右に曲がっただけで、彼女は間合いを2倍に空けた。助走付きでドロップキックするぐらいの距離。

 ちょっと不思議だった。喋らない。こちらのことも、仕事のことも、知られていない。それなのに、なんとなく、好意だけが伝わる。そして自分も、たぶん、好意がある。だから一緒に帰ってて、言葉も交わさないのに通じあっている。


「おっ」


 自動販売機。あと公園。

 夕方で、子供はもういない。若い男女二人組が、スーパーハイテンションで遊具で遊んでる。たのしそう。

 自動販売機で、2つ飲み物を買う。2つ買うと、パッケージの絵柄が繋がるやつ。

 ひとつ、彼女に放り投げる。


「へぁ」


 ゲームに出てくるモンスターの鳴き声みたいな音を発しながら、なんとか彼女がキャッチ。

 公園のベンチに座ろうとして。ポケットを探っていた彼女が、何かを投げつけてくる。2つ。3つ。

 小銭。

 ちょっと考えて、さっきの飲み物代なのだと気付く。


「別にいいのに」


 ドロップキック距離なので、この言葉は届かない。

 ベンチに座る。お互い、別のベンチ。

 全力で遊ぶ男女二人組。なんとなく、飲み物を飲みながら眺める。


『たのしそうだな』


 お。

 彼女のほうを向く。

 彼女も、自分のほうを向いていた。

 同じ事を言ったかもしれない。同時に。

 彼女。

 もじもじしながら、こちらに手を伸ばす。といっても、別のベンチなのでこちらには届かない。

 しかたないので、自分からにじり寄っていって。ベンチ端。彼女の手をとって。ベンチから立ち上がる。ふたりで。

 あの二人組に混ぜてもらおう。

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岐路 春嵐 @aiot3110

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