第4話

Z Life 4


「動くな!」

油断していたー。

 若神子のすももを食べながら線路脇で休憩していた。

「動かないけど何を向けてる?銃?」

「ボーガン」

「良いね」

「物資なら何でも持っていけよ…車の中にはもっとあるぞ…銃もあるからやるよ」

「物資は要らない」

声からして女である。

「殺しが目的か?」

「いや、違う」

「じゃあなんだよ」

「このまま去るから私を相手にするな!」

「…あぁ、わかった!女だから襲われるのを警戒してるんだな?」

「私を見ても構うな」

「はいよ…」

俺は後ろを振り返った。

 女は田んぼの畔を歩いていった。


 この辺りは昔仕事をしていたから何となくは地形が解っている。飲める水の川も果樹園も解っている。

 俺は少し奥まった耕作放棄してある畑のプレハブにキャンプしている。

 たまにあの女を見かける。この辺りに寝床を構えているらしい…。


 俺は水と果物と野菜を採って線路を歩いていると、一段下の田んぼであの女がキジをボーガンで狙っているのを見つけた。

 一発で仕留めた。

 思わず拍手してしまった。

 女は俺に気付いてキジを持って近づいてきた。

「思わず拍手してしまった」

女はストールで顔を隠している。そして、俺の荷物をチラ見した。

「半分やろうか?」

「この辺の人か?」

「いや、昔にこの辺で仕事をしてたんだよ」

「…」

「あんたは?」

「私は東京から来た」

「ボーガンうまいな!音も出ないし」

「これは奪った」

「矢は使い回しか?」

「そうだ」

「一本見せてくれ」

女は警戒しながら一本渡してきた。

 俺は、これは作れそうだなと思った。

「まぁ、お互い死なないように頑張ろうぜ…団地の方へは行かない方がいい!奴等が大量にいるぞ」

「解った。ありがとう」

俺は女を横切ってキャンプへ向かった。


 俺は鬼竹を集めて先端を桧を削った物を着けてボーガンの矢を十本位作った。

「今度会ったら使ってもらおう…んで、肉をもらってステーキ食べよう!」


 俺は昔自分が伐採した山に来ている。ずいぶん木が増えていて笹で被われている。

 人間が環境を破壊して、地球が環境を整える。人間が居なくなってようやく落ち着いて環境が良くなっていくんだなと思った。

 あの腐った奴等がこの先いつまで居るんだろうか…。腐ってるのに歩いていたり音に万能したりしている。多少の筋肉や五感が働いているのは確かなのだが…人間の身体に寄生する生き物が居るとは思えないし…。

 やはり細菌類なのか…。傷の度合いで蘇る時間も変わってくる事からして病原菌なのか…。まぁ、専門家じゃないから考えるだけ無駄だ。

 奴等によって地球が保全されていくことには間違いはない。それだけだ…。


 プレハブの上に登って星空を眺めた。

 なんだか昔よりも星が綺麗に見える気がする。空気も綺麗になってきているのかなと思った。

「こんばんわ」

下を見るとあの女がいた。

「こんばんわ」

「たまには他人と食事がしたいなと思って作ってきた」

女はタッパを3つ位抱えていた。


 プレハブの屋根で久しぶりの肉にありつけた。

 ハーブで焼いた鶏肉、ジャガイモの蒸かしたやつ、野草のソテーとやたらと凝った料理ばかりだった。俺はとっておきのワインを開けてあげた。

「腐ってたらごめんな」

「ワインは腐ってもワインでしょ」

「乾杯」

「乾杯」

山梨産ワインは腐ってはいなかった。

 女は東京から山登りに来ていたが、東京へ帰る電車の中であの騒ぎに捲き込まれて大月から此処まで時間をかけて歩いてきたと言っていた。一ヶ月前位からこの辺りを住みかにしていると言う。何度かコミュニティで世話になったがやはり人間関係のトラブルで大変だったらしい。

 俺もある程度の身の上話を聞かせた。自然保全の考え方や人間についてや、今後の事など…。

「自然にとってはサイコーじゃないか」

「人間に破壊されて…でも、チャンスが来た!そう言うことでしょ?」

「そう!まさに!人間が居なくなるのが一番!チェルノブイリだって人間が居なくなってめっちゃ豊かな環境になったからね!腐った奴等が世界に拡がっていたらサイコーだぜ」

「私達も死がすぐそこにあるしね」

「だな…でも、ある程度の行く先を見てみたい!だから、それまでは生きる」

「それもいいね!この町が森になっていく…見てみたいね!」

「でしょ?」

女は頷いている。

 久しぶりのアルコールに酔って、夜空を見上げながら寝てしまった。


 朝ー。

 女は居なくなっていた。

 俺には毛布が掛かっていて、食べたモノは全部片付けてあった。

「おはよう」

下から声を掛けられた。

「おはよう。昨日はごちそうさま」

俺は女に礼を言って下に降りた。

 女は俺が作ったボーガンの矢を持っていた。

「長さと太さは良いけど軽すぎるよ」

「やっぱり重量か…」

「でも、ありがとう」

「矢を作って、代わりに肉をもらおうかなと思ってね」

「なるほど!じゃまだまだこれじゃダメだね」

「厳しいね」

女は笑っている。


 しばらく矢について話してから女は帰って行った。

「また遊びに来るよ」

「おう、俺も話し相手がいると助かるよ」

少し声が渇れていた。

 久しぶりに長く喋ったからだった。

 友人…知人…隣人…よく解らないが話し相手だと思う。同じ環境下で生きている友と言っても良いのではないかなと…思う。

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