第11話 また金星か!
「簡単に言うと、ベテルギウスくらい膨らんだ恒星になると、表面付近の重力がかなり低い。だからその付近を星が周回してもバラバラに砕かれることが無い」
「え、ええと、そうなんですか……?」
星がバラバラになるというのが秀将には想像できない。
もっと手前からの説明が必要だった。
徳丸は額を強く揉みこみながら、思案顔で語る。
「どう例えれば良いかな……じゃあ砂の城はどうだろう。砂の城を強力な掃除機で吸うとバラバラになり吸い込まれていくのを想像してほしい」
砂の城……
砂浜で作るアレか。
ああいうのを作る人って凄いよなあ……
秀将はやや脱線しながら想像する。
頑張って作った砂の城を掃除機で吸い込む……
確かに、砂だったら崩れながら吸い込まれていきそうだ。
「引っ張る力がどんどん強くなっていくと星もバラバラになる。ブラックホールに近付いた星はバラバラになり、ブラックホールの周囲にガス状の円盤を形成する。球体が円盤になるんだ。惑星がブラックホールへインするのを君は見ただろう? あれは実際にインしているんじゃなく、インする前にバラバラになっているんだ」
「え、そうだったんですか?」
秀将は初めて知ることばかりで、授業を受けているようだと思った。
ブラックホールの超重力なら星がバラバラになるのも、そうかもしれないと思った。
砂の城がバラバラになる現象の上位互換か。
しかしブラックホールは宇宙に空いた穴だと思っていた。
星が穴にスポッと入るんじゃなく手前でバラバラになっているとは初耳だ。
「そこでベテルギウスから発射された火球に繋がる」
「話が本筋に戻りましたね!」
「本当はもっと色んな前提が必要なんだけど……ま、ベテルギウスの表面付近を周回している星が炙られて火の球になっていたということ。ベテルギウスが自身をちぎって投げたわけじゃない」
「なるほど……そうなんですね」
究極のところ、この祭で言う攻め球が親球の内側に入っていて見えなかった。それを投げたってこと。だからルール内。でも見えない星ってグレーゾーンのような気もするけど。
リプレイがまた最初から開始される。
話している間に発射のところ以外見逃していた。
まず、惑星がぐるんぐるん回っている。
四つの惑星が見えている。
問題の火球はベテルギウスの内側にあるという。
ベテルギウスに注目しているが、問題の星は分からない。
燃えている星は複雑に模様を変化させていて、仮に星が顔を出していても紛れてしまうだろう。
逆に言えば、恒星表面の模様の変化はどれも星のようでもある。
火球が射出される。
説明が無ければ、魔法だ。ファイアーボール!
射出された星が宇宙を駆け抜け、太陽系にやってくる。
火の星の進み方である程度軌道が予測できる。
どうやらこの星は太陽系の内側を目指しているようだ。
どんどん突き進んでいく。
衝突が間近に迫る。
会場が静かになる。
そして、その時を迎える。
衝突!
当たったのは金星だ。
「また金星か!」
秀将は思わず言ってしまう。
プロキシマ・ケンタウリの時も最初に狙われたのは金星だった。
金星には何か狙いたくなるものがあるのだろうか?
『金星はそのままにしておくと駄目な星なのです』
地球ちゃんがアドバイスめいたことを言う。
……そのままにしておくと駄目?
そのままとは何だろう?
秀将はよく分からなかったので、隣に助けを求めた。
徳丸の方は探り探りといった感じで答える。
「金星は太陽系の中で唯一、逆向きに自転している惑星なんだ」
「……え、逆なんですか?」
「しかも自転がとても遅い。地球で言う243日をかけてようやく一周する」
「それは、…………なんか、何でそんな遅いんですか?」
「謎は解明されていない。でも、そのままにしておくと駄目っていうのは、この特異性ゆえのことだと思う。金星をそのままにして終了した時を想像してほしい」
「想像ですか」
秀将はしばらく目を瞑って集中する。
お互いの星系が投球を終了して審査段階になったとする。
金星は自転が逆。
しかも自転が遅い。
他の星は揃って回っているのに金星だけが逆だったら。
他の星がぐるぐる回っているのに金星だけのろのろ回っていたら。
芸術点は低そうだ。
そこで新たなディスプレイが現れる。
そこには太陽系だけが映し出された。
金星はどうなったかというと。
水星よりも内側に入り込み、太陽の近くを回り始めた。
そうしたら、金星が尾を引き始めた。
太陽に近過ぎて炙られているのではなかろうか。
とりあえず金星の自転は正の向きになり、画面で見る限りではそれなりに回り始めたようだった。
そこで、プロキシマ・ケンタウリとの対戦を思い出した。
あの時、金星にはかすめるように相手の球が当たったはずだ。
あの時かすめるように当てたのは、金星の自転の向きと速さを調整するためだったのか……?
徳丸の考察は割と当たっているんじゃないかという気がしてきた。
いっぽう、飛んできた火球の方はどうなったのだろうか?
画面を見てみると、火球は元の金星軌道付近を周回している。
「加賀美君、あれを見てくれ」
徳丸が言うので、秀将は示された方へ目を向けた。
強く輝く星が、更に明るくなったり元の明るさに戻ったり揺らめいていた。
勘で分かった。
あれが火球だ。
今まで見れなかった星が見られるようになるのは良いことだ
画面上では太陽系に二つの尾を引く星がある状態になっている。
「このまま尾を引く星ばかりになったら芸術点高そうですね」
何の気なしに秀将はそう言った。
徳丸はそんな秀将を見てニカッと口角を上げた。
「加賀美君、だんだん祭に染まってきたね?」
秀将は指摘されて驚いた。
いつの間に芸術点を気にするようになってしまったのだろうか?
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