第26話 投球の順番が回ってくる

 会場はどよめきでいっぱいだ。

 シリウスの投球はまだリプレイが続いている。

 シリウス系が激しく回る。

 シリウスBが飛び出す。

 白色矮星と呼ばれる小さな星だ。

 太陽もいずれそうなると言われている、恒星の成れの果て。

 この星が星間空間を駆ける。

 何光年の距離を一気に駆け抜け、太陽系に到着。

 シリウスBの進行方向に土星がやってくる。

 土星が跳ね飛ばされる。

 次にシリウスBの前に現れたのは天王星。

 天王星も跳ね飛ばされる。

 その次は海王星。

 海王星も歯が立たず弾かれる。

 更にその次はプロキシマ。

 このプロキシマもホームランのように弾き飛ばされてしまう。

 もう遮るものが無くなったためシリウスBはそのまま進んでいく。

 最後に、土星が、天王星が、海王星が、プロキシマが、シリウスBが、次々とブラックホールに破砕され、環になる。

「いやはや、凄い大技だねこれは」

 徳丸が賛辞を贈るので、秀将は複雑だった。

 確かにこの投球は凄い。

 たった一投で幾つもの星をブラックホールにインさせた。

 地球ちゃんも褒めるほどの投球だった。

 だが、相手の投球が良ければ良いほど、太陽系は勝てるのだろうかと心配になってくるのだ。

 勝負であるからには、勝ちたい。

 秀将はそう思っている。

「きっと、地球ちゃんはこの後更に凄い投球をしてくれると思いますよ」

「地球ちゃんは巨大化したからね、今までよりダイナミックな当たりができるはずだよ」

「ですよね! しかもいつも通りグイグイ曲がって!」

「残りの投球でどう仕上げるかだよね」

「今回はどうするんでしょうね」

 最終的にはより芸術的に仕上げた方が勝ちだ。

 地球ちゃんも流石に仕上がりまでは教えてくれないので、それは想像するしかない。

 シリウス系に残っている星は……

 中央には青白く輝くシリウスA。

 そこから遠巻きに、内側から惑星が一つ、二つ、三つ、四つ。

 ただし四つ目は木星と一緒に回っているので、全部で五つ。

 シリウスの投球のリプレイが終了する。

 会場の空気は複雑だ。

 もしかして負けるんじゃないかと危惧する人達がいて。

 今の投球以上のものを見せてくれ地球ちゃんと期待する人達もいて。

 勝負の行方が分からなくなってきたぞと楽しんでいる人達もいて。

 どうにも落ち着かない感じだ。

 秀将は断然期待しているが、不安も隠せない。よく考えれば一番落ち着かないのが秀将自身だった。

『こちらに投球が回ってきました。かなり良い勝負ですが、こちらももう仕上がりは思い描いています。きっと良いものになるでしょう』

 地球ちゃんに諦めている様子はなさそうだった。むしろ良い勝負になってきたのを楽しんでいるようですらある。

 これは期待して良いのだろうか。良いのかもしれない。そう思うと秀将の気も幾分か楽になった。

「地球ちゃんがうまくやってくれると信じましょう」

 秀将は自然とそう言っていた。

 ボクシングのセコンドに立ち、地球ちゃんを送り出す気分。

「そうだね、きっとやってくれる」

 徳丸も後押ししてくれた。

 地球ちゃんはこれまで生き球としての利点を最大限活かし、曲芸級の投球を決めてきている。

 自分の意思で動けるのはこの祭で圧倒的なアドバンテージなのである。

 だから今回もきっと、いけるのだ。

 ディスプレイたちがいったん整理され、太陽系とシリウス系が一緒に映っている巨大なものだけになる。

 それから太陽系だけを映したディスプレイが出現。

 太陽系は一気に惑星を失ったために寂しく見える。

 外側を回っていた惑星たちが一掃されてしまったのだ。

 今残っているのは水星・金星・地球・火星。

 火星が一番外側なのだ。

 普段見ている太陽系からすると一回りも二回りも小さく見える。

 太陽系が激しく回り始める。

 投球が始まるのだ。

 会場の外の景色も動きが速くなる。

 月も太陽も、星の海も。

 目まぐるしく動いている。

 ディスプレイの中の太陽系も目まぐるしく動いている。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 今度投げるのはどの星か。

 秀将は直観で地球ちゃんだと思った。

 太陽系もシリウス系も残りの星が少ない。

 ここで地球ちゃんが決めにいくんじゃないかと思うのだ。

 会場の皆が固唾を呑んで投球の瞬間を見守っている。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 水星や金星は目にもとまらぬ速さで太陽の周りを公転。

 地球の公転もあっという間だ。

 火星がかろうじて目で追える程度。

 こう見てみると火星は地球からけっこう離れているのだと感じる。

 きっと投げるのは地球ちゃんだ。

 そう思って秀将はその瞬間を待つ。

 地球ちゃんだ。

 地球ちゃんだ……!

 そしてその時は来た。

 視界に映る景色が一変。

 星の海で輝く点たちが光の線になって後ろへ流れていく。

 やっぱりだ。

 秀将は確信した。

 やっぱり地球ちゃんが射出されたのだった。

 行け、地球ちゃん!

 秀将は心の中でそう叫んだ。

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