第2話

Z life 2


 大泉にあるコミュニティは数十人いてそれぞれが自然派であった。

 五軒くらいの別荘地を木やコンテナで囲ってコミュニティを作っていた。

 仕切っているのは鎌田というヒッピーと会田というキャンプマニアであった。二人は設備や住居整備、農作物など食料の管理等を役割を決めて生活バランスを取っていた。

 俺はバックホーやクレーンその他の工場関係はある程度の知識があって会田と行動を共にする機会が多かった。

 個人的に仲が良かったのは久保という猟師のおっさんで銃の使い方を教わり、たまに物資調達へ同行した。

 自由気ままな俺は積極的にも消極的にも何事にも参加はしないでいた。


 鎌田はこのパンデミックは神が与えた人類への試練だ。このコミュニティから人類を再び再建していく…と、毎晩のように皆に聞かせていた。会田は、それに関しては無関心で安全に規律の中で生活をしていつかは救助隊が来ると信じていた。

 俺はなんとなくこのコミュニティに世話になっているから、どちらにも適当に経面っていた。


 ある日ー。

 斎藤という男の嫁さんが鎌田の右腕的存在の守田にレイプされた。斎藤は会田に相談して守田を拘束した。

 会田は罰として守田をコミュニティから出ていかせる事を皆に言ったが、鎌田は違っていた。

「このコミュニティの全てのものは全ての住人の共有財産だ。今までの生き方からすれば犯罪かもしれないが、斎藤さんと奥さんは受け入れてほしい…我等が団結して一つの家族として生きていくことが人類の希望なのである」

「鎌田、レイプはどんな理由があったとしても犯罪だ」

「いや、受け入れることが出来ないのであれば斎藤夫婦が此処を出ていくべきだ」

「そんな事はさせない!おかしいだろ!ここは生き残った人達の集まりであって宗教や人類存続の為の場所じゃない!俺たちの他にも同じように力を合わせて生きている人たちがいるはずだ。その人達と連携をとってこの先生き延びていくことが重要だぞ」

「会田…ガッカリだよ…お前達が働けるのは俺達が食料を作っているからだぞ!俺は選ばれた人間だと思っている!君達は俺を受け入れていれば生き残れるんだ!警備隊!会田と斎藤夫婦を拘束しろ!」

その場がざわついた。

 会田と斎藤夫婦は拘束されてコンテナへと入れられてしまった。


 俺はそそくさと自分の寝床に帰って出ていく準備をした。すると、久保さんが俺のもとへ来た。

「レン君はどっちに着くんだい?」

「久保さん…俺は出ていくよ…内緒にしてくれよ」

「なんで?外は危険だぞ」

「ここも同じだよ」

「俺はもう家族もいないし年寄りだから此処に留まる」

「いいよ…俺は自由だからギクシャクするのが嫌なんだよね」

「これやるよ」

久保さんが銃と弾を大量にくれた。

「警備と物資調達で使うでしょ?」

「俺は三丁持ってるからね」

「そうなの?」

久保は笑っている。

「ありがたくもらっておくよ…」

 俺はその夜に用水路に跨がっている水道管を渡ってコミュニティから脱出した。


 コミュニティが見える位置にある金網に仕切られた大きなコンクリートの貯水庫に登って、しばらくの間、留まる事にした。

 三日くらい様子を見て、何事もなかったら戻るかこのまま一人旅するか決めようと美しい星空を見上げながら、せしめてきたカップラーメンと缶詰を食べた。


 次の日の昼過ぎー。

 鎌田と警備隊とその他の何人かが畑仕事に向かったのを見計らって、会田派の男二人がコンテナの鍵を酸素で溶断しようとしたが馴れない作業だった。


 大きな地響きと熱風で俺は目を覚ました。

 コミュニティの方を見ると黒煙が立ち上っていたー。


「小さな原爆だな…」

俺は様子を見に行こうと思ったが…止めた。


 人間が集まると何かしら事が起こる…バランス取りながら生きていってもどこかで崩れる…。

 それは昔も今も変わらないー。昔というのは腐った奴等が現れる前の事だ。


 俺は大泉から長坂町鳥久保辺りから七里岩を降りて白州方面へ向かうことにした。


 途中、デイリーストアを見つけてまだ荒らされて無さそうだったから銃を持って中に入った。

 保存食品がまだ手付かずであり、俺は夢中に漁った。


 バックパックに詰めるだけ詰めて入口を見ると三匹溜まっていた。

 俺は銃を構えて奴等の頭を狙った。

 甲高い音と共に肉片が飛び散ったー。

 続けて撃った。

 直ぐ様、薬莢を抜いて新たに装填して残りを撃つと、店内の奥からゾロゾロと現れた。

 俺はヤバイと思って慌てて店内から外へ出た。

 走って遠くへ行こうとすると道に腰くらいの位置にロープが張ってある。後ろには奴等がゾロゾロと出てきた。


「こっちだ!」

声がした。

 ロープの先の車から手を振っている。

 俺はロープを越えて車へ走った。


 三菱デリカ…窓から長髪の男が顔を出した。

「見てろよ」

ロープを指差した。腐った奴等がロープに絡まって身動き取れないでいる。

「お!」

「ロープワークだよ」

「ありがと!」

「銃は最強だけどかなり危険だよ」

「だな、今回で気付いたよ」

「どこまでいくんだ?」

「白州方面へいこうと思ってる」

「途中まで乗せてやるよ…ループ橋の下まででいいか?」

「助かるよ」

俺は後部座席へ乗った。

 デリカの中は物資が詰まっている。

「あんたは一人旅かい?」

「そう…一人が気が楽だ」

「名前は?」

「アンディ!」

「日本人だろ?」

「おう!でも、変えた!アンディって名前にしたの」

「なるほどな」

「お宅は?」

「レン」

「お一人様かい?」

「コミュニティが爆発した」

「おお!さっきの爆発か?」

「そそ」

「何が起きた?」

「派閥同士の抗争じゃないかな…俺は前の晩に逃げてた」

「はは…逃げるが勝ちだよ」

アンディはタバコをくわえて俺にもくれた。


 畑の真ん中に佇む奴…トラクターの周りをウロウロしてる奴…元々農家だったのかー。

 町中を避けて下笹尾の山道からループ橋へ向かった。

「アンディは地元かい?」

「いや、移住だよ」

「詳しいな…」

「レンは?」

「俺は流れ者…こっちでキコリしてたよ」

「格好いいな!」

「アンディは?」

「俺はバーやりながら農家してたよ」

「そっか…家族は?」

「嫁が食われて、娘を嫁が食って…俺が二人とも殺したよ…でもよ…皆そうだろ?」

「そうだな…俺でもそうするよ」

「ありがとよ」

ループ橋の近くのハッピードリンクで降ろしてもらった。

 俺はデイリーストアでとったビールを二本デリカに置いてきた。

 アンディは「またな」と言って長野方面へ消えていった。

 

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