第10話 リアルファイアーボール(星サイズ)

『今回は相手が先攻になりました。投球が始まります』

 まず、この空間には特大サイズのディスプレイがあり。

 別のディスプレイが現れる。そこにはベテルギウス系だけが表示される。

 もう一つディスプレイが現れる。そちらにはベテルギウスの一部と、周囲を回る惑星たちがクローズアップされた映像が映っている。この画面なら惑星がはっきり球体として認識できる。

 惑星の動きが激しくなる。

 まず、ベテルギウス系だけが映っているディスプレイを見てみる。

 小さな粒が回っているのは分かるが……

 この画面ではあまり状況がよく分からない。

 ベテルギウスの一部と、惑星たちがクローズアップされたディスプレイの方に目を移す。

 惑星がぐるぐる回っているのが分かる。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 どうやら惑星の数が少ないようだ。

 一つ、二つ、三つ……四つ。

 四つだけである。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 公転が激しくなっているのだが、恒星が大きい分だけ公転軌道も大きくなっていて、一周するのにかなり苦労しているように見える。

 ベテルギウスは、どの星を投げるのか。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 そして。

 どの星を狙ってくるのか。

 そろそろ射出だ。

 四つのうち……

 どれなのか……!

 そうしたら。

 射出された星が星系を出ていくところだけが見えた。

「えっ……?」

 思わず目を疑ってしまう。

 いつ発射されたのか?

 どの星が発射されたのか?

 もう一度惑星の数を数えてみる。

 一つ、二つ、三つ……四つ。

 四つだ。

「んん???」

 どういうことだろう?

 ディスプレイが一つ追加される。

 そこには飛んでいく星をドアップにした映像だ。

 そこに映っていたのは火の球だった。

「なっ…………! なに、これ……?」

 意味が分からない。

 まるでベテルギウスが一部を切り離して投げたみたいな。

 会場がどよめきに包まれる。

 何が起こっているのか理解できないのは秀将だけではないようだ。

 徳丸は顔をしかめてじっとディスプレイを睨んでいる。

 真相を掴みかねているような表情だ。

 火の球はあっという間に太陽系にやってくる。

 秀将はあることを閃いた。

 この星はどこからやってきているのか?

 もちろんあの星だ……!

 ベテルギウスを視界いっぱいに広がる宇宙から探す。さっき見たのはどの辺だったか……あの辺か……見付けた!

 赤く強く輝く星。

 ここに目を向けていれば、流れ星が見られるはずだ。

 そしてそれは的中した。

 しばらくして、赤い光がベテルギウスから分離した。

 分離した光は尾を引きながら宇宙を駆け抜けていく。

 流れ星。

 願い事をする間なんてない。

 流れ星が角度を変えた。

 ぶつかったんだ。

 会場はざわついている。

 投げた星が何なのか?

 その星はどれに当たったのか?

 それらの関心事が想像を掻き立てる。

 様々な言語が飛び交っているが、射出した星はこれこれこうじゃないかとか、当たった星は恐らくあれだろうとか、話しているに違いない。

 謎を解く鍵はこれから始まるリプレイにある。

 徳丸がまだ何も言わないので、秀将はじっと待った。

 待つことしばし。

 待望のリプレイが始まる。

 まず、惑星の周回が速くなる。

 ぐるぐる、というより軌道が大きい星ばかりなのでぐるんぐるんという感じ。

 惑星の数は四つ。

 四つだ。

 もしかして、どれかの星に隠れてもう一個くらい回っているんじゃなかろうか?

 その仮説をもとによーく見てみる。

 一周するうちのどこかのタイミングだけちらっと見えるとか、ないだろうか。

『親球の方をよく見ていて下さいね』

 地球ちゃんがアドバイスをくれた。

 親球……

 一瞬遅れて秀将は理解した。

 親球は、恒星のこと。

 要はベテルギウスのことだ。

 では、ベテルギウスをよく見ていろということ……?

 秀将は少々疑りながらも巨星の方に注目した。

 もういつ射出の瞬間になってもおかしくない。

 なんだ?

 いったい、何が起こるんだ……?

 秘境に踏み込み絶滅危惧種をカメラを構えて待つように。

 目を皿にする。

 その瞬間が来た。

 ベテルギウスの中から火球が射出された。

「……えっ、ちょっ……?!」

 秀将は理解が追いつかない。

 こんなの、いいの?

 リアルファイアーボール。

 しかも、星サイズの、だ。

「どういうことですか? これ、反則じゃないんですか?」

 秀将はいてもたってもいられず徳丸に質問をぶつけてみた。

 徳丸は難しい顔だ。

「いや、恐らくは反則じゃない……けど」

 何か決め手に欠けるみたいな言い方だ。

『反則じゃないですよ。内側を回っているだけです』

「やはり、そうなのか地球ちゃん……!」

 徳丸は開眼したようだ。そして地球ちゃんにかなり馴染んでいる。

 答えに辿り着いたらしい徳丸は秀将に向き直った。

「これは、反則じゃない。ベテルギウスの内側に軌道がある星だったんだ……!」

「……へ? 内側?!」

 星の内側にまた星が。

 いったい何がどうなっているのか?

「くっ……これは前提を幾つも説明しなければならないな……!」

 飢えた肉食獣みたいな表情になる徳丸。

 それはもどかしさを覚えているのか、沢山説明できる喜びを表しているのかどちらとも言えないものだった。

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