第33話 地球ちゃん、黙る
会場に動揺が広がる。
おおぉ……こんな感じの感嘆の声が全体を満たしていく。
秀将は落ち着かなくなってきた。
「こ、これは……んんんん」
「軌道が綺麗だね、見てみなよ∞マークみたいじゃないか」
徳丸はいたく感心しているようだ。
それがまた秀将に焦りを与える。秀将は険しい顔で顎を弄り始める。
「うぐぐぐぐ……」
「そんなに困った顔しなさんな。これは芸術を競うものなんだからさあ」
「そうは言ってもですよ、そうは言ってもですね……」
秀将は負けたくない。
どっちが勝っても素晴らしい、それは理想的なんだけど。
でも、どうせなら勝ちたい。
太陽系に勝ってほしい。
そう思ってしまう。
確かに太陽系は芸術的だ。
芸術的な姿になった。
徳丸が∞マークと表したものは秀将にはトンボの羽のように見える。まあ∞マークでも良いんだけど。
しかもそれが2つだ。
火星とシリウス系の星でトンボの羽が一組。
金星と水星でトンボの羽がもう一組。
これは素晴らしい。
素晴らしいが……
これで、安心していられなくなってきた。
さっきまでの余裕が吹き飛んだ。
リプレイが続く。
シリウス系がディスプレイに映され、早送りみたいに速度アップして回り始める。
「安心しなよ加賀美君、シリウス系の仕上がりはバッチリじゃないか」
徳丸が言うように、シリウス系の仕上がりもバッチリだ。
今のシリウス系は、シリウスがいて、周囲を連星や三重連星が周回している。
それはもはや神秘的とさえ言えた。
「おおぉ……」
秀将はこれを見て感嘆の声を上げる。
「でしょ?」
「いや、でも、確かにこっちも凄いですけど太陽系の方も凄いじゃないですか。どっちになるか分からなくなってきましたよ」
どっちも凄いなら、もうどっちが勝つか分からない。
やっぱり不安だ。
「そこはほら、地球ちゃんを信じるしかないよ」
「地球ちゃんを……」
信じる。
信じるしか……
まあ確かに、信じるしかない。
こんな時に地球ちゃんが安心してくださいと言ってくれれば良いんだけど。
しかしこんな時に限って地球ちゃんは黙っている。
そんな状態が続くとまた不安になってきた。
「地球ちゃん、何も言いませんね」
「そうだね、どうしたんだろう」
徳丸もちょっと気になってきたようだ。
「まさか、地球ちゃんも不安なんじゃ?」
「いやまさか、地球ちゃんなら大丈夫だろう」
しかし地球ちゃんが語り掛けてくることは無い。
リプレイが続いている。
皆も地球ちゃんが黙っていることを変だと思い始めたのか、何やら騒がしくなってきた。地球ちゃんに呼び掛ける者が続出している。
それでも地球ちゃんからの返事は無い。
これはいったいどういうことか。
会場には混乱が広がっていく。
地球ちゃんが無言だと悪い予感が膨らんでいってしまう。
「まさか、地球ちゃんが諦めたとか?」
秀将はまた落ち着かなくなってきた。あーもうどうしたらいいんだという感じで無駄に手足を動かしてしまう。
「いや流石にそれは無いんじゃないかな」
徳丸も思案顔にはなっている。ただし秀将のような動揺は起こしていないようだ。
「だってこんな時に何も言ってくれないなんて、今までこんなこと無かったじゃないですか」
「まあこんな時には何かしら言ってくれそうではあるけどね。必ず喋るってわけでもないのかもしれない。それか、皆を不安にさせるためにわざと黙っているとか」
「そんな焦らしプレイいらないですよ。大丈夫なら大丈夫って言ってほしい」
「そこはほら、いたずら好きなのかもしれないし」
「心臓に悪いの嫌なんですよ。あーもう早く結果出てくれないかな」
会場はざわざわとうるさくなってくる。秀将と同じように落ち着かない人が多いようだ。
会場の外に目を向ければ宇宙そのもの。
今現在、地球は三十連星の一員となってシリウスを周回している。
シリウスの方は何も分からないほど眩しい。
月より遥かに大きな星が地球の周囲を二つも回っている。
これが太陽系にいた時との違い目。
しかし、それ以外の星の海は同じようなものだ。
宇宙はどこに行ってもこうなのかもしれない。
宇宙って広いんだなとしみじみ思う。
そして会場のざわつきに目を戻すと秀将はまた不安に襲われてしまった。
早く結果が出ないかな……
リプレイが続いていたが、遂に終わった。
『投球タイム終了です。次は審査タイムになります』
地球ちゃんの声が聴こえる。
今まで黙っていたのに突然声が聴こえるとビクッとなる。
「遂に審査か……」
徳丸が顎に手をやって神妙な顔になる。
秀将は今度は結果が出るのが怖くなってきた。
これ、どうなっちゃうの?
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