魔族と人類

 魔族。

 人にはない角と、やけに長い寿命を持つ、人とは違う者達。

 それは人と敵対する存在であると教えられ、私は魔族の頂点に立つ、魔王の討伐を求められた。

 私が英雄であったから。


 この時、それが正しいのだと思っていた。

 私は英雄として、言われるがままに動いていた。

 自分の意思で行う事は決してなく、常に誰かに縛られていた。

 その状況がおかしいと気付く事さえ、出来ないほど。


 常に英雄としての、私しか求められず、出された指令を行う。そしたら、人々が私を同じ笑顔で、同じ「英雄」と呼び、出迎える。

 思い返すだけで、気持ち悪い所に私はいた。


 実際に魔王の城に行き、私は実感した。

 これまでの事は、全て人類の自分勝手な行動が生んだ嘘であった、と。

 私はよりよい結末があるのでは、と魔王に言った。

 が、全てが遅過ぎたのだった。


 魔王…キース・ゾグロフは、私に言った。

「お前にはこの世で他の何かより、守りたい者はいないのか? 自分の命よりも」


 魔王ゾグロフ。いや、家族を守る一人の父親の言葉は、力強かった。

 自分の命より、守りたい者がある、と彼は言った。

 それは私には真似が出来ない事だった。

 まだ、そこまでして、自らの命を掛けてまで、守りたい者はなかった。


 が、だからと言って、何故、彼が死ぬ運命なのかが、分からなかった。

 何故、誰も魔王の事を理解しようとしなかった。

 知っていれば、このような事などなかった。


 私は自分の事も責めた。

 何故、もっと早く目が覚めなかったのか?

 自分がこの場に立っていなければ、一人の父親が死ぬ事はない。


 どうしたらいいか分からない私に、彼は語り掛けた。

「私が全て悪いのだ。守りたい者のために、人類をたくさん殺してしまった。そんな私を裁く君は、きっと辛い思いをするだろう」


 彼は一度、私をじっと見た。その瞳に魔王らしさはなく、私が知っている実の父親のような優しさを持っていた。そんな目をされば、なおさら苦しくなった。


「魔王として、約束しよう。これからは、魔族が人類を殺す事を禁じる。これで、君も少しは肩が軽くなるだろう。私は悪い者なのだ。なら、ウィル。やるべき事は決まっているだろう」


 

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