第14話 水星の行方

 謎に包まれた投球の行方。

 秀将は徳丸に視線で助けを求めた。

 徳丸の方は肩を竦めて応じる。

「分からない。何が起こっているんだ……?」

 会場がざわつき始めた。

 みんなどうなったのか知りたいのだ。

『あ、皆さんこのままだと見えないんでしたね。失礼しました』

 地球ちゃんがそう言うと、新たなディスプレイが出現した。

 映像が映し出される。

 それは奇妙な光景だった。

 木星だ。

 独特の縞模様。

 木星が映っている。

 しかし、木星に小さな環が出来上がっていた。

「………………えーと、これは?」

 反応に困った秀将は隣に解説を求める。

「………………環、だね」

「木星に?」

「うん。正確には、木星は元々環を持っている。肉眼で見るのは難しいけれども。それが、見えるように調整されているのか……?」

「木星に環があるなんて知りませんでした」

「環は土星だけのものではないよ。木星も土星も、天王星も海王星も環がある。土星以外の環は暗くて見えづらいというだけさ」

「そうなんですか。なるほど……」

 秀将は納得した。

 木星にも環がある。

 そういうことらしい。

 でも、会場のざわつきが収まらない。

 木星の映像はそれだけインパクトがあるようだ。

 しばらくして徳丸が呟いた。

「あれ……おかしいな」

「どうしたんですか?」

「水星はどこへ行ったんだ?」

「…………ああ、そういえば」

 秀将は本題を思い出した。

 そうだ、ベテルギウス系からやってきた星が水星か金星に当たったはずで。

 その後どうなったのか知りたかったのだ。

「金星という可能性は無いんですか?」

「太陽から出ていった流星が金星の色じゃなかった。だから水星のはずだよ」

「い、色、ですか……」

 まさか色で判断するとは、秀将には想像もつかなかった。宇宙に詳しい人はそんなことでも星を区別できてしまうのか。

 マニアックとはなんと奥の深さか……

 とはいえ、映像を見る限り水星は映っていないようだ。

 まさか木星が大き過ぎて紛れてしまっているのか?

 目を凝らしてよーく見てみる。

 どうやら衛星はぽつぽつ回っているようだ。

「これらの衛星の中に水星が混ざっているとかはないんですか?」

「うーん……どうだろうね」

 徳丸は目を細くして映像を観察する。

「なんせ木星は衛星が70個以上あるからなぁ……」

 そんなことをぶつぶつ言っている。

「衛星、そんなにあるんですか?」

「あるよ。しかも、困ったことに……水星より大きな衛星まである」

「……え? それじゃ見分け付かないじゃないですか……ってか、水星って惑星なのに衛星より小さいんですか?」

「大きさだけで決まっているわけじゃないからね」

「それも知らなかった……」

 結局この映像を見せられても分からない。おーい地球ちゃん、これじゃ分からないですよ!

『終わりだけ見せても分からなかったですね、リプレイが始まりますので詳しくはそちらで』

 詳しくはWebでみたいなノリだ。

 木星の映像が打ち切られた。

 どうやらリプレイが始まるようだ。

 ベテルギウスの一部と、惑星達が回る姿が映し出される。

 惑星は3つ回っている。

 惑星の動きが速くなる。

 ビー玉が決められたコースを勢いよく転がるみたいに。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 内側から二つ目の星が射出される。

 自分の星系を飛び立った惑星が単独で宇宙空間を走る。

 目的地は太陽系だ。

 星の海をひた走り、すぐに目的地に到着。

 更に突き進んでいく。

 太陽が点から丸に変わる。

 どんどん太陽の方へ近付いていく。

 太陽からぎりぎり逸れたコース取り。

 カメラアングルが変化していく。

 星がやってくる。

 スローモーションになる。

 太陽の輝きで直前まで見えなかった星。

 恐らく、水星。

 画面の中で少しずつ星と星が近付いていく。

 そして。

 衝突。

 そこで新たなディスプレイが現れた。

 そこには水星のその後が映される。

 秀将はここから起こることを目に焼き付けようとする。

 遂に水星のその後が明かされる。

 水星は弾かれると太陽から遠ざかっていく。

 しばらくは何も起こらない。

 太陽以外は全て点でしかない。

 宇宙はとてつもなく広いと感じる。

 目的地が見えてきた。

 木星だ。

 縞模様が見える。

 だんだん木星の見た目が大きくなっていく。

 大赤斑がはっきりする。

 更に近付くと木星が画面いっぱいに膨らむ。

 ディスプレイがそれに合わせて大きくなった。

 プロキシマ・ケンタウリとの対戦で木星すれすれを飛んだことを思い出す。

 反り立つ崖みたいにそれ以外何も見えなくなるほどの巨大さを、あの時味わった。

 今回は違った。

 水星の後ろから映すカメラワークは距離を置いていて、木星が画面内に収まるようになっている。

 木星と比べると水星は小さい。

 どうしようもないほど圧倒的な差だ。

 ここでスローモーションになる。

 スローモーションになるということは。

 ぶつかるということだ。

 どうしようもないほど大きさに差がある木星に対し。

 水星が。

 衝突した。

 水星は一瞬木星の中に隠れた後、出てくる。

 ボールがバウンドしたように弧を描く。

 それからもう一回木星に引き寄せられて。

 当たるか……と思いきや寸前で周回を始めた。

 そうしたら。

 水星は。

 ボロッ……と。

 砕けた。

「えええぇっ?!」

 秀将は口を開けて固まってしまう。

 水星が砕けてしまった。

 会場からは驚きの声だけでなく悲鳴も上がった。

 砕けた細かいものが周回すると、環になっていった。

「嘘でしょ……?」

 秀将はあまりのことに信じられない。

 地球ちゃんがさっき見せてくれた映像が思い出される。

 木星にかかる小さな環。

 あれは、こうしてできたというのか……

「何てことだ! 水星が……!」

 徳丸は借金まみれのような形相で頭を抱えている。

 これが、相手の投球の真相。

 誰も想像できない、とんでもないことが起こっていたのだった。

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