第6話
Z Life 6
腐っているのに歩く腐敗した五感で反応している。
そして「食べる」と言う行為を目的としている。
これしか解明できない。
頭を破壊すると停止するのも不思議である。感情は無いのだが神経は生きている。しかし腐ってるのである。何かと理由を着けたくなるのだが、全く理解出来ない。
俺と真奈美はお互いの意見を出し会いながら記録することにした。
俺達は何故腐った奴等が動いているのか…科学的に発達した人類が滅び始めているのか、運動神経も頭脳も奴等より遥かに優れているのにも関わらず腐った奴等に食われてしまうのか…。
一つの要因は「情」であるのには間違いない。昨日まで会話していた人間が次の日には甦ってくる。甦ってきた知り合いの頭を破壊するのに躊躇してしまう。その躊躇が食われる原因の一つである。もうひとつは固定概念、有り得ないと思い込んでいるから動く死体を理解出来ていない。そして「希望」である。治るのではないかと言う希望があり、むやみに腐った奴を救おうとしてしまうのである。
「私が噛まれたら…どうする?」
「…口を塞いで手を縛って連れて歩くよ…真奈美は俺が噛まれたら?」
「頭を破壊する」
俺達の一日の終わりの会話はいつもこの話である。
お互いに常に危機感を持っている。
廃墟と化した別荘地を散策する。
食べ物、医療品、生活に使えそうな物を集める。
「こんな感じのゲームあったよな…」
「さぁ…解らない…」
「現実になるなんてね…」
「嫌になってきてるでしょ」
「なにが?」
「なにもかも…」
「…」
「この世界になった理由はわからなくても良い…でも、これからの世界は解る!群れる人間とそうでない人間と、それとは違った人間が現れるの…腐敗者はそのうち居なくなる…増えすぎた人間のリセットをしようとしてるの」
「誰が?なんのために?」
「地球がバランスをとるために…解るでしょ?私たちが普通と思っていた世界と今の世界…どちらが生きてる実感してる?…私は今の世界になって生きてる実感をしてる」
真奈美は一軒の別荘を指差した。
「見て!」
指差した方向を見ると、テラスで景色を眺めているような仕草をしている腐敗者がいた。
「生前の記憶…」
「だとしたら…無意味に動いてる腐敗者は生前無意味に生きてたのか…群れてる奴等は生きてるときも群れていたのかな…」
「真奈美の言ってた、この先が解ったよ!コイツらみたいに統一性の無い生き物になるんだな!要するに野生化するって事だ」
「そう…人間も野性に返るの…天敵が少なくなったから自然と天敵が現れたの!それが腐敗者じゃないかと思う」
「なるほど!だから、生きてる奴を見たときの警戒心と腐敗者を見付けた時の警戒心が違うのか…」
俺は真奈美の話を信じようと思った。
俺達はこの地域の人間のコミュニティをいくつか見付けた。
大泉の大きな工場を要塞にして周辺で野良仕事をしている三十人位のコミュニティ。
小淵沢で腐敗者を捕まえてなにやら怪しい実験をしている十五人位のコミュニティ。
白州でドームで食物を作りながら周辺の腐敗者を駆除している四十人位のコミュニティがある。
それ以外に単独で生活をしているのが点々としている。
腐敗者達の数も減ってきているように思える。
俺と真奈美は遊牧民のように転々と暮らしていて、各コミュニティとも顔見知りになっていた。
略奪者もたまにいるのだが、俺達はコミュニティの仲間から銃とその他の武器や装備品を提供してもらっているから小競り合いくらいでだいたい収まるのである。
コミュニティの奴等は遠出出来ない為に俺達に物資調達の依頼をしてくるのである。俺達は武器やガソリンをもらう代わりに物資を届けるというバランスを取っている。
「大泉で子供が産まれたらしいよ」
「マジで?あそこの奴等はみんな若いしね」
「この世界に産まれて、これが普通だと思って生きていくんだろうね」
「そうだな…なんか不思議だね」
「私たちも子供作る?」
「…同級生か…」
「うん、その子の仲間を作ってあげる」
「それも良いかもね」
俺は右手でハンドルを握り左手で真奈美の右手を握った。
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