第13話 不可解なアナウンス
恒例のリプレイが始まる。
太陽系が激しく回り始める。
秀将は天王星の姿を捜し始める。
天王星は……と。
水・金・地・火・木・土・天。
指折りしながら数えて天王星の位置を見定める。
これのことか……
青緑色の球。
他の星に比べて目印が無いようだ。
木星の場合目玉のような模様があるのだが、天王星はそういった明確な目印が無い。
目印が無いと、自転の様子がよく分からない……
やっぱりこう、他の星に目が行ってしまうのも分かる気がする。
そんな秀将の微妙な空気を察してか、徳丸が「あ、そうだ!」と大袈裟に声を上げた。
「天王星、確かメタンの割合が多いんだよ、太陽系で一番。大気の成分ね。よく燃えるから最初に投げたのかもしれないよ」
「〇〇の生産量日本一みたいなノリですね。メタンって何なんですか?」
「天然ガスの主成分だね。LNGって聞いたことないかな? 液化天然ガス。火力発電に使われたりするやつだよ」
「へぇ~」
意外に地球にもあるものが他の星にもあるんだなと秀将は感心した。
地球の外に何があるかなんて普段考えたことも無かったから勉強になる。
天王星が射出される。
太陽系から解き放たれ、宇宙空間を疾走する。
天王星の一人旅はすぐに終わる。
巨大な星が鎮座するベテルギウス系に到着。
天王星のドアップの画面になると自転の様子が分かった。
遠めからでは分からなかったが、確かに横倒しで回っている。
ベテルギウス系では4つの惑星が周回していて、天王星が向かったのは……
内側から3つ目の星だった。
星同士が接近してくるとスローモーションになる。
そして、衝突。
今回は変わったことが起きた。
弾かれた相手の星は上ブレしながら飛んでいく。
それに対し、天王星は下ブレしながら更に進んでいく。
相手の星がベテルギウスの表面付近を滑り始める。
後を追うように天王星もベテルギウスの表面付近を走り始めた。
二つの星は上下に距離を取りながら周回する。
ぶつかりあうことなく絶妙な配置になったように見受けられた。
「見事な投球だ……」
徳丸が何度も頷きながらそう漏らす。
その様はスポーツ中継の解説者のよう。
まあ、実際に色々解説してもらっているけど。
「これ、計算して投げているんだと凄いですよね」
「星の回転や当てる角度など、精密な技術が要求されるね。伊達に何十億年も回ってきたわけじゃないってことだよ」
「……地球って四十ウン億年でしたっけ……」
「そうだ、太陽系は46億年前に誕生したと言われている。それからずっと練習してきたことになるね。考えてみれば壮大な練習期間だよ」
1億年だって人間には無理だ。
人間はせいぜい……活躍しているスポーツ選手は20代や30代だから、練習期間もそれくらいである。
なんというか、宇宙の時間の感覚はスケールが違う。
リプレイが何度か流され、次はまた相手の番になる。
いったんリセットするように幾つかのディスプレイが消え、全体を映したものだけになる。
ベテルギウスの一部と惑星達が映されたディスプレイが現れる。
惑星は3つが周回していて、残りはベテルギウスの表面を火の球になって回っている。
ここで回る惑星たちも祭のために日夜回ってきたのだろうか。
果てしない年月を。
それと比べて、人間の一生は随分と短い気がする。
あっという間に終わってしまう泡のようなものだ。
惑星達が激しく動き始める。
これが射出の前の儀式だと言わんばかりに会場が盛り上がっていく。
こうして見ていると、惑星達は射出前の最終調整をしているように思えてくる。
タイミングと。
角度。
それと。
相手の星が公転軌道のちょうど狙った地点にやってくるように。
慎重に狙いを定めて。
撃つのだ。
惑星が射出される。
今回は内側から二つ目の星が射出された。
オオーッと会場が沸く。
このオオーッが何を意味するのか。意外性があった意味でオオーなのか。何を投げるか予想が的中したことでオオーなのか。とりあえず投げればオオーなのか。
射出された星が宇宙を駆ける。
それがどれだけの速度が出ているのか、秀将には分からない。
確か超光速とか言っていた気がするけど、アニメなんかではよく聞くフレーズな気がする。
とにかく超速い、と思っておけば良い。
そうして相手の惑星が太陽系にやってくる。
今回狙われるのはどの星なのか?
この時秀将は鼓動が速くなることに気付いた。
どの星が狙われるのも怖い。その一投が相手の思い通りになり太陽系が負けることに繋がってしまうんじゃないかという怖さだ。
でも、どの星が狙われる姿も見てみたいのも事実。
星が衝突したことでどんな変化が生まれるのか。
どうしても期待してしまう。
だから、怖さと期待。
この二つがないまぜになりドキドキしてしまうのだ。
飛んできた星の軌道は太陽系の内側へ向かっている。
地球よりも内側へ。
では、狙われているのは……
周囲に広がる宇宙からベテルギウスを探す。
オリオン座。
この星座の左上に赤く輝く星が今回の対戦相手。
そろそろリアルに見えるはずだ。
少しして、赤い輝きから光が分離する。
来た!
分離した光が剛速球で宇宙空間を迸る。
あっという間の流星。
視線でそれを追っていく。
太陽が視界に入る。
一瞬、太陽の中で流星は区別が付かなくなる。
今度は太陽から出てきた流星が全然別の方向へ飛んでいった。
拍手が巻き起こる。
どうやら衝突したようだ。
ちゃんと見えなかったけど。
当たったのは、水星だ。
『まだです』
地球ちゃんから突然の不可解なアナウンス。
まだ当たっていないのか?
まだ終わっていないのか?
流星はもう見えなくなっている。
どうすれば良いのだろう?
秀将は全体を映したディスプレイに目を向ける。
ここではベテルギウスが大き過ぎて太陽すら豆粒になっている。とてもじゃないが惑星の細かな動きを追えるものではない。
射出された星をドアップにしたディスプレイの方ならどうか。
こちらはどうやら太陽にかなり近いところまで入り込み、周回し始めているようだった。
これを見る限りではもう射出された星が落ち着いている、イコール衝突後に見える。
このエリアには既に金星があったはず。
画面内では見当たらないため、金星との距離感が分からない。
水星がどうなったのか、このままでは分からない……
いや、それとも。
金星にまさかの二度目の衝突とか?
いったい、何がどうなったんだ……
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