第25話 凄い一投

 シリウスの投球が終わった。

 今までと明らかに違う何かが起こった予感。

 何度も軌道を変え宇宙を走った輝きがまだ目の奥に焼き付いている。

 会場には不気味な空気が降りている。

 早くリプレイが見たい。

 そんな気持ちが高まっていく。

 会場の外の全周囲に広がる星の海。

 この星の海の中で、シリウスBがどんな軌跡を辿ったのか。

 地球ちゃんも感心するほどの事態がそこに映っているはずだ。

 みんながその映像を待ち望んでいる。

 期待も不安も抱きながら。

 会場の空気が最高潮まで高まっていく。

 そしてリプレイが始まった。

 大きなディスプレイが現れ、そこにシリウス系が映し出される。

 シリウス系は軌道が長大な惑星たちがいるために、とても広い。

 中央ではシリウスAとシリウスBが回っていて、そこから遠く離れて惑星たちがぽつりぽつりといる。

 投球のために星系が激しく回り始める。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 よく見ると、一番外側の惑星は木星と一緒に回っている。

 バトンで二つの星を繋いで回しているかのように互いを回り合っている。

「こう見るとシリウスBって本当に小さいですね」

 秀将はしみじみと感想を言った。

 シリウスBは木星より遥かに小さい。

 その存在感はあまりに希薄。

 しかしこれは恒星だという。

「こう見えて太陽くらいの質量がある。侮れないよ。宇宙を見渡してみれば大きさだけじゃないのが分かるようになる」

 徳丸は講義するように返す。

「これで太陽くらい……信じられないっすね」

 こんな小さな星が太陽くらいの質量とはにわかに信じられない。

「ぎゅうぎゅうに押し固められているのさ。両手いっぱいの羽毛も押し固めればビー玉のようになるだろう?」

「地球って押し固めるとどこまでいくんですかね」

「それはあれだよ、ブラックホールになるまで」

「え……そうなんですか?」

「普通は恒星が超新星爆発をした時くらいだけど、過程を無視すれば何だって押し固めていけば、なるよ」

 秀将は新たな発見を得た気分だった。

 ブラックホールはもっと特殊な存在だと思っていた。

 シリウスBが射出される。

 自分の星系を離れ、星間空間を走る。

 白く輝く星。

 背景に見える星たちが点なので、このシーンではシリウスBが大きく見える。

 星間空間を駆け抜けて、太陽系に辿り着く。

 それからシリウスBが狙ったのは、地球よりも外側だった。

 火星よりも外側。

 シリウスBの前方に、巨大な環を持つ惑星が現れる。

 コースが決まった。

 互いが接近していき、ぎりぎりまで近付くとスローモーションになる。

 大きさでいうとシリウスBは遥かに小さい。

 ダンプカーに軽自動車で突っ込むようなものだ。

 スローモーションの中、ゆっくりと両者がゼロ距離になっていく。

 そして、衝突。

 土星が大きくたわんだ。

 衝突面が陥没していき、それが周囲に広がり、星がぐにゃりとたわんだように見えたのだ。

 スローモーションが解除される。

 土星が弾き飛ばされ、画面外へ消えた。

 土星があった場所には環の残骸が残されていた。

 シリウスBは衝突で軌道を変え、勢いそのままに突き進む。

 しばらくして見えてきたのは天王星。

 これは衝突コースだ。

 やはり接近するとスローモーションになる。

 じれったくなるような映像の中でシリウスBと天王星が衝突する。

 天王星も、バットで打たれたゴムボールのようにたわんで、スローモーションが解除されるとすっ飛んでいった。

 シリウスBはまた軌道を変えて走り続ける。

 もはや突進するイノシシ。

 次に見えてきたのは海王星。

 これも同じだ。

 シリウスBは海王星を跳ね飛ばした。

 まだ白い星は止まらない。

 小兵が重量力士を次々倒していくように。

 いったいこの小さな星になぜここまでの力があるのか。

 これが徳丸の言う通り、太陽質量ということか。

 最後に見えてきたのも大きい星だ。

 これは見慣れない星だが、プロキシマから奪った惑星である。

 ここでもシリウスBはプロキシマを弾き飛ばした。

 そしてシリウスBは軌道を変え、そのまま太陽系の外へ脱出していった。

 これだけで終わらなかった。

 跳ね飛ばされた星が次々とブラックホールに呑まれていく。

 土星が。

 天王星が。

 海王星が。

 プロキシマが。

 最終的にシリウスB自身が。

 ビリヤードで大技を見せられたようだった。

 圧巻。

 ようやく投球が終わった。

「お、おおおおぉぉ……」

 徳丸が感嘆の声を漏らしている。

 秀将は言葉が出ない。

 凄い。

 確かに凄い。

 というか、凄すぎる。

 これが一投。

 とんでもない投球だった。

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