第31話 微妙な投球
星は投げられた。
シリウス系の惑星が自身の星系を離れ、星間空間へ突入する。
秀将はディスプレイでシリウス系の姿を確認。投げられた星がどの星であるか確認するためだ。やはり事前に予想していた通りだ。連星でも三連星でもない星がシリウス系から姿を消していた。
「よし、よし、やっぱりあの星ですよ。祭のことだいぶ分かってきましたよ」
したり顔の秀将に隣の徳丸も嬉しそうな顔をする。
「祭マイスターになってきたね。宇宙に詳しくなくても楽しめるのがこの祭の良いところだね」
「いやあ信頼できる解説者がいてこそですよ」
「いやあそれほどでも……あるかなあ」
そんな社交辞令みたいなことも交わしつつ、秀将は新たに出現したディスプレイに目を向ける。
新たなディスプレイに映っているのは射出された星のドアップ映像だ。
それが猛烈なスピードで宇宙空間を駆け抜けていく。
背景の星たちがビュンビュン流れていく。
星間空間はダイジェスト版を放送しているみたいにあっという間に終わりだ。
ここで新たなディスプレイも登場。そこには太陽系だけが映し出される。
射出された星が太陽系の圏内に入ってくる。
いったい今度はどの星を狙ってくるのか。
今の太陽系の姿を見てみよう。
太陽。
それから水星・金星・火星。
「太陽系には大きな星が一つも無いですね」
秀将は改めて感想を零した。
元の姿からすればだいぶ寂しくなったと思う。
「巨大惑星が無くなると全体的に小ぢんまりした感じになるね」
「そういえば惑星って何でみんな同じ方向に回っているんですか?」
「ああそれは、太陽ができた時に回転方向が決まっているからだね」
「つまり、最初から?」
「そう。塵やガスが漂っていてそれが集まると太陽みたいな恒星になるんだけど、最初は原始惑星系円盤といって恒星の卵を中心とした円盤ができる。もうこの時点で恒星の回転に合わせて円盤も回転しているから、その円盤からできた惑星はみんなその方向に回転することになるんだね」
「円盤ですか? 土星みたいな?」
「土星の環を100万倍くらい大きくしたものをイメージすると良い」
「めっちゃでかいですね」
「太陽系で言うと太陽系全部を作った円盤ってことになるからね。思っているよりよほどでかいものを想像すると良い」
「太陽系全部を作った円盤かあ……」
秀将にはそんな壮大なものは想像ができない。
とにかくでかいという雰囲気だけは伝わったが。
シリウス系の惑星が太陽系に突入してくる。
今太陽系で最も外側にあるのは火星だ。
その火星軌道がだんだんと近付いてくる。
はたしてシリウスはどの星を狙ってくるのか。
火星か?
それとも金星か?
はたまた水星か?
シリウス系惑星の進行に合わせて火星が丁度やってくる。
これは当たるか……?
秀将が息を呑んで見守る。
会場中が静かに見守る。
これは当たるのだろう。秀将は自分が当たるわけでもないのに身体に力が入る。
シリウス系の惑星と火星がぐんぐん近付く。
そして衝突。
会場ではおおーっと声が上がる。
星の衝突はダイナミックだ。
映像で観るだけでもその規模の大きさが伝わってくる。
当たった周辺が赤熱し、破片が舞い、衝撃波が広がっていく。
星が衝突により軌道を変える。
シリウス系の惑星は更に太陽系の内側へ向かうようだ。
たぶん、一回の衝突だけでは終わらない……秀将はそんな予感があった。
きっともう一回か二回か、何かあるはずだ。
太陽系を映したディスプレイを見てみると、シリウス系の惑星は金星軌道へ近付いていっている。
しかし金星はまだやってこない。
金星はまだ充分に遠い所にあり、シリウス系の惑星は金星軌道を素通りする。
まだ投球が終わった気配は無い。
残るは水星だ。
これは水星に当たるということか。
シリウス系の惑星が徐々に水星軌道に接近。
水星もちょうどやって来るところ。
両者の距離が縮まっていく。
地球ちゃんは今シリウス系で周回しているため、会場の外の宇宙を見ても星の動きが見えることは無い。
恐らく太陽系で見ていたら星が移動していくのが見えただろう。
シリウス系の惑星が水星を掠めるように当たる。
また会場でおおーっと声が上がった。
また軌道が変わり、シリウス系の惑星は更に内側、つまり太陽の方へ向かう。
太陽に正面からぶつかるのではなく、太陽に近いところを通り過ぎた。
シリウス系の惑星は彗星のように尾を引きながら太陽付近を半周し、それから遠くへ離れていった。
これで投球は終わったようだった。
しばらくは余韻が続く。
しかし次第に冷静になってくると、気付くことがある。
今回の投球で何が起こったのか?
一回、二回と星に当てた投球は確かに見事だ。
しかし、言ってしまえば当てただけではないか?
初回の投球のように見た目の派手さがあればすぐに何かとんでもないことが起こったのが感じられる。
だが今回にはそれが無いのだ。
「これって、どうなったんですかね……」
秀将がそう呟くと隣の徳丸はうーんと唸るだけだった。
多くの人が同じように思ったようで、会場ではどう反応して良いか分からない微妙な空気がだんだんと支配していった。
果たしてこの投球はどんな結果を生んだのか。
リプレイが待たれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます