魔族と人類 2

 やるべき事。

 それは、人類の敵、魔王ゾグロフに死を下す、英雄としての仕事。

 だが、握っていた剣は今にも手から、離れそうになった。


 始めて名前で呼んでくれた人を殺すなど、出来るはずがない。と叫びたかった。

 が、私はしなくてはいけなかった。

 全ては、自分が英雄であるからだった。

 この運命を、全力で恨みたくなった。


「嫌だ。悪いとしても…何故、殺すのだ? 殺さない方法はないのか…」


 彼は悲しそうな嬉しそうな視線を向けた。

「私を殺さないとしたら、次はウィル。お前が疑われる事になり、大変だろう。お前がやらないとしたら、別の者が呼ばれる。人とはそう言う者だ。家族の事は心配しなくても大丈夫だ。ちゃんと話しているから」


 彼は一旦言葉を切ってから、続けた。

「私も最初は誰が来るのか気になって仕方がなかったのだ。だが、ウィルになら、やられてもいいと思う。お前なら、その手柄の意味が分かりそうだ。だから、最後ぐらい、私の我儘を聞いてくれるか?」


 死ぬ事になるにも関わらず、彼は笑った。

「ウィルはきっと強い者であるはずだ。ぜひ、決闘を行いたい」


 彼はそこで全力で戦い、死のうとしているのだった。

 もう、私には止められない。


 私は彼に頷き返した。「分かった」



 そして、魔王が誇る、城にある競技場を使い、私と彼は死闘を行った。

 瀕死の状態でも、彼は笑いながら、家族に囲まれた。

 私も呼ばれた時は嬉しく、涙が出そうになった。


 魔族の頂点に立つ、魔王ゾグロフこと、キース・ゾグロフは家族と私に身守られながら、静かに息を引き取った。

 戦士として、その死は何とも潔く、誇れるものであった。



 そこで私は魔王の家族である、キーシャ・ゾグロフとも出会っていたのだった。

 こちらは気付かなかったが。



 決闘の後、私は英雄として、討伐した証を得る必要があった。

 が、彼はそのままの状態にして、傷付けたくはなかった。

 すると、魔王の証と呼ばれる、貴重品を渡された。

 彼の家族も彼がその地で眠れるのなら、他の物はいらないと言ってくれた。


 私は人が魔族をどのように扱っていたか、気付いた。

 人とさほど変わらない魔族の首を、討伐の証とするとは非人道的である。

 死者に対する配慮のなさが、窺えた。

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