夜風の冷たさ

 キーシャと歩きながら話している時に、風が吹いた。

 冷たい夜の風は、存在感を示すように、砂を思う存分吹き上げると、彼方へと駆けて行った。

 私は、一瞬で辺りの冷たさに気付かされた。


 知らない内に空は、夜の姿に変わっていた。

 見える星の数も増え、星明かりがはっきりとしている。

 自分の下に映る影も、形が消え始めていた。


 くしゃみを抑えながら、私はキーシャを見た。

 案の定、寒そうにしている。

 正確に言うと、私より何倍も寒そうに。

 ローブを一枚、羽織っているだけだから、当然だろう。


「キーシャ、薄手で来たのか?」


「こんなに寒いとは知らなかったのだ。どうにかしてくれ、ウィル」


 ローブは角を隠すのにはいいが、この季節には向いてない。

 本当に箱入り娘だなぁ。と私は思った。

 王女であるのだから、城では侍女に世話をされているのだろう。


 私は何かを言っても、自分の手で解決しなくてはならない。様々な危険な場面にも遭遇した。


「仕方ないな…」


 一人での野営を考えていたので、キーシャに渡せる物は何もない。

 冒険者として、荷物を最低限に減らさなければ、手が嵩張るからである。

 自分の荷物も、まして、少女に渡せそうな物はない。

 が、この際は許されるだろう。


 私は上着を脱ぐと、キーシャの肩に優しく掛けた。


 キーシャは驚くような視線を送った。

「いいのか?」


「遠くから遥々やって来た者に、風邪を引かれても困るからだ。それにまだ活動をするから、あってもいらない物だよ」


 動いていると体温を温存出来るが、寝ているとそれは出来ない。キーシャに風邪を引かれて困るのは、正直言って私である。

 風邪を引かれたら、移動時間が大幅に削られるかもしれない。


「近くの木に背中を預けたら、寝やすいぞ。しっかり、危険の有無は確かめるから、安心したらいい」


「分かった。ありがとう」


 キーシャは近くに良さそうな大樹を見つけると、体を丸めた。

 私の上着を前側に移して、布団代わりにする。


 少ししたら、キーシャは夢の世界に旅立って行った。

 知らない内に、疲れが溜まっていたのだろう。

 旅ではよくある事だが、それが命取りになる事もある。

 よく休める内に、休んだらいい。

 私は起き続ける事に、慣れているから。

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