第28話 決まった大技
「アンドロメダ銀河……ああー聞いたことあります」
秀将は少し時間がかかってから理解した。
天の川銀河の隣はアンドロメダ銀河だった。
徳丸は合点がいったという風である。
「そうか、そういうことだったのか! アンドロメダ銀河と衝突するのが50億年後くらいだから、それまでに代表を決めるのか。そして銀河が衝突する時に代表同士が戦う……これが星系輪舞祭の正体だったんだよ!」
徳丸の言うことは秀将にはピンと来なかった。
しかし気になる単語はあった。
「え、銀河が衝突ですか?」
「そう、衝突するんだ」
「それってヤバくないですか?」
「それはもう素晴らしい天体ショーだよ。いやあ惜しいなあ。衝突する時にはそれはもう夜空がとんでもないきれいなものになるのに。残念ながら我々の寿命ではそこまで生きられない」
『もう死んでますから大丈夫ですよ』
「そうだった、ありがとう地球ちゃん!」
死んだことをここまで感謝できる人は珍しいだろう。
秀将は地球ちゃんの軌道をディスプレイで確認してみる。
地球ちゃんはシリウス系の内側へ少しずつ進んでいる。
もうそろそろシリウス系の内側から二番目の星の軌道と交差しそう。
またぶつかるのだろうか。
「銀河同士がぶつかったら大爆発するんですか?」
秀将が想像するのは銀河が爆発する絵面だ。
しかしそれには徳丸が首を振る。
「いいや、大爆発は起きないよ。ゆっくり融合していく感じになる」
「え、そうなんですか? 無数の星同士がぶつかるんでしょ?」
「ぶつかる星もあるけど、あまり多くはない見込みさ。地球だってぶつからずに残るかもしれない。何せ星同士の隙間が広いからね」
「えーと、何かイメージ湧かないですね」
「それならこういうのはどうだろう。太陽系のお隣であるプロキシマ・ケンタウリまで4光年くらい離れているね。太陽から海王星まで光の速度で4時間ちょっとだ。この太陽から海王星までのサイズのものが4光年までの広さに幾つ入るか? 2000個以上入るんだ。広大な隙間だね。それだけお隣同士でも隙間が広いから、銀河同士が衝突しても相手銀河の星たちがジャストミートで太陽系に当たる確率がまず非常に少ない」
「そういうものなんですか……」
秀将は説明だけではやはり想像がつかなかったが、とにかく銀河が衝突しても太陽系が生き残りそうだということは分かった。
それは若干嬉しいことに思える。
会場の外はどこを見ても宇宙。
シリウス系の惑星が現れる気配は無い。
ディスプレイに目を向けると、シリウス系の内側から二番目の惑星の軌道を、地球ちゃんは通り過ぎていた。
どうやらこの星にはぶつからないようだ。
だがまだ投球が終わった風でもない。
ということは……
最も内側の惑星に当てるつもりなのではなかろうか。
地球ちゃんはいつも単純な投球で終わらない。
今回ももう一つ、何かやるはずだ。
やってくれるはずだ。
シリウス系の内側に向かうにつれてシリウスの輝きも強くなっていく。
それ以外はどこに目をやっても暗闇に光る粒を捲いたような宇宙。
こう見ると宇宙は無限に広がっているように感じる。
宇宙を進み続けると最終的に同じ場所に戻ってくるんだったか。
秀将は漫画の知識でそんなことを思った。
そろそろシリウス系最内の惑星軌道と交差する。
「さてそろそろだね。今度はどんなことをするのかな?」
徳丸がいかにも楽しみだという風に言うので、秀将も呼応した。
「きっとまた面白いことをしてくれますよ、地球ちゃんは」
「生き球って本当に便利だね」
「というかチートですよね」
「圧倒的に有利だもんなあ」
「他の星もやってないんですかね、生き球」
「そりゃいると思うよ」
「えーそうですか?」
「宇宙人がいると思うかって問いと一緒だもん」
「…………ああ、そうか、そうですね」
秀将は何となく納得した。
これだけ宇宙が広いのに宇宙人がいないのはおかしい。
秀将はたまたま目をやったところにシリウス系の惑星を見つけた。点でなく丸として視認できる星はシリウス系の惑星しか考えられない。
「あ、ありましたよ!」
そうして指さすと徳丸もそちらへ目を向ける。
「本当だ、第一発見者だね!」
すると周囲の人にも星の発見が伝わっていく。
第一発見者になった秀将はご満悦だ。僕が発見したんですよと皆に伝えて練り歩きたい。
シリウス系の惑星はどんどん大きくなっていく。近付いている。
ちょうど地球ちゃんとクロスするコースなのではなかろうか。
シリウス系の惑星は更に大きくなっていき、模様もはっきり見えるようになってきた。岩石質で灰色の星だ。
地球ちゃんの進行方向とシリウス系の惑星の軌道が交差しようとしている。
シリウス系の惑星がちょうど地球ちゃんの前を横切る。
地球ちゃんは相手の星の横っ腹に当てようというのか。
当たる……!
そう思い身構えた。
だが違った。
地球ちゃんと相手の星はかすった程度の浅い当たり方だった。
「ん、何だこれは……」
秀将は肩透かしをくらったようで若干納得がいかない。
外の景色が目まぐるしく変わっていく。
「一体、何が起こっているんだ?」
徳丸も疑問顔だ。
会場にざわめきが広がっていく。
何が起こっているのか。
相手の星はどうなったのか?
地球ちゃんはどうなっているのか?
リプレイも始まらないので分からない。
誰かが叫びを上げる。雰囲気的には何か見つけたような感じだ。
多くの人が後方を指さす。
秀将も何だろうと思って後方を見ると、なんとそこにはさっき当たったはずのシリウス系の惑星がいた。
「え、どういうこと?!」
まるでテレポーテーションである。
理解できないことが起こっている。
「いや待て、よく見るんだ」
徳丸が冷静さを発揮。秀将は言われた通りにしてみる。
するとシリウス系の惑星は後方から左手へ回っていき、それから前方へ移動した。
まるで月のように。
続いて前方にあったシリウス系の惑星は右手へ回っていき、また後方へと行くではないか。
まるで、月のように……
いや、完全にそうだった。
「こ、これは……!」
秀将が徳丸に問いかけの顔を向ける。
徳丸はゆっくりと頷いた。
「そうだ、互いに回り始めた……!」
それは初めての感覚だった。
どれくらい距離が離れているのかは分からないが、月より見た目の大きな星が地球の周りを回っている。
これが狙いだったのか。
衝突して弾き飛ばすのでなく、かすめるだけだったのはこのためだったのか。
きっとギリギリこの角度で当てれば良いという匠の技なのだろう。
『まだこれで終わりじゃないですよ!』
自信ありげな地球ちゃんの声が響く。
「まだ何かあるというのか……!」
徳丸が驚きを隠せない様子。
それは無理もない。既に芸術的な技を決めているのにその先もあるというのだから。
秀将は固唾を吞んで行く末を見守った。
前方に別の星が見えてくる。
徐々に前方の星に近付く。
十分に近付くとその星が今度は地球の周りを回り始めた。
地球とシリウス系の惑星二つ。
計三つの星がうまい具合に互いを回り始めたではないか。
「お、おおおおお」
秀将は何といっていいか分からず感嘆の声を漏らすばかり。
徳丸の方は知識があるからか、事態が分かって感動しているようだった。
「凄すぎる……いやこれは凄すぎるよ……! 三つの星が釣り合って回るなんてすごすぎる! アメージングッ!」
とにかく凄いことが起こっている。
秀将はそれが理解できただけでも良かった。
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