第34話 溜めて溜めて、の結果
秀将は祈るような気持ちになってきた。
自分が勝負しているわけでもないのに頼む勝ってくれという気持ちになる。
高校受験や大学受験の結果を待つ間のような、そんな感覚。
大丈夫、信じろ。
いや、でももしかしたら……
脳内でプラスとマイナスの意見が入り乱れて忙しい。
結果はなかなか出ない。
徳丸が難しい顔つきで呟く。
「うーん遅いね。審査が難航しているのかな」
秀将はそれを聞いて更に不安になってくる。
「やっぱり接戦なんですかね……」
シリウス系の仕上がりも太陽系の仕上がりも素晴らしい。
だから接戦になるのも仕方ないと言える。
「接戦なんじゃないかなあ、まあ審査する人? 星? たちの芸術感覚が我々と同じかどうかは分からないけどさ」
「確かに、審査員がどんな美的感覚なのかって謎ですね。そういえばこの手の競技ってスポーツとかでもそうですけど、点数付けるっていってもどうやって決まるんでしょう」
「ああ、それが何故その点数なのか、そしてその点数は妥当なのかっていうのがはっきりしないよね。単純に一番速く走ったら勝利っていう風に明確な基準があるのとは違うからね。でもあれじゃないかな、一定の評価項目があって、例えば五人の審査員がいたら五人それぞれが違う趣味で点数付けるっていうのも織り込み済みなのかもね、スポーツで言えば、だけど。趣味の違う五人が点数を出すと結果的に幅広い視点で出た総合の点数ってことになるし」
「えーそうですか? 基準がバラバラだと偏った点数になりそうな気がしません?」
「うーん分からないなあ。専門外だから何ともってところだね」
会場では一部でEarth! Earth! と地球ちゃんを応援コールが起きる。
別のところではSolar System! Solar System! とコールが起きているがこれは太陽系を応援しているのかもしれない。
だんだん秀将も応援したくなってくる。
コールの波が秀将達の所にもやってきて、周囲が騒ぎ始める。
秀将もそれに便乗して叫んだ。
「地球ちゃん! 地球ちゃん!」
隣で徳丸も声を張り上げる。
「地球ちゃんLOVE!」
秀将も負けじと地球ちゃんコールを繰り返し、徳丸は年甲斐も無くラヴコールを繰り返した。
会場は応援の声で包まれた。
秀将は何かの日本代表を応援しているような感覚だと思った。
実際、これは我らの代表を応援しているのだ。
どの国でもなく、人間全ての代表として、星が競技に参加しているのだ。
我らが地球。
我らが太陽系を。
会場の外を見渡せば無数の星がある。
いわばその一つと同じだ、この太陽系も。
しかし宇宙にどんなに星があっても、我々の故郷はこの太陽系なのだ。
だから我々の代表として太陽系を応援したくなる。
国とか関係無く、会場が一つになっている。
応援は最高潮だ。
『お待たせしました』
突然地球ちゃんの声が脳内に響く。
秀将はおおっと思って静かになる。
次第に会場が静かになる。
『審査結果が出たようです!』
大きなディスプレイが現れる。そこでは派手なイラストが動き回る。
秀将は緊張が急激に高まっていくのを感じる。
結果を聞くのが怖い。
でも知りたい。
できるなら早く知りたい。
しかし焦らされる。
どっちだ。
どっちなんだ……?
「あーもう、この溜め要らないから!」
サクッと発表してくれれば何と気が楽か。
「随分溜めるよね、ここ」
テレビ番組のようなことはしなくて良いのに、と秀将は思う。
そして遂に地球ちゃんの声が響く。
『シリウス系!』
「嘘?!」
秀将は愕然としてしまう。
会場では悲鳴が上がる。
『ではなく我々の勝利です!』
ディスプレイの映像が切り替わる。
そこには太陽系が映し出され、CGの花火がドドドドッと咲いた。
「そのフェイント要らねええええぇ!」
秀将は思わず叫んでいた。
心臓に悪過ぎるフェイントだ。
「いやあ一瞬冷っとしたよ!」
徳丸もたいそう驚いたようだ。
一瞬遅れて会場で歓声が上がる。
「もー意地悪し過ぎでしょ地球ちゃん」
「皆を驚かす気満々だよねこれ」
『接戦でしたので私もハラハラドキドキしました、ですから皆さんにもハラハラドキドキしてもらおうと思って』
「やりすぎだよ地球ちゃん!」
『やり過ぎくらいがちょうど良いってベテルギウスさんが言ってました』
「あんなでかいのギャグでしょ、あれはやり過ぎっていうかやり過ぎ過ぎだから!」
ディスプレイではホログラムの紙吹雪が乱れ飛んでいる。
ファンファーレが盛大に鳴っている。
全然知らない人が秀将に抱き着いてきたり握手してきたりする。
もう会場は揉みくちゃだ。
「いやー何にせよ良かったね、勝利だ。太陽系おめでとう!」
徳丸がそう言ったので秀将も便乗することにした。
「太陽系おめでとう!」
すると周囲の外国人達も何となく意味が分かったらしく、それぞれの国の言葉で祝福の声を上げ始めた。
そしてそれが波紋のように広がっていった。
会場が祝福に包まれた。
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