第3話
智「お、おう笑ありがとう」
少し考える。言ってみれば、しーちゃんにとってはあまり馴染みが無い話になる。結論だけがしーちゃんにとっては意味があることで、それ以外はあまり真面目に語ることが躊躇われた。
智「しーちゃん的には多分面白くないかもな…」
雫「言葉の綾!ちゃんと全部聞くって!」
こう言われては智も断る理由は無い。むしろ、これ以上渋るのは単に自分の甘えに思えた。
智「当たり前っちゃ当たり前なんだけど、僕にとっては結構大事なことだから落ち着いた所で話せないかな」
雫「まあ、そういうなら。明日の放課後開けとこうか?」
智「うん、じゃあ、そういうことで」
また明日と送り、携帯を置いた。一日を通して、同じことばかり考えては頭を痛めた智は、ここに来てどっと疲労を感じた。一段落…はしていない。まだ始まっていない。強いて言えば、序章が終わったところであろうか。
翌日連絡をとり、放課後に駅で待ち合わせをすることになった。智も雫も現在は帰宅部で、同じ最寄り駅ではあるものの、朝は智がのんびりしていたり、放課後は雫が友達と話したりでなかなか居合わせる機会は少ない。知っている仲とは言え、待ち合わせしてまで会うということはこれまで全く無かった。
「改めて待ち合わせして話すって、こんなに緊張するんだな…」
と、ぼやく智。空が青い。ベンチはひんやりしている。雫は少し遅れているようだった。早く来てくれ、気持ちが変わる前に。
「ごめんおまたせ、待った?」
「あ、うん、待った。十分も遅れたのは誰でしょう」
「ごめんごめん、ちょっと友達がね」
「はいはい」
早く話してしまいたい気持ちと、ここに来て躊躇う気持ちに挟まれ、反応がぎこちない智。
「それで、改まって相談って何」
智の横に腰掛ける。そして、智は重たい口を開く。智と同じく、遠い空を見つめて話を聞いた。
「もっと頑張っていこうと思うんだ。あの子のことを、何というか、もっと真剣に」
あの子。
「心の鎖みたいなのが、ようやく、突然取れてね。取れてしまって…。」
要領を得ないが、智の言いたいことを、大切に拾っていく。
「どうしようかな、なんて考えようにも、最初からどうすることも無かったんだと思う、今は」
拾い切れているだろうか。
「つまり、智はあの子ともっと仲良くなっていきたいってことなんだね」
勘違いかな。
「まあ、そういうこと」
顔は見られない。遠くの空をただただ見つめる。流れる雲。空を区切る電線。遠くに聞こえる車の走行音。無言が漂う間に、いくつの車が通っていったのだろうか。
「それで、協力よろしくって感じですか」
「そういうこと」
雫は、去年から智とあの子を介して交流を持った。今までの、智の様子を遡ってみる。そして、度々納得がいった。なるほど、そういうことね。そうかなとは、思っていたがあまり思いたくなかった。それを認めたら、まるで自分はあの子の付属品として智に見られていることになってしまう。そう思われていた。
「そうですか」
雫は、はぁーっと大きく息を吐く。私は、どうすればいいんだろう。
相談に乗ってよ、智。
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