早朝の移動

 太陽が顔を出す頃に、私はキーシャの体を軽く揺らした。一応、追っ手がいた時に逃れるように、しなければならない。

 が、今の所はまだばれていないようだ。勝手に夜中に出掛けている時もあったので、誰も余り気にしていないのだろう。それが今回は、非常に役に立っている。


「起きろ…キーシャ。朝だぞ」

 と、声を掛けた。


 キーシャは眠そうにしながらも、瞳を開けた。一瞬、どこにいるのか忘れていたようだったが、私を見てすぐに悟った。寝惚けている状態で、殺されずに済んだ。

 私がキーシャと戦って勝てるのか?

 それは実際戦わないと分からない。が、襲われていると勘違いされたら、怖過ぎる。私は屈んでいるので、こちらは何とも不利な状況である。


「おはよう、ウィル」


 キーシャは空の太陽に負けないほどの笑顔を見せた。それだけで疲れていた体は、チャージュされる。


「おはよう」

 私も朝の挨拶を返した。


 キーシャは気付いたような顔をして、立ち上がると、私の上着を差し出した。

「ありがとう、ウィル。この服も、護衛も、夕飯も全て。初めての一人旅は実は怖かったのだ、ウィルと偶然出会うまで」


 キーシャの意外な側面を私は垣間見た。知らなかったけど、それだけ信用されたとも言える。この関係性がこれからの旅にも、必要となる。背中を預け合う、仲間として。この世界を生き延びるために。


「よく寝れたのなら、良かった。その調子なら、今からでも移動していいか?」


 幸い、遅い夕飯を取ったのでまだ空腹感はない。このまま順調に行けば、丁度いいタイミングで街に入れる。


「いいよ」


「なら、街では美味しいものを食べようか」


 私はキーシャが無意識に瞳を輝かせたのを、見逃さなかった。やっぱり、中身は純粋な少女のままであるのだろう。だが、普段はそれを隠す。何故なら、不利な状況を生む可能性が、少なからずあるからだ。


「そうしよう、ウィル。絶対、美味しいものを頂くのだ」


 私は軽く分かっているよ、と反応を返した。果たして、キーシャはどこからお金が出ているのか、理解しているかが怪しいが。

 まぁ…いいか、と思った。こう言う一時も、案外直ぐに終わってしまいかもしれない。楽しめる時に楽しめるだけ、楽しんだらいいのだ。


「そうだ、キーシャ。次の街でどちらが先に美味しいものを見つけるか、競うか?」


「いいぞ、ウィル。絶対先に勝ってやるのだ」

 と、キーシャは勝利を宣言した。


 本当に朝から、元気な人である。

 私は欠伸を噛み締めながら、キーシャと進んだ。

 腰の剣が存在を示すように、揺れる。

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