第17話 生き球って凄い
「赤色? ナントカ星って何ですか?」
秀将はよく聞き取れなかったので徳丸に訊ねた。
「赤色超巨星。赤くて超巨大な星だよ。太陽が最期どうなるか聞いたことはあるかい?」
「…………爆発、するんでしたっけ?」
「概ねそれで良い。太陽は最期、大きく膨らむ。大体今の地球軌道を超えた辺りまでね。それを赤色巨星と呼ぶんだ。今の太陽の200倍くらいまで大きくなるんだったかな」
「200倍?!」
秀将が驚くのと周囲の視界が揺れるのが同時に起こった。
地球ちゃんが衝突したのだ。
衝突の瞬間を見逃してしまった。
『今回もまだ行きますよ!』
進行方向が光りに包まれているため、今衝突した結果どうなったのかもよく分からない。しかし進行方向はベテルギウスのままだ。
徳丸は周囲の落ち着きを見計らって話を続ける。
「そう、200倍。恒星は太陽だけでなく、みんな最期は膨らむことになると覚えれば良い。ベテルギウスは既に最期が近くなっている星で、膨らんだ状態なんだ。元々が大きな星だったから、膨らんで太陽の700倍くらいまで大きくなった。こうした、特に大きな恒星を赤色超巨星と呼んでいる」
「太陽が膨らむと赤色巨星で、それより大きいものは赤色超巨星ですね」
「まあ他にも青色超巨星とか黄色超巨星とか星の色によって色々あるけど、それは今後出てきたら、だね」
「え、他にも色々あるんですか?」
「そう、今回は赤い星だから赤色超巨星」
赤い星……
秀将はオリオン座を思い出す。
オリオン座は青白い星が多かったが、1つだけ、左上のベテルギウスだけは、赤かった。
赤いから赤色超巨星。
今、目の前のベテルギウスは地球上で太陽を見ているのと同じく、白っぽい。太陽を直接見てはいけないよと言われつつもちょっとだけ見てしまうことがあったが、その時は決まって白だと認識していた。
そこで秀将は妙な考えに至る。
「太陽は、遠くから見たら赤いんですか?」
「実際に観測できていないから何ともだけど、白か黄色かその辺りじゃないかな。太陽が赤色巨星の段階になれば赤くなるかも」
秀将はわけが分からなくなったが、それ以上深掘りしないことにした。
教科書に載っていた太陽は赤いというかオレンジ色というか、いかにも燃えていますという色だった気がするけど。
とにかく、今目の前に存在しているベテルギウスは輝きが強くて何が起こっているのか分からない感じだ。
しかし目が焼け付く感じも痛さも無い。
……これも地球ちゃんが身体に手を加えて、そうしてくれたのだろうか?
突然、斜め前方から星が迫ってきた。
秀将が驚きの声を上げる間もなく、衝突。
視界が滅茶苦茶に揺れる。
二回目の衝突だ。
少しすると、視界に赤いうねりが見えるようになってくる。
次の瞬間、左から右へ赤い帯が駆け抜ける。
前方には同じような帯がそこら中で飛び出したり帰ったりしていた。
「地獄……?!」
秀将は思わずそんな感想を呟いた。
ぐつぐつ煮えた地獄の釜。
恐ろしい世界だ。
見ているだけで熱い。
「進路が変わって、ベテルギウスの表面が左手に見えているのだろう。見てごらん、右手は赤く、宇宙も透けて見えている」
徳丸がそう言うので、秀将はよく観察してみた。
左手がベテルギウスということは……
赤い帯は炎が立ち上っているということか。
マグマのようなコブもあちこちに見られる。
右手は赤くなっている。
見る方向によっては、赤い膜の向こうに宇宙らしきものが微かに見えている。
後ろを見てみると、黄色っぽいというか金色にゆらめている。
そしてベテルギウスの方を向くと、赤いうねりはちらちら見えるが、やはり白っぽい。
炎の世界を地球ちゃんが駆け抜けているような気がしてきた。
不思議だ、と秀将は思う。
恐ろしくもあり、綺麗でもあり。
人間のままでは見られなかった光景。
「おお、素晴らしい……感激だよ加賀美君……! 我々は今、ベテルギウスの表面を滑空しているんだ」
徳丸はいたく感激しているようだ。
大好きな星を間近で見られたのだから、その感激もひとしおだろう。
素人の秀将が見たって綺麗な光景だと思えるのだから。
前方に間欠泉のようなものがブシューッと伸びる。
そしてその中を突っ切る。
会場では歓声が上がった。
『完璧な投球ができました! リプレイを楽しみにしていて下さいね!』
地球ちゃんもかなりテンションが高い。
人間には何が起こったのか分からなかったが、理想的な結果が得られたらしい。
果たして何が起こったのか。
リプレイが始まる。
太陽系の惑星たちが激しく回り、地球が射出される。
星間空間を駆け抜けて、相手星系に到着。
ベテルギウス系はどうなっているかというと。
最も内側では二つの火球が存在し。
火球でない通常の惑星が二つ周回している。
地球ちゃんがまず狙ったのは、最も外側を周回する惑星だった。
ゴンッとぶつかると、相手の星がベテルギウス表面へ向かっていく。
地球ちゃんは不自然な軌道で内側へ迫っていく。
既に生き球としての力を発揮しているようだ。
秀将は気付いた。こうして見ると、生き球って凄いな……
自分の意思で軌道を変える能力は地味に強力なスキルである。
地球ちゃんはもう一つの惑星にも命中した。
結果として、火球でない惑星二つが地球ちゃんによってベテルギウス表面に送り込まれた。
ついでに地球ちゃんもベテルギウス表面を回り始めた。
「あ、これって……!」
秀将は気付いた。
「ああ、そうだね……!」
徳丸もうんうん頷いた。
地球ちゃんの投球の、意図が分かった。
全部の星が、ベテルギウス表面に集まったのだった。
確かに凄い投球だった。
地球ちゃんが得意げになるのも頷ける。
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