#貳 『狗、真を欺く。』
覇吞は少なくとも、眼前の狗の容姿に違和感を感じるほどの常識は持ち合わせていた。
ショートの髪はくるくるとしていて、その丸い瞳と小さな口は、矮躯と相まって覇吞は思わず彼女の下腹部を少し引いた手で拳を軽く握って繰り出し、着弾直前に力を込める高速パンチをしたくなる危険な衝動に陥ったが持ち前の明鏡止水の澄んだ心で邪な雑念を振り払う。
そして、清らかなその心眼で狗を視た時、その溢れ出る違和感という名の時空の乱れを観測した。
そう、狗はその身に覇吞と同じく潮呼抄の中等部を表す制服、スカーフを纏っている。
だが、明らかにその身体は俗世の称する小学生なる存在に相違ないものだった。
これらの謎から恐らく多くの人間が想像する推理は次の三通りだろう。
一つ、自らの意思又は自然の摂理で肉体の成長が止まっている自身の肉体を愛するペドフィリア。
一つ、上記の肉体退化版。
一つ、本来の肉体から物理的又は精神的に分裂して生まれたはぐれ個体。
だが、その頭部内の神経細胞に知の泉を無数にに保有する覇吞にとっては真の答えを導き出すことは容易なことであった。
しかし、純真無垢なる覇吞にはそれを隠し遠回しに目的を述べる狗の心中を察する程の下品な心は兼ね備えてはいなかった。
だから彼女はそのまま見破ったと宣告するように、ビシりと人差し指を狗の額へ向けて真実をその口から大音量で述べるのだった。
「全ての線は繋がったわ
………狗、あなたさてはボッチね!」
「な、ななななにぬねななにをんてきとぅーなくとをいっっつているろろるぬであるぅか
我はれがそのような下等ぬぁそそんずぁいのはじゅがぬぁいでぅはなぁぃか」
平静の様にして狗は返したが、心眼で捉えた覇吞はその額に浮かび滝の如く流れ落ちている玉のような汗を見逃しはしなかった!
そして形勢の建て直しを許しはしない!
続けて突き出した人差し指を狗の決して高くない鼻の頭へグリグリ押し当てて追撃する!
「証拠はまさに私と同じ制服を着やがっているということね
これは本来中等部のもの、でもあなたはどう見てもぺドぺドしぃ雰囲気で殴り心地の良さそうなサンドバッグの形をしているわ
これはつまり、その頭部内に収容している機関、すなわち脳味噌が人類における同年代の生体の平均を大きく上回ったために生じる学生という立場ならではの事象──飛び級をしたということね!」
「ぅぐっ」
「さらに畳み掛けるわ!
あなたはそのために親しい友人たちと遠くなり孤独感を抱かざるを得なかった!
だから、たまたま通りかかった同じ制服スカーフの気安く快諾しそうなアホそうな女、つまり私へ友達申請をしたのよ!」
「ぐふぅっ」
「愚かだったわね,,,
私、アホじゃないの」
完全に全てを見透かされた狗は全身震わせながらサッと後ろへ飛び退けると臨戦態勢をとった!
それでも焦ることのない覇吞は自らの長髪を手で梳かしながら彼女の出方を汚物を見下すようにして待ったのだ。
荒ぶる血潮とキリマンジャロ物語 万城目★ガラシャ @NekoNeko3131
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