キーシャ:露悪

 ウィルがくれた大切なお金で、食べ歩きをしていると、声を掛けられた。


「お金を持って子供が何をしているのだ?」


 この段階では誰も止めに来ない。このような出来事はよくある事なのかもしれない。

 振り向くと、明らかに柄の悪そうな男達がいた。服装も装備も綺麗ではなく、お金と欲に飢えている感じが、意図しなくても漂って来る。食事が台無しになるほど。


「何故、見ず知らずの者に言う必要がある。ウィルでない者に」


「そんなに嫌いにならないでくれよ、嬢ちゃん。少し付き合ってくれれば、いいだけだ。お前が何かを気にする事など何もない」

 と、全身を舐めるような視線を向けた。


 続けて仲間の男達が、盛大な笑い声を上げる。どこまでも、下品としか言えない。これだから、人は腐っている。ウィル以外は。


「そもそもお前達こそ、誰だ?」

 と、私は聞いた。


「お前に言う訳ないだろ。つべこべ言わずに、大人しく従えばいいのだ」

 と、男が近付いて、フードを一気に下ろした。


 それにより隠れていた角が、姿を現す。誰もが見て分かる、魔族としての象徴が。


「……まっ。魔族…何でここに魔族がいるのだ?」


 その言葉を最後に当たりを静寂が包んだ。誰も恐怖で動けない。死ぬと思い。だけど、その思いとは反して、体が逃げる方向に向かう。人々が一斉に私の前から去って行った。

 誰からも除け者にされているのは、何とも孤独に感じだ。自分が異端の存在で、嫌われていて、必要にされていない、と。それだけでも、心は切り裂かれる。言われたくない言葉を言われていないのが、ましであると思えるほど。


 早く父の背中のような温かさを感じたいと、無性に思う。心に空いた果てしない穴を、必死に埋めたいから。


 ウィル。


 彼の側にいるのが、一番父の時と同じようだった。その温かさは忘れられない。



「おいで、キーシャ。もう、大丈夫だよ」

 と、そこにはウィルがいた。


 私が待ち望んだウォルが、私を優しく抱擁していた。陰から突然現れて。

 再び、思う。この温かさだった。今にも流れそうな涙を抑えながら、私も硬く抱き締めた。


「遅いよ、ウィル。寂しかった」


 今度は頭を手で撫でてくれた

「もう、安心したらいいよ。キーシャ。さぁ…行こうか。次に行くべき場所に」


 私が頷くと、ウィルは何かを発動させた。

 その場を離れたと、視界から気付いた。

 けど、きっと目撃した者は誰もいないと思う。誰もが、逃げて行ったのを、この目で見たから。

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