第22話 ダイナミックな投球

 画面の中で太陽系が激しく回り始める。

 投球が始まるのだ。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 それに合わせて、秀将達が見ている宇宙も早く動き始める。

 太陽も、月も、目に見えて動いていく。

 早回しになったような世界。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 海王星も、更に外を回るプロキシマbもあっという間に太陽の周りを一周する。

 一番内側の水星なんて一瞬で一周してしまうので忙しいくらいだ。

「普段、海王星って何年くらいで太陽を一周するんですか?」

 秀将は素朴な疑問をぶつけてみた。

「約165年だね。外側だから非常に時間がかかる」

 徳丸が答えを教えてくれたが、とんでもない時間がかかるようだった。

 人間の一生を100年としても、海王星の一周はそれ以上になるのだ。

 一生かかっても見届けることができないものを研究し続ける科学者は偉いもんだなと思う。

 そろそろ星が射出される。

 今回はどの星が飛んでいくのか。

 シリウス系へ最初に飛んでいくのは……

 高揚感が高まってくる。

 どれが行くのか分からないから想像する楽しみがある。

 そしてその時が来た。

 ぐるぐる回っていた星の中で、1つがパッと。

 射出された。

 飛んでいったのは。

 木星。

 大歓声。どの星が飛んでいくのか予想が当たった人も外れた人も、射出の瞬間は盛り上がる。

 新たなディスプレイが出現し、木星を映す。

 星間空間を太陽系最大の惑星が駆けていく。

 背景に見える星たちが線になって流れていく。

 あっという間に相手星系に到着。

 さあ、ここからシリウス系のどの星を狙っていくのか。

 全体が映っているディスプレイを見ると、シリウス系は惑星が五個あるようだ。

 木星を示す球が進んでいく。まだどれに当たるか分からない。

 更に進む。どうやら外側を狙っているコースになってくる。

 充分に相手の星に近付いてくる。外側から二番目の星に照準が定まる。

 秀将は木星がアップで映っているディスプレイに目を向けた。

 もうそろそろぶつかるはずだ。

 みんなが固唾を呑んでその瞬間を待つ。

 木星と宇宙だけが映る画面。

 画面の奥で、点から丸に変わっていく星が見えてきた。これが目的の星で間違いなさそうだ。

 丸になった星はだんだん大きくなっていく。色も分かるようになる。

 灰色の、岩石そのものといった星だった。水星に似ている。

 その星がどんどん大きくなって。更に大きくなって。

 最終的に、木星よりちょっと小さいくらいのサイズになった。

 ぎりぎりまで近付くと、スローモーションになる。

 星と星がじれったく接近。

 ゼロ距離まで少しずつ、じりじりと。

 そして。

 その時が来た。

 ゴツンとぶつかる。

 当たった所が円状に赤くなる。

 スローモーションが終わる。

 相手の星が、勢いよく飛ばされていった。

 木星ほどの巨大な物体が剛速球で当たったのだ、それは相当なものだろう。

 みんながおおおおっと声を上げる。木星の力強さに感嘆の声が多数上がっている。

 弾き飛ばされた星だけを映したディスプレイが現れる。

 この星はどこへ飛んでいくのか。

 全体を映したディスプレイでは、弾き飛ばされた星がシリウス系を飛び出していっている。

 会場ではどよめきが起こる。

 シリウス系に留まらない星がどんどん星系から離れていく。

 弾き飛ばされた星が向かう先に、切り取られたような闇が見えた。

「こ、これは……!」

 徳丸が気付いたようだ。

 この流れは、恐らく……

 秀将はじっとディスプレイを見つめる。

 その瞬間を見るために。

 シリウス系を飛び出した星が闇に接近していく。

 さあこの闇にインするぞという段階になる。

 そこではっきりと見えた。

 星がつままれたように伸びる。

 そしてボロボロボロっと壊れる。

 砂の城を破壊するように。

 それが、一瞬で行われた。

 よく見ていなかったら、絶対ブラックホールにインしたように見えていただろう。

 後に残されたのは、ブラックホールの周りに残された環だけだった。

「加賀美君、見たかい今?」

 徳丸が言うので、秀将はしっかり頷いた。

「見ました、見ました! いやー凄いですね、これがブラックホールですか」

 会場では大歓声が上がっている。指笛も鳴らされている。

 木星のパワーをまざまざと見せつけられた。

 そして、ブラックホール凄い。

 このダイナミックな天体ショーは場を盛り上がらせるのに充分過ぎるものだった。

 さて木星の方はどうなったかというと。

 各ディスプレイを見ていくと、どうやら木星は一番外側の星の所まで移動しているらしい。

 しかも、様子が変だ。

「何だろう、これ……?」

 秀将が呟くと、徳丸が恐る恐るといった感じで答えた。

「これは……連星状になっているね」

 その通りだった。

 木星がシリウス系惑星と、互いに絶妙なバランスで回り合っていた。シリウス系惑星の方が若干小さいが、これを衛星と呼ぶには大き過ぎる。

「これはまた面白いですね。惑星同士で連星になってる」

「こう言って良いのか分からないが……二重惑星と呼べるかもしれない。太陽系には無いタイプだよ、とても面白い」

 確かに面白い現象だった。

 しかも、木星に釣り合うほどの星があったことも面白い。

『一投目終了です、なかなか良い感じになりました』

 地球ちゃんが満足そうな声で告げる。

 どうやら狙い通りになったらしい。

 会場が拍手で地球ちゃんを讃えた。

 今回はどういった仕上がりを目指すのか。

 シリウスがどういう投球をしてくるのか。

 この先も楽しみだ。

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