副首都

 キーシャと歩いていると、前方に街の門が見え始めた。脱出した首都の次に通る、この副首都は首都に最も近い事もあり、非常に繁栄している。今回は食べ物を得るだけで、長居はしない。情報が行き交いやすい所など、早く逃げて行きたい。人のいない彼方へと。


 キーシャも気付いたようで、こちらを見た。

「大きな門だなぁ、ウィル。我々でも通るのを、躊躇いたくなるほど」


「キーシャは、人にいる街に未だ行った事はないのか?」


 キーシャは丁度、首都と副首都の間にある森にいた。なのに、副首都の門に恐れていた。首都の方から来たのなら、驚く事がないはずだ。


 私の指摘にキーシャはキョトンとした後、理解したように頷いた。自分が伝え忘れていた事に気付いたようだった。


「魔族の転移門があるのだが、どこに出来る分からずに使ったら、森に出たのだ。人に出会ったすぐに、運良くウィルに出会えたから、良かった」


 私はキーシャの話を聞きながら、思考が停止した。

 ──転移門?

 そんなの知らされていない。それがあると言う事は彼らは、好き勝手に様々な場所に行けるのだ。これなら…移動も。

 いや、待て。どこに出るか分からないとも言っていた。転移門の技術が完全ではないと、意味しているのではないか?


「そもそもその情報を教えていいのか? 人類に」


 キーシャは何が可笑しいのか、分からない顔をした。

「今更じゃない? だってウィルでしょ」


「あぁ。そうかい? まぁ。いいや。それを移動には使えないのか?」


 キーシャがここで動けずにいただけで、答えは何となく分かるが。


「設置した時が古いからどこに行くかも分からない。それに魔王城に置かれているから」


 転移門が余り実用的ではない事を知った。非常時には、逃走の役に立ちそうだけど、改善の余地がある。新しく作ればいいのだろうか? 全ては見てから考える方が良いのだろう。



 私が物思いに耽けていると、門はより近くに近付いていた。キーシャは頭を一度触ってから、深呼吸をした。

 その後、私とキーシャは何も言われず、街に入れた。私が冒険者の身分書を見せた事で、向こうも無礼を働く事が出来なかった。特に高ランクの冒険者には。幾ら怪しそうだとしても、正当な理由がなければ呼び止める事も。

 そんなに気にしなくても、キーシャは普通の少女にしか見えなかっただろうが。


 門を通り過ぎると、キーシャの瞳が大きくなった。それは、これまで接した事のない文化に対する、好奇心だった。



 何とも可愛らしい。

 私も、昔はキーシャのような心を持っていた。と忘れてしまいそうだが。

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