第16話 あれがベテルギウスだ

『今度はこちらの番です、これで決めます!』

 地球ちゃんが勢いよく宣言する。

 リプレイが終了。

 ディスプレイが一つだけになる。

 そこに映るのはベテルギウス系と太陽系。

 両方を映した特大サイズのディスプレイだ。

 今回の対戦相手・ベテルギウスは大きい。

 しかも、大きいだけでなく投球もうまいらしい。

 素人目で見ても太陽系はなかなかの仕上がりになってきている。

 果たして、太陽系は勝てるのだろうか?

 ディスプレイが追加される。

 そこには太陽系が映し出される。

 現在、内側では尾を引く火球が二つ。

 どちらかは金星で、もう一方はベテルギウスからやってきた星だ。

 内側から三つ目の星も火球。

 これはベテルギウスの内側から発射されたものだ。

 内側から四つ目は地球。

 そこから少し離れて火星。

 そして太陽系最大の惑星である木星。

 土星。

 海王星。

 最後に、プロキシマ・ケンタウリから移籍してきた星。

 そこで秀将は些細なことが気になる。

「これ……プロキシマ・ケンタウリの星って名前付けないと言い辛いですね」

「プロキシマbで良いんじゃない?」

 徳丸は何気なく答えるが、それも微妙な気がする。

「bですか? aじゃなく?」

「aは主星を指すから、プロキシマそのものなんだよ」

「そうなんですか。いや、でも、aでもbでも味気ないですよ。もっと何か無いですか?」

「そうだねぇ……」

 徳丸が腕組みして考え始める。

 その間に太陽系の動きが激しくなった。

 ぐるぐる回る星たち。

 動きが速いと尾を引く火球たちがとても綺麗だ。

「海王星より外側を回っているからなあ、『何とか王星』にした方が綺麗に揃うけど」

 徳丸は考え込んでしまっている。

 星たちは回る。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

「でも、これからも増えていった場合名称が枯渇するかもしれない」

「まあ、そうですね……今考えなくてもって気もしますが」

「じゃあ、岩王星にしよう!」

「岩ですか?」

「天王星は天空、海王星は海、ときたら、山だろう? 山王星だと響きがあまり良くないから、岩」

 そこで、景色がぐあっと急展開した。

「おわあっ!」

 一瞬、何が起こったか分からなかった。

 尻もちをついた秀将は何秒か呆然とし、それから何が起こったか理解する。

 周囲の宇宙に広がる星の海が超スピードで後ろへ流れていく。

 ディスプレイがもう一つ追加される。

 そこには地球がアップで映し出される。

「自分を投げる時は先に言ってくれよ地球ちゃん……」

 秀将は安堵の息をついて立ち上がる。心臓が飛び出るかと思った……

 地球が射出されたようだ。

 多くの星たちは線になって後ろへ流れていく。

 動きの遅い星はよっぽど遠い所にあるのだろう。

 星間空間を駆け抜けていく。

 音はしない。

 揺れも感じない。

 巨大な船に乗ったような快適さ。

 そういえば、地球のことを宇宙船地球号と呼ぶこともあったのを思い出す。

 地球は宇宙を旅する巨大な船。

 そういうことなのかもしれない。

 ベテルギウス系に到着。

 地球ちゃんはどの星を狙っているのか……

 会場の外はどこを見ても宇宙。

 星、星、星。

 進行方向に大きな星。

 誰に教えてもらわなくても分かる、あれがベテルギウスだ。

 星系に着いた時点で既に地球で眺める太陽より遥かに大きい。

「ええと、太陽の何倍の大きさでしたっけ?」

「700倍以上だよ」

 そう、太陽の700倍……

 見かけ上の大きさはあっという間に視界を埋め尽くしてしまう。

 赤みのある輝きで、まるで炎の中に飛び込んでいく感覚。

 熱さは無い。

 でも熱いような気になっていく。

「しっかし、でかいですね……」

 秀将は初めてその大きさを実感する。

 天王星を投げた時はディスプレイでベテルギウスを見させてもらったが、その時とは迫力が圧倒的に違う。

 肉眼で見るベテルギウスはもはや異世界級だ。

 大きさが地球内のものでは例えができない。

 蟻と象とか。

 蟻と山脈とか。

 そういうので表すこともできないほど。

「ああ、凄いよ……まだ遠いのにこんなに! ちなみにベテルギウスを太陽の位置に置くと木星軌道の手前まで全部ベテルギウスで埋まってしまうんだ。太陽の700倍ってそういう世界なんだよ!」

「意味分からない大きさですね……!」

 これが同じ世界に存在しているとは思えない。

 でも、実際に存在している。

 今、肉眼で見ている。

「そう、これが……これこそが、赤色超巨星なんだ……! やっと見れた……!」

 徳丸は拳を握り締めて感動しているようだ。

「星のボスみたいな中二ワードが!」

 秀将もテンションが上がった。

 まさにボスにふさわしい大きさのベテルギウス。

 そのボスに、地球ちゃんが挑む。

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