真夜中の晩餐

「お腹が減ったのだろ? これを食べたらいい。まだまだ、余っているから」


 私の言葉にキーシャは頷いてくれた。

 一応、確認のため、肉がどれぐらいあるか見ていた。

 が、こう言う時は何も気にせず、楽しんだらいいと思う。


「今日は好きなだけ食べたらいい」


 キーシャは肉に齧り付いた。

 肉汁が手を伝って、地面に落ちる。その熱さに驚くが、肉の美味しさに頬を緩めていた。

 キーシャの姿は何とも微笑ましかった。すごく素直な子供は、久しぶりに見た。


「美味しい、ウィル」


 私も肉を貪りながら、返事をした。

「だろ。こう言ういい肉には、味付けは何もいらないのだ」


 丁度、食べ終わったキーシャに新たな肉を渡すと、試しに聞いて見た。


「思ったのだが、魔族でも獣の被害に遭うのか?」 


「普通の獣は平気だが、厄介なものはいる。赤い目に変な靄を纏う、獣だ」


 それは魔獣を指していると、私は特徴からすぐに分かった。

 魔族でも厄介と言う事とは、知らなかった。

 キーシャは、また言葉を続けた。


「我々はそれを、赤い悪魔などと呼ぶ。子供の頃は、悪い事をすればそれに食べられるとも言われた。それほど、我々に取っては脅威でしかない。これまで多くの仲間がやられて、父が嘆いているのも見た事がある……けど、それがどうした?」


 今、その話題を振られた事にキーシャは疑問を抱いたようだった。


 私は視線を一瞬、その肉に落とした。

「…それが魔獣の肉だからだ。丁度、寝ている間に狩ったのだ」


 キーシャは目を大きく見開いた。手の肉を落としそうになる。

 不気味な外見が嘘であるかのように、魔獣の肉は美味である。その意外性に驚いているようだった。

 幸い、拒絶するタイプではないようだ。同じ狩猟をする者として。


「これが、魔獣なのか? 美味しいとは思っていたが、知らなかったぞ、ウィル」


「ごめん。伝えるべきか分からなかった。私も魔獣を食べるのは、初めてなのだ」


 これまでは生きるためにひたすら倒していたので、食べると言う発想をしなかった。それに倒した魔獣を食べる必要性も、なかった。

 が、今回はキーシャが隣にいた。

 狩りのためにその場を離れると、危険性が増える。だから、襲って来る獣を倒したら、食べるしかない。


 事情を大まかに説明すると、キーシャは納得した顔をした。

「美味しいのなら、いい。新しい珍味も発見する事が出来た。晩餐を再開しよう、ウィル。こう言う時は祝いだ」


 嬉しそうに肉を上げるキーシャに釣られて、私も掛け声をした。



 楽しい晩餐の再開だ。

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