第21話 偉い星

 ディスプレイがもう1つ現れる。

 そこに対戦相手の星系が映し出された。

「これがシリウスか……!」

 画面中央には青白く輝く星。

 惑星を見ていくと、一番内側の星もずいぶん遠くを周回している。

 そこから更に遠く離れて二番目、三番目みたいな構成。

 一番外側の惑星の周回軌道が長大だ。

 太陽系と比較すると、倍くらいある。

 ある意味、大きな星系と言えるだろう。

「これがシリウスBか……!」

 徳丸が気になる呟きをする。

 秀将は思わず徳丸の方へ顔を向けた。

『シリウス』まではいいけど、『B』って何だ、『B』って。

「Bって何ですか?」

「シリウスは連星系なんだよ」

「連星系?」

「そう。恒星が二つある」

 それは謎めいた話だった。

 秀将はシリウス系の方に向き直る。

「二つですか?」

 恒星は一つしか無いようだが……

 そうしたら、徳丸がディスプレイの方を指差した。

「あれだ、最も内側を回っている白い星、あれは恒星の残骸なんだ。白色矮星と呼ぶ」

 最も内側を回る白い星……

 秀将はそれを凝視した。

 確かに白い星だ。

 町内会のくじ引きの、ガラガラ回して球が出てくるやつ……ガラポンというのだろうか、それから出てくる白い球みたいな感じだ。

 大きさは、惑星としても大きくない方だ。

「これが、ですか……?」

 どう見ても恒星のようには見えない。

「そう。太陽が最期膨らんで赤色巨星になる。そうしたら外層を放出して、内側の小さな塊が残ることになるんだ。太陽の行く末が、あの姿だと思えば良い」

「え…………えええええぇ?!」

 にわかには信じられないことだった。

 太陽の行く末が、この白い小さな星だというのか。

「ちなみにシリウスBのサイズは地球と同じくらい。ああ、今は地球が巨大化してるけど、元の地球のサイズと同じくらいってことね。でも質量は太陽と同じくらいある。小さくても侮れない星なんだよ。ほら、シリウスAもけっこう動いているだろう。シリウスBの重力に引っ張られているんだよ」

 秀将は想像ができず、言葉を失ってしまう。

 シリウスAは、中央のシリウスのことを指すらしい。

 よく見てみると、中央のシリウスAは小さいながら円軌道を描いていた。

 シリウスBは中央のシリウスAと遠くなったり近くなったりしていて、真円からはほど遠い軌道で周回している。

 だがやはり、シリウスBの動きに合わせてシリウスAも動いているようだった。

 両者が互いに引っ張り合っているのはおぼろげに分かった。

 シリウスBはシリウスAを動かせるくらいの重力を持っているのだ。

 こんなに小さな星が太陽と同じくらいの質量を持っているなんて……

 宇宙には分からないことがまだまだ沢山あるものだ、と秀将は感心した。

 太陽系を映したディスプレイとシリウス系を映したディスプレイが互いに近付いていき、一つに合体する。

 太陽系vsシリウス系の対戦が遂に始まる。

 両者が一つの画面に収まると、大きさの違いがはっきりしてくる。

 シリウスAは太陽より大きい。

 ただ、前回ベテルギウスという超絶大きな星を見ているので、それに比べれば全然小さい。現実的な大きさだ。

 また、シリウス系の星系の広さは太陽系の倍くらい広い。

 惑星たちがずいぶんと外側を回っているようだ。

 この光景を見て会場ではおおーと感嘆の声が渦巻いている。

 まさかあのシリウスと対戦することになるとは。

 ここへ来て秀将は一つ思い出した。

 そういえば、地球ちゃんが対戦相手どれが良いか希望を募っていた時、何となくシリウスが良いと言ったような気がする。

 ……知っている星がそれしか無かったから、というのもあるけど。

 地球ちゃんが希望を叶えてくれたのかもしれない。

 画面内では太陽系が手前に表示されたり、シリウス系が表示されたり……互いの星系が引き合いながら回転しているかのような映像になっている。

『今回はウチが先攻になりました!』

 地球ちゃんの言葉が投球開始を告げる。

「これ、どうやって先攻後攻を決めているんですかね?」

 秀将は呟くが、徳丸は首を振る。

「分からないね」

「もしかして、もっと偉い星とかが決めているんじゃないですか?」

「偉い星……?」

「なんか無いんですかね、太陽とかよりも上位の星とか。銀河の中で一番ヤバイやつとか」

「ああ、それならいて座Aスターが挙げられるだろう」

「……何ですかそれ?」

「この天の川銀河の中心にあると見られている、超大質量ブラックホールだよ」

「ブラックホールですか……というか、超大質量って?」

 秀将にはチンプンカンプンな話だ。

「巨大なブラックホールだと思えば良い。基本的に銀河の中心には超大質量ブラックホールがあると言われているので、銀河を支えているのはこれかもしれないね。偉いって言ったら、唯一これが挙げられるかもしれない」

「へぇえー……」

 秀将は理解できなかったが、とりあえず分かったような反応をしておいた。

 秀将としては、こんなことを想像していた……星に白ヒゲをくっつけて、仙人みたいに杖を持っているキャラクター。こんなキャラクターが数人いて、先攻後攻を決めたり、最後にジャッジしたりしているイメージだ。これが秀将なりの偉い星である。

『そこら辺はヒミツです』

 地球ちゃんの声が聴こえた。

 どうやら教えてくれないこともあるらしい。

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