第23話 木星の活躍
一投目のリプレイが始まる。
まず太陽系のアップ。
惑星がぐるぐる回り出す。
木星はやはり太陽系で一番大きい。
地球も大きくなったお陰で目立つようになった。金星と火星に挟まれた位置にあるせいか、周囲と比べて不自然に大きい。
海王星は公転が何年だったか……確か100年以上だ。では更に外側を回るプロキシマbは何年かけて太陽を回るのだろう。200年くらいか。
惑星達が早送りで回る。
時が来ると、木星が飛び出す。
砲弾のように飛んでいく。
少ししてシリウス系に到着。
外側から二番目の惑星に狙いを定める。
木星がぐんぐん相手の星に迫る。まるで彗星。
両者が接近してくるとスローモーションになる。
そこからゆっくりゆっくり、ゼロ距離になるまで近付いていき。
ぶつかる。
太陽系のヘビー級王者である木星が渾身の体当たりである。
スローモーションが終わる。
相手の星は猛烈な勢いでふっ飛ばされた。
「いやあ、やはり木星は凄いね。パワーで押し切るような感じだ」
徳丸が感嘆の声を上げる。秀将も同意した。
「太陽系のエースアタッカーですよね」
『エースは私です!』
地球ちゃんが割り込んできた。
「何もそんなに拘らなくても……」
秀将がそう返すが、徳丸が一つ指を立てて提案した。
「それなら、木星はパワーヒッターということでどうだろう?」
『良いですね、あなたには特別なプレゼントを考えておきます』
ずいぶんと現金なものだ。
しかし木星がパワーヒッターというのは割としっくりくる気がする、と秀将は納得した。
徳丸の方はプレゼントと聞いて心底喜んでいるようだ。
「うわ嬉しいなあ! 地球ちゃんからプレゼントって何だろう? ワームホール潜り体験とか? 楽しみだなあ」
秀将には彼の言っていることは分からないが、地球ちゃんなら何でもできるんじゃないかと思われる。
それからはディスプレイが分かれ、相手の星と木星のその後が別々に映される。
相手の星がこの後ブラックホールでひとっ飛びなのは分かっているので、秀将は木星の方へ注目することにした。
木星の衝撃も凄まじかったようで、特徴的な縞模様が乱れに乱れている。
木星はどうやら衝突の後、更に外側へ速度を落として向かったようだった。
その進みはかなりゆったりである。
最初の衝突でパワーを使い果たしたかのようで、これならもう次に当たったとしても触るくらいにしかならないだろう。
そんな風にゆったり漂う木星の行く先に、ちょうどシリウス系の惑星が回ってくる。
シリウス系の最も外側の惑星であり、太陽系と比べると公転軌道が倍くらい大きい。
いったい何年かけて公転しているのかと思いたくなる軌道だ。
そんな星の軌道を木星が通りかかった時に、都合よくシリウス系の惑星がやってきたのである。この投球はそこまで計算ずくで投げているのだ。どれほど精密に計算されているのだろう。
そして木星とシリウス系の星がぶつかりそうになる。
しかしぎりぎりぶつからない。
掠めるようにしてすれ違い、今度は木星がシリウス系の惑星を追いかける。
シリウス系の惑星も軌道がふらつき、木星に引っ張られる。
また両者がすれ違う。
すると、今度はシリウス系の惑星も木星を追い始める。
木星がシリウス系の惑星を追いかけ、シリウス系の惑星が木星を追いかける。
すれ違いはだんだん距離が離れていき、ぶつかる心配が無くなる。
最終的に、互いが互いを追いかけ合ったままで落ち着いた。
これはどちらが主星とも言えない状態。
「これは面白いなあ」
徳丸が顎に手を添えて感心している。
「うまいこと収まるものなんですね」
秀将も同意を示すと、徳丸が続けた。
「普通はどちらかが大きくてどちらかは小さい。惑星と衛星の関係だね。それは惑星が形成される過程で同じ軌道上の小さな天体をあらかた吸収してしまうからだね。でも今回のような場合、それに当てはまらない。別の星系から来た惑星とニアミスした場合、こういうことは起こり得る。両者が似たサイズであれば、ね」
「こういう星っていっぱいあるんですか?」
「残念ながら、まだ観測はされていないよ」
「え、そうなんですか? 何か意外ですね」
「星系同士が衝突することが滅多に起こらないからね。銀河同士がぶつかることがあればそれなりに観測するチャンスは出てくるんだろうけど、生憎……銀河同士がぶつかる現場は遠すぎてね、とてもじゃないけど惑星ほど小さなものは観測できない」
それなら諦めるしかないようだった。
それだけレアな現象が見られたと思っておけば良いのだろう。
しばらくリプレイが繰り返される。
それを見ながら会場ではあれはあーだこれはこーだと盛り上がっている。
やはり知識がある人には人だかりができていて、解説がされているようだ。
意味も分からず見ているだけだと、凄いなこれっていう感想で終わってしまうから、解説があると、より楽しめるのだ。
リプレイが終了した。
『次は相手の番です』
地球ちゃんがアナウンスすると、会場が静かになる。
さあ、シリウスの出番だ。
いったいどんな投球をしてくるのだろうか。
シリウス系がアップで映される。
太陽系よりも広大な広さを持つシリウス系が、高速で回り始める。
中央ではシリウスAとシリウスBが回る。ステージの中央に立つ主役みたいに。その周囲を遠巻きに惑星達が回っている。太陽系とはずいぶんと違う風景。
ぐるぐると星達が回る。
高速で回る。
緊張感が生まれる。
どれが射出されるのか。
どんな投球をしてくるのか。
会場中が固唾を呑んで見守った。
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