第29話 神業の投球
会場から見える景色はだいぶ様変わりした。
シリウスの超強烈な光。
巨大な月が二つ。
月が二つというのはある意味漫画で読んだことのある異世界のようで面白い。月と言うには巨大過ぎるかもしれないけど。
『上手くいきました! 際どい所を狙ったんですがバッチリでしたね!』
地球ちゃんも大喜びである。
「ブラボー!」
徳丸がいち早く声を上げる。アイドルに声援を贈るが如くの熱の入れようだ。
会場のあちこちから景気の良い声が上がり、手を叩いたり指笛を鳴らしたりする人が出てくる。
盛り上がりは最高潮だ。
秀将も何か凄いことが起きていることは分かった。
いったいどうやってこの状態に持っていったのか?
それはこれから始まるリプレイに期待だ。
「いやあこれはびっくりしたよ。加賀美君、三つの星がうまい具合に釣り合って回るなんて信じられるかい? これはとんでもないことだよ。まったくもって精密な投球をしてくれた」
「あー何か、凄いですよね」
秀将は若干分からないところもあるので曖昧な相槌だ。星を三つ並べれば回るんじゃなかろうかという気持ちがどこかにある。どちらかというと三つ並べるための当て方が凄いのではないかという心持だ。
そんな二人の認識のずれはありつつも、リプレイの始まりが待ち遠しいのには違いが無かった。
会場のディスプレイが変化し、リプレイが始まる。
皆が画面にくぎ付けになる。
成功した時のリプレイを見るのは気持ちが軽い。ワクワクする。
画面の中で太陽系が激しく回り始める。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
アナログ時計の早回しみたいに。
そうして目いっぱい回って。
地球ちゃんが射出される。
太陽系に別れを告げて星間空間へ。
星の海が猛烈な速さで流れていく。
いったいどれだけのスピードが出ているか分からない。
とにかくあっという間にシリウス系まで到着した。
シリウス系に残っている星は……
中心にシリウス。
周囲を回る星が一、二、三、四……木星を入れて五つ。
地球ちゃんが最初に向かったのは最も外側の星。木星とシリウス系の惑星が連星になって回っているところだ。
ここは衝突する手前で地球ちゃんが通り過ぎる。
すると地球ちゃんの軌道が変わった。
「木星ともう一つの星の引力が働いたんだね」
徳丸が解説してくれる。
「さっきは気付かなかったです」
確か木星が見えるという話になって遠くに見えたのは覚えている。ウネウネ二つの星が動いていたのだ。それに夢中になっていて軌道が変わったことに気付かなかったのかもしれない。
「木星だけでも強力な力が働くのに、それに釣り合う星の分も加わるからね。ちょっと近付いただけでも強烈に引っ張られるさ」
「これも計算して投球してるんですか、プロ技ですね」
「いやあまったく芸術的だよ。こういうのも点数になっているのかもしれないね」
秀将は確かにそうかもしれないと思った。
芸術点を競うお祭りなのだ。
こうして素晴らしい投球が出てくると審査する方も楽しいだろう。
次に地球ちゃんが向かったのは一つ内側の星。
ちょうど相手の星がやってきたところに地球ちゃんが突っ込んでいく。
二つの星が近付いていくとスローモーションになる。
画面の中でゆっくり近付いていき、遂に衝突の瞬間を迎える。
星がたわんで、それからすっ飛んでいく。
相手の星も地球ちゃんも、シリウス系の更に内側へ飛んでいく。
次はシリウス系の内側から二番目の星だ。この星の公転軌道に地球ちゃんが差し掛かり、しかし当たることは無かった。
そしてシリウス系最内の惑星へ。
ここで初めて分かったが、最初に当たったシリウス系の惑星も少し離れた軌道でやってきている。このまま行くと、この星と地球ちゃんで最内の惑星を挟む形になりそうだ。
最内の惑星の公転軌道へ地球ちゃんが差し掛かる。
ここでまたスローモーションになる。
地球ちゃんと、シリウス系最内の惑星が近付いていく。
そして掠めるように当たる。
そうすることで互いが離れすぎず、いったん離れてから互いに引き合い始めた。
複雑な軌道で回りながら進む。
この二つの星が互いに回りあいながら進む先に、例の星がやってきた。最初に当たったあの惑星だ。
地球ちゃんと最内の惑星が、最初に当たったあの惑星に追いつく。
そうすることで三つの星が集まり、回り始めた。
最初は複雑な軌道で不安定だ。
ふらふらしている。
しかしそれが次第に落ち着いていき、安定した三連星になっていく。
「いやーお見事ですねえ」
秀将は思わず感嘆の声を漏らした。
こうしてリプレイで経過を見てみると見事としか言いようがない。
最初に木星で軌道を変えて。
その後一つ内側にある星に当てて。
最後に上手いこと最内の星を挟むようにして巻き込んだのだ。
こんなことが狙ってできてしまうのだから神業としか言いようがなかった。
「見事も見事、眼福だよ」
徳丸は感動で震えているようだった。
どこかで拍手が始まる。
そうしたらそこかしこで拍手が巻き起こり、やがて会場中が拍手喝采になった。
ここまでのものを見せられたら当然だ。
秀将も拍手を贈った。
「地球ちゃんグッジョブ!」
徳丸は手をメガホンの代わりにして叫んだ。
「地球ちゃんラーーーーヴ!」
『皆さんありがとうございます。素晴らしい投球ができて満足です』
しばらく会場では拍手が鳴りやまなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます