第30話 星の貴賎
地球ちゃんの見事な投球はしばらくリプレイが流された。
それは何度見ても素晴らしいと思ってしまうものだ。
最初はシリウスの周りは太陽系と同じように惑星が並んで周回していた。
だが今のシリウス系はどうか。連星も三連星も周回している。元の姿からは想像もつかないようなものになっている。
これが星系輪舞祭だ。
秀将は得も言われぬ高揚感に包まれている。
最初のシリウスの投球が凄かったので太陽系が負けてしまうのではないかと不安になっていた。
しかし今の投球が終わってみたらそんな不安はすっかり無くなってしまった。
地球ちゃんならやれる。やれるのだ。投球前は若干不安だったけど。でも投球が終わってみればなんてことは無かった。地球ちゃんは凄かった。
もうこのまま審査に突入してしまいたい。
気持ちがはやる。
だが相手の投球がまだ残っている。それが終わるまで結果は出ない。
今、秀将達がいる地球ちゃんはシリウスを公転している。
シリウスの強烈な輝きを浴びながら三連星になって回っている。
シリウスの方向に目を向けても光が強過ぎて何も見えない。流石夜空で一番輝く星。
ただ、色んな恒星を間近で見れるのもこのお祭りの醍醐味だと秀将は思った。
リプレイが終わる。
各種浮遊しているディスプレイ達が次々消えていき、シリウス系と太陽系を纏めて映した大きなものだけが残る。
大きなディスプレイの中でシリウス系が手前に映される。
現在のシリウス系の姿だ。
画面奥側には小さく太陽系。
しばらくその場で惑星達が回るのを眺める。
新たなディスプレイが出現する。そこにはシリウス系のみが映し出される。
それは投球の始まりの合図だ。
「始まりますね」
秀将は自然と言葉が出てくるのを感じていた。
自信がある時は安心して見ていられる。
だから気持ちに余裕があるのが声の調子にも出てきていた。
「シリウスは最後に何をしてくるかねぇ」
隣で腕組する徳丸も余裕がある様子で応じた。
シリウス系の回転が速くなり始める。
秀将達の会場の外の景色も高速で移り変わっていく。
シリウスの投球だ。
もう投げる星は決まっているだろう。
あの星だ。
シリウス系の映っているディスプレイに注目。
投げるとしたらあの星しかない。
連星でも三連星でもないものが一つだけ残っている。
その星しかないだろう。
そう思って秀将はディスプレイを見つめる。
ぐるんぐるんとシリウス系が回る。
太陽系よりも広い星系が広大な軌道を描いて回る。
シリウスはこの投球で何を狙ってくるのか。
どんな手なら残っているのか。
今の太陽系はどうなっているのだろう。
太陽系は寂しいものだ。
内側から水星・金星・火星。
以上。
木星は最初に投げたし、地球ちゃんも投げた。
土星・天王星・海王星・プロキシマは全部ブラックホールに飛ばされてしまった。
星が少なすぎる。
まるで瀕死の姿を見ているようで辛い。
「太陽系って星が少なくなるとこんな感じになるんですね」
「惑星が少なくなると雰囲気が大きく変わるもんだね」
徳丸が顎に手を当ててそう言う。
その声にはやはり少しの寂しさが混じっているようで秀将に同意していることがうかがえた。
「仮に、惑星が無くなっちゃったらどうなるんですか?」
「無くなったら?」
「ええ、太陽系って沢山の星を抱えてるじゃないですか。それが全部いなくなっちゃったらどうなっちゃうんだろうって」
「まあ……特に変わらないだろうね。太陽は今と変わらず天の川銀河を周回するだろう」
「変わらないんですか?」
それは何だか残念なことのように思えた。
だって太陽系の惑星達は太陽の家族みたいなものだ。
惑星達がいなくなってしまったら大きな影響が出るんじゃないかと思ってしまう。
「なんせ太陽系の質量の99%以上が太陽一つで占めているからね。木星でさえ太陽と比べるとかなり小さいんだよ。だから太陽以外の全てが太陽系からいなくなっても影響は1%未満ってことになる。ほんのわずかしか影響が出ないのさ」
「え、それじゃあ太陽系ってほぼほぼ太陽ってことなんですか?」
「まあ、ボスがでかすぎるってことだね」
「他が束になっても1%にもならないって世知辛いですね」
「恒星を形作った後に残ったガスや塵で惑星ができたようなものだからね。余りものでは主役に勝てない」
「でもほら、惑星なら投げることができるじゃないですか」
『その通りです! 親玉には親玉の役目が、それ以外にはそれ以外の役目があります』
「地球ちゃんが言うと説得力あるね。星に貴賎なしだ」
『ええ、でも準惑星以下は下賎な者どもです』
「めっちゃ貴賎あるな!」
何か見えない階級が存在するらしいことがここで判明した。
そうこうしている内にシリウス系の星が射出されたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます