椅子が置いてある。
軍需工場?古ぼけた看板に書かれている。
壺。壺。壺。
倉庫だろうか。ほの暗い場所だ。
そこらじゅうに茶色い大きな壺が並ぶ。
トウマと同じくらいの大きい壺だ。
追われている。
あのピエロだ。
「逃げなきゃ。」
躓く。
そこには巨大な蛇がとぐろを巻いている。
蛇がトウマの右腕に絡みつく。
蛇が手錠になる。
ズザザッ ズザザザッ
ピエロが足をひきずって歩いて近づいてくる。
ここで場所が崖の上に変わる。
これ以上先には行けない。
目の前にピエロが立っている。
ピエロは笑っていた。
ナイフを見せると、ふりかぶる。
「わぁあああああ!!!!」
ここで目が覚める。
怖くて寝たくなかった。
あの時の手錠を家族に見せて、
夢の話をするが
トウマ以外にはこの手錠が見えないという。
どんなにあけようとしても
手錠はびくともしない。
両手にかけられたわけではないから
生活では困らないが、
きつくて嫌だった。
手錠を意識するたびに夢を思い出す。
学校でも、誰も手錠は見えていないようだった。
トウマはじっと手錠を見つめた。
休み時間に隣の席のアリスが話しかけてきた。
「ねえ、それ…」
「!!手錠、見えるの?」
トウマは驚いた。アリスも驚いていた。
「あ、ごめん。
手錠は見えないけど、
トウマ君の右手首が変というか、
うまく言えないけど…、重そうで。
なんか変な気がして。
ごめんね。変なこと言って。
ママやパパにもよく言われるの。
そんなこと言っちゃダメだって。」
見えてはいないけど、
アリスには何か感じているらしい。
「ううん。大丈夫。変だなんて思わないよ。」
「少し前からついてたでしょ?
先週からかな?
ずっと言おうか迷ってた。
トウマ君には手錠が見えるの?」
「うん。右手にかけられてる。
僕だけが見えるし、触れるんだ。
本当にここにあるのに。
変な夢見てさ、ピエロの夢。
起きたら手錠がかかってて。
それから怖い夢を見てるんだ。
毎日同じなんだよ。」
アリスはトウマの話をきくと少し考えてから言った。
「私は全然夢を見ないの。
すごく眠くて、
寝ても寝ても寝てないみたい。
毎日朝起きるとこれが置いてあるの。
見える?」
手紙だ。手紙がいっぱい。
「手紙?」
「手紙?」
アリスもききかえす。
「やっぱりトウマ君は見えるの?これ、手紙なんだ。」
アリスには手紙は見えないけど、
何かが枕元にあるのを感じたらしい。
毎日増えている感じがする。
手にとれそうだったので、
おそるおそる手を伸ばしたら触れる。
持ち運びができる大きさと軽さだったので
持ってきたという。
「これが最初にきたもの。
もし、読めたら読んでほしい。」
トウマは手紙を受け取ってよく見てみた。
封筒には
カバのようなまるっこい動物が
向かい合っている封蝋が
押してあった。
「眠り姫へ。
とろけるような舌触り
ほんのりとした甘さ。
絶品です。
勝手ながらあなた様の夢を予約させて頂きました。
これから毎日いただきにあがります。
ノンノ・レム・ルムレム3世」
次の日の手紙は
「眠り姫へ。今日も夢を頂きました。
とろけるような舌触り
ほんのりとした甘さ。
いつもながら絶品です。
またいただきに参ります。
ノンノ・レム・ルムレム3世」
他の手紙も同じような内容だった。
夢の味について絶賛している。
全部名前も同じ人だった。
アリスは不安そうにしていた。
誰だ?毎日来るって?
でも、もしアリスのところに毎日来るなら、
この手紙を書いた人に会えるかもしれない。
トウマとアリスの身に何が起きているのか。
この手錠をはずせるのか。
この人なら何か知ってるかも。
このノンノ・レム・ルムレム3世に
今は頼るほかなかった。
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