露店巡り

 大通りに沿って、露天が立ち並んでいた。風に乗って、美味しそうな匂いが漂って来る。どこからも威勢のいい声が、道歩く人に話掛ける。誰もが自然とどの露店にも寄りたくなるようになっていた。

 今にも飛び出しそうなキーシャを抑えて、私は角に連れて行った。数多くの人が後ろにいたので、通行の邪魔にならないように。


 上着のポケットから小銭を取り出すと、キーシャに渡した。

「これで食べたいものを買ってきたら、いい。また、足りなくなったら、教えてくれ。だけど、食べれない分まで買う必要はないからな」


 キーシャは素直に頷くと、小銭を受け取った。大切そうに手に握り締めていた。その様子だけでも、早く買いに行きたいのだと、よく分かった。楽しそうに去って行く、後ろ姿を私は眺めた。



 私はキーシャと別れてから、街の散策をする事にした。まずは手短に近くの露店で、何かを買う事から始める。目前に、食欲を唆る肉を串に刺して、焼いているのが、目に入った。私は代金を払うと、露店の店主から一本貰った。


 少し熱いので、気を付けながら口に運んだ。

「ん…美味しい」


 昨日の魔獣では味わえなかった、人が手を加える事が味わえるものがあった。その熱さ加減も丁度よく、何本でも食べれてしまいそうである。


 私の呟きに気付いた、店主がこちらを笑顔で見た。

「美味しいだろ? お客さん。これがここの自慢の味なのさ。肉の質が良ければ、少し手を加えるだけでより美味しくなる」


「いや、本当にご馳走様でした。また、来る機会があれば、寄りたいです」

 と、食べ終わった串を置かれていた、筒に他の串と同じように入れた。


 露店の店主は、嬉しそうな顔をした。

「そうか、ありがとうな」



 その後も色々食べていると、流石にお腹が膨れ始めた。私は余ったお金を確認しながら、食べ物以外も見る事にした。興味が湧いた道具屋の露店などを眺めながら、通りを満喫する。辺りを見ると、いつの間にか露店の列の終点まで、来ていた。

 最初の方に戻ろうかと思った時に、気になる声が聞こえた。普段なら気にしないのかもしれないが、今回はその言葉が耳に入りやすかった。


「…何でここに魔族がいるのだ?」

 と、男の大きな声がした。



 それがキーシャの事をさしているとは、考えなくても分かった。

 声の方を向かずに、私は体を陰で包んだ。


 更なる状況の悪化を防ぐためには、この手しか使えない。

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