第12話 忘れられがちな星

『次はこちらの番です!』

 地球ちゃんが意気込んでいる。

 太陽系に投球の順番が回ってきたようだ。

 秀将は不安だ。

 超絶大きなベテルギウスを相手にすると、どうしても不安になってしまう。

 いったいどう攻めていけばいいのか?

 とてもではないが、想像できない。

 リプレイ用のディスプレイが消える。

『行きますよ!』

 地球ちゃんの声に恐れは無い。

 むしろ楽しそうだ。

 秀将は太陽系をアップにしたディスプレイに注目する。

 惑星の動きが速くなる。

 模型を素早く動かすみたいに。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 海王星の外側の星も元気に回っている。

 太陽に近くなった金星は公転軌道が小さいので目まぐるしい。

 しかも金星が尾を引いているため、激しく回ると天使の輪みたいになっている。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 この中から一つが飛んでいくことになる。

 いったいどの星が飛んでいくのか。

 木星か?

 それとも地球か?

 はたまた別の星か?

 そろそろだ。

 そして。

 その時は来た。

 惑星の中の一つが突如軌道を外れて。

 射出された。

 太陽系の外へ一直線。

 歓声が上がる。

 秀将は一瞬、戸惑った。

「あれは何て星でしたっけ?」

 水・金・地・火・木・土・天。

 そう、天だ。

 天って何の略だったっけ?

 徳丸は少々呆れ顔で答えてくれた。

「天王星だよ」

「ああ、天王星!」

 聞けば思い出す、くらいの記憶だった。

 太陽系の惑星もちゃんと覚えていないとは、徳丸が呆れるのも無理は無い。

 大抵、よく耳にするのは火星とか木星とかである。

 天王星はなかなか聞かないけど、あまり注目されない星なのだろうか?

「天王星はボイジャー2号が接近して以降、探査機が行っていないんだ。だから紹介される機会になかなか恵まれない。存在が忘れられがちな惑星なんだよ。でも素晴らしい特徴も持ち合わせている。自転軸がほぼ横倒しになって回っているんだ」

「あ、そうなんですか」

 秀将はふぅん、という感想にはなったが、どうも大きな驚きには至らない。

 この感覚はなぜだろうか?

 少し考えてみると、どうもそれ以上に変な星を知ってしまったからだという思いに行き着いた。

「でも金星はもっと倒れて逆さになってますよね」

 そう言うと徳丸の方も何とか凄さを啓蒙しようと躍起になっていく。

「そうだけどさ……ああ、これもあるぞ! 暗いけれども環を持っているんだ!」

「あ、そうなんですか。でも土星には立派な環がありますよね」

「それはそうなんだけど~……、じゃあこれだ、青緑の不思議な色をしているんだよ!」

「そうなんですか。でも惑星ってだいたいカラフルですよね」

「そんなに腐すことないだろう! 天王星ちゃんが可哀そうじゃないか!」

 いつの間にか地球ちゃん以外もちゃん付けになっている。

 徳丸の中で惑星萌えが進んでいるらしい。

 それはさておき。

「あ、もうぶつかりそうですよ」

 秀将がディスプレイの方を指差す。

 もう天王星は宇宙を疾走し、ベテルギウス系まで到達していた。

 天王星をアップに映したディスプレイがアングルを変えると、正面に不自然なほどでかい星があった。

 その大きな星は輪郭が不定形で、太陽が揺らいでいる姿と言ったら良いだろうか。

 とりあえず、それが何なのかは言われなくても分かった。

 それは近付くにつれ画面を埋め尽くしていく。

 光が強く、天王星も見えづらくなっていく。

 するとアングルがまた変わった。

 輝く巨星は画面外へ消える。

 天王星が画面内で若干小さくなる。

 画面左側に星が出現。

 そして。

 出現した星に。

 ゴンッと。

 衝突した。

 大歓声。イエーとかオオーとか、指笛とか拍手とか。

 衝突の瞬間がおめでたいものという位置付けになりつつある。

 お祭で見せ場の部分を無事終えたみたいな。

 というか、これも祭だ。

 祭なのだ。

 射出した星が無事当たってめでたい。

 そういうことなのだ。

 まず、相手の星がどうなったかというと。

 軌道半径が小さくなり、ベテルギウスに呑み込まれるぎりぎりのところを回っている。

 火の球になって回っている。

 それから、天王星はどうなったか。

 なんと、天王星もベテルギウスに呑み込まれるぎりぎりのところを回っていた。

 よく燃えて尾を引いているではないか。

 二つの火球がベテルギウスの表面をなぞるように走る。

 この二つは当たりそうで当たらない。

『うまくいきました! きれいでしょう?』

 地球ちゃんが言う通りだった。

 ベテルギウス系の惑星達は、通常目立たない。

 主星が大き過ぎるから。

 しかし、火球となった二つは違う。

 私はここにいると主張するように、はっきりと認識できた。

 今回は太陽系で火球が二つ。

 ベテルギウス系でも火球が二つ。

 どちらも同様の路線ということか。

 ならば、どちらがより上に行くのか。

 手に汗握る戦いになりそうだ。

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