第27話 このお祭りとは

 会場の外に広がる景色が高速で流れていく。

 星たちが光る線になって流れていく景色は壮観である。

 地球ちゃんが星間空間を疾走しているのだ。

 そしてそれはあっという間に終わる。

 シリウス系まで何光年だったか、それをすぐに駆け抜けてしまったのだ。

 大きなディスプレイの中では地球ちゃんがシリウス系に到着したのを示している。

 進行方向に強い輝きの星が見える。

 これがシリウスなのだろう。

 元々地球からは一番輝いて見える星だから、近付くとそれはもう強力な輝きになっている。

 これから地球ちゃんは何を狙うのか?

 今シリウス系に残っている星は……

 中心にシリウス。

 周囲を回る星が一、二、三、四……木星を入れて五つ。

 これをどう仕上げていくのか。

 既に最も外側を回る星と木星は互いを回りあう特徴的な構図になっている。

 狙うとしたら、それ以外かもしれない。

 ディスプレイを見ていると、そろそろ木星たちが通る軌道だ。

 その軌道を地球ちゃんが通り過ぎていく。

 木星たちがやってきたようだが、ぶつからない。

 秀将は肉眼でも見えないかと思って周囲に視線を走らせる。

 しかし見つからない。

 遠くで叫びが起こる。その辺りからざわめきが広がっていく。ざわめきが秀将の周囲まで伝わってくると、徳丸が事態を察知した。

「加賀美君、どうやら木星が見えるようだよ!」

「え、どこですか?」

 秀将は見つけられなかったのだ。見えるならどこにあるか知りたいものである。

 徳丸は周囲のざわめきに耳を集中し、一つ頷いた。

「うん、これは……あっちの方か。ああ、あれだ!」

 どうやら発見したようで、徳丸は指で示した。秀将は示された方に視線を動かす。

 そうしたら、見つけた。

「あれですね!」

 星が微妙にうねうね動いているのが見える。

 残念ながら点でしか見えないが、微妙な動きをしているのは木星とシリウス系惑星のワルツなのだ。

 どちらが衛星とも言えない、対等な関係の連星。

「しかし、木星と釣り合うような星がよくありましたね」

 秀将は思わずそんな感想を零した。

 木星は太陽系の中でダントツにでかい星だ。

 そうそう釣り合うような星があるとは思えなかった。

 しかし徳丸の方は大したこと無いという風に笑った。

「宇宙の中では木星と釣り合う星も、それ以上の星も、結構多いんだよ。系外惑星の探査では数多く見付かっているからね。そんなに驚くことも無いさ」

「へえ、そうなんですか?」

「宇宙は広い、果てしなくね」

 そう話す徳丸は少年のようだ。

 宇宙はおじさんを童心に還すらしい。

 そうしている間にも地球ちゃんは進んでいる。

 シリウス系の内側へ向かっていく。

 シリウスの輝きも強くなってくる。

「さすがシリウスだな、まだ遠いのにもうこんなに光が強い」

 徳丸がそう言うので秀将は聞いてみた。

「シリウスは太陽より明るいんですか?」

「相当明るいよ。光度は太陽の25倍にもなるそうだ」

「太陽でさえ直視できないのに……」

「今我々はシリウスでさえ直視できている。これも地球ちゃんのはからいだろうね。恒星が眩しくて何も視えないようでは祭も盛り上がらないだろうしね」

 そうかもしれないと秀将も思った。

 この壮大なお祭りを観ることができるように地球ちゃんは色々とやってくれたのだ。

 そろそろ内側から三つ目の惑星の軌道に差し掛かる。

 ディスプレイの中ではシリウス系の惑星もちょうどやってくるところだ。

 ということは、ちょうどやってきた星と……?

 期待が膨らむ。

 どの道どれかとはぶつかることになるため早いか遅いかだけなのだが、ぶつかりそうになれば否が応でも期待が膨らむというものだ。

「ところで、このお祭りはどこまで続くんだろうね?」

 徳丸がそんなことを言い出す。

 秀将も疑問に思った。

「さあ……考えたことも無かったですね。どこまでやるんでしょう?」

 太陽系は既に何度か対戦しているが、どこまでいけばゴールなのだろうか。

「例えば、何勝したら終わりとか?」

「祭の期間も知らないですよね」

 このお祭りは突然始まってそれきりである。

 パンフレットも無く、とにかく見て覚えろという謎だらけの形式だ。

 そろそろ祭そのものについても知りたいところだった。

『それはですね』

 地球ちゃんの声が脳内に響く。

 どうやら教えてくれるらしい。

『この星系が銀河系の……』

 目の前にシリウス系の惑星が現れる。

 シリウス系の惑星はちょうど左から右へ横切ろうとする軌道だった。

 地球ちゃんが相手惑星に激突する。

『代表になるまでですよっ!』

 相手惑星が星系内側へすっ飛んでいく。

 地球ちゃんも軌道を変えながら星系内側へ向かい始める。

「だ、代表……だって?」

 徳丸がたいそう驚いているようだった。

「天の川銀河の代表になったら凄いですね」

 秀将は驚くというよりワクワクだ。

 何だか銀河の代表といったら太陽系に住む者として誇らしい。

 徳丸はそんな秀将の様子を見て熱弁を振るい始めた。

「いや加賀美君、天の川銀河の代表っていったら大変なことだよ? 何せ天の川銀河には2000億個~4000億個もの恒星があるんだ。それだけ星系もあるってことだよ? その中を代表になるまでなんてどれだけ勝ち進めば良いか、果てしないよ!」

「え……2000~4000、億……?」

 秀将の頭の中ではせいぜい数百個くらいのつもりだった。

 それが数千でもない。

 数千憶だという。

『そして代表が決まったら隣の銀河と対戦します。それが本戦です!』

 最後はこの銀河を飛び出したスケールになるらしい。

「隣の銀河って何ですか?」

「隣の銀河っていえばアレじゃないか」

 徳丸がもったいつけて言おうとすると地球ちゃんがその先を言ってしまった。

『アンドロメダ銀河です』

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