第18話 満足のいく仕上がりです

『投球タイム終了です。次は審査タイムになります』

 地球ちゃんのアナウンスが流れる。

 いよいよ審査だ。

 いったん星系の仕上がりが隠される。

 各投球のリプレイがディスプレイに映された。

 現状、外に見える景色はだいたい同じだ。

 ぐつぐつ煮えたぎるベテルギウスの表面が左手。

 正面から右手にかけて赤みがかった景色。

 後ろは金色のもや。

 これまでの人生で全く知らなかった絶景だ。

 また炎の間欠泉が噴き出す。

 地球は噴出物の中を突っ切る。

 秀将は熱さを感じない。

 本当は何℃くらいになっているのか。

 見た感じ、とても人間が生きられる温度ではなさそうだけど……

 周囲では話し声が活発に発生しているようだ。

 何となく、どっちが勝つか予想しているんじゃないかと思われる。

 大人数で予想大会らしきものもやっている。元締めが正面に立ち、左手と右手に人の列が出来上がっている。右手の方を「ベテルギウス!」と叫んでいるので、右手に並んだ人はベテルギウス派、左手に並んだ人は太陽系派というところか。

「みんな予想しているねぇ」

 徳丸がそう言うので、秀将は聞いてみた。

「どっちが勝つと思います?」

「それはもう、太陽系だと思うよ」

「何でですか?」

「並べてみれば分かるはずだ。加賀美君は?」

「僕も絶対、太陽系だと思います」

 秀将は既に確信していた。

『審査結果が出ました! 発表です!』

 大きなディスプレイが現れる。そこでは派手なイラストが動き回る。

 しばらくそこで焦らされる。

 ここがドキドキする。

 勝つだろうと思っていても、もしかしたら……とか思ってしまう。

 ディスプレイのイラストが桜吹雪みたいなもので埋め尽くされていく。

 画面が全て埋め尽くされると、パッと切り替わった。

 太陽系だ!

「イエーーーーーッ!」

 会場内が歓声に包まれる。

 秀将も声を上げて喜んだ。

 太陽系の映像にはCGの花火が乱舞している。

「やった、やりましたね!」

 我らが太陽系の勝利。

 故郷出身者が活躍しているというより故郷そのものが活躍しているのでわけ分からない事態だが、とにかく嬉しい。

「ベテルギウスも近くで見られたし、言うこと無しだね!」

 徳丸も非常にご満悦の表情。

 どこからともなく拍手が巻き起こる。

 それは波紋が広がるようにみんなを巻き込んでいく。

 拍手の波。

 秀将も徳丸も波に加わる。

 おめでたい。

 勝利はおめでたいのだ。

 誰かが「ラヴ・ジ・アース!」と熱狂的に叫んでいる。とうとう無生物に恋してしまったようだ。

 審査対象となった二つの星系が映し出された。

 まずベテルギウス系。

 画面を簡単に表すと、ベテルギウスがいる。以上。

 ただし、ベテルギウスの表面を魚の背びれが通っていくように、何かが走っているのが分かる。

 星たちは非常に小さいが、火球となることでかろうじて識別できるようになっている。

 幾つもの火球が巨大な星の表面を泳いでいる。

 ある星は左下から右上に。

 ある星は左上から右下に。

 また、ある星は左から右に。

 色んな軌跡を描いていて面白い。

 一方で、太陽系。

 こちらも火球がキーポイントだ。

 内側から幾つかは火球が尾を引いて周回しており、とても綺麗である。

 そして、木星に環がかかったのも良い。

 火球が続いた後の、木星・土星と続く環シリーズ。

 ここまでは綺麗に仕上がっている。

 匠の彫刻家が一枚岩から素晴らしい像を掘り出したようだ。

 しかし、その外側が手つかずだった。

 海王星と、後は更にその外側を回る……

「あれ、何て名前にしたんでしたっけ? プロキシマのやつ」

「岩王星だよ」

「あー、そうでしたね! もうプロキシマで良くないですか?」

「せっかく考えたのにそれなの?!」

「いや、なんか自分で名付けた必殺技を公の場で叫ぶみたいな感じで恥ずかしいじゃないですか。だからプロキシマにしましょうよ」

「そこで冷静になられても……なんかハシゴを外された気分だよ。せめてプロキシマbにしよう。恒星のプロキシマとごっちゃにならないようにね」

 徳丸は渋々といった感じだが、しょうがない。

 とにかく、海王星とプロキシマbが手つかずなのが惜しいところだった。

 彫刻を掘り出したが最後のちょっとが掘り切れていない感じ。

 画竜点睛を欠くとはこのことか。

 だから、太陽系とベテルギウス系を比べれば一目瞭然だった。

『今回はパーフェクトでした! 満足のいく仕上がりです!』

 地球ちゃんの声も非常に満足そうだ。顔があればきっとドヤ顔になっているだろう。

『はい、では対戦終了なので星の位置が元に戻ります。戻りました』

 地球ちゃんが言っている間にもう戻ってきたようだ。

 ベテルギウスは見えず、赤みがかった景色もきれいさっぱりなくなった。

 月を探せばあるし、太陽もある。

 我が家に帰ってきた、そんな気分。

『次はお待ちかねのお願いタイムです』

 お願いタイム……相手の星をもらえるあれか。

 今回はどの星をもらうのだろうか?

 太陽系が映っているところでは地球に矢印が付けられた。

 ベテルギウス系が映っている方では内側から二番目の星に矢印が付く。

 そうしたら、次の瞬間。

 地球が膨らんだ。

「えっ……?」

 秀将は目を疑う。

 しかし目をパチパチしても変わらない。

 地球が天王星くらいの大きさになった。

 代わりに、ベテルギウス系の矢印付きの惑星が小さくなった。

「吸い取った、のか……?」

『吸い取りました。私はちょっと小さめだったので、これでもっと重い星にも当たることができるようになります』

 こういうお願いもできるのか。

 思ったより自由度が高いようだ。

 ベテルギウスの要求は、地球のようだ。

 地球に矢印が付けられた。

 すると、ベテルギウス系の一番外側に地球のコピーが回り始める。

 そう、敗者は奪うことはできない。

 しかし、地球ちゃんは今回も大活躍だった。

 地球ちゃんのコピーを得たことでベテルギウス系は今後の活躍があるかもしれない。

『これで対戦は終了です、お疲れ様でした! 次の対戦相手が決まるまでは自由に過ごしていて下さい。皆さんから対戦相手の候補は沢山意見いただいているので、また考慮しますね』

 また対戦が終わった。

 周囲ではお疲れ様でしたーという声が上がり始めた。

 秀将もそれに倣うことにした。

「お疲れ様でした!」

 徳丸も応じた。

「お疲れ様でした!」

 秀将は心の中で地球ちゃんにもお疲れ様を言った。

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