第3話 地球ちゃん発射!
秀将は少しの間、考えこんだ。
どうなるんだろう。
地球を射出した場合。
自分達は視点がここに留まったままなのか、それとも、地球と一緒に飛んでいくのか。
隣の徳丸と視線を合わせたが、お互いにどっちなんだろうという気持ちのようだった。
全方位宇宙空間、星の海。
また星の動きが速くなる。
ディスプレイの中でも太陽系が激しく回る。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
もうそろそろ射出だろう。
秀将はふと、些細なことが気になった。
月は連れていくのだろうか。
地球が射出された。
視界に映る星々が線になって流れていく。
月も、太陽も、金星も、いなくなっている。
歓声。
どよめき。
悲鳴。
種々様々な声が混ざり合い空間を満たす。
「おおおおおぉっ!」
秀将も声を上げる。
理解を超えたスピード感に衝撃を受けている。
プロキシマ・ケンタウリ系に到着。
進行方向に目を向けると、幾つかの星の輝きが強くなり、やがて点から丸に変わる。
その内の一つがどんどん大きくなっていく。
目指している星がこれなのだと理解する。
星の模様が見えるようになってくる。
視界いっぱいに星の姿が広がっていく。
衝突コースに入る。
星が迫ってくる。
当たる……!
秀将は激突の瞬間、両腕で顔の前を防いだ。たぶん、車で助手席に乗っていて衝突する時も同じ姿勢になるだろう。
「わあああああぁっ!」
衝撃は来なかった。
揺れも来ない。
「……あれ?」
相当な衝撃が来ると予想していたのに、ぜんぜんだ。
星同士の衝突といったらとんでもないものだろうに。
大勢が悲鳴を上げていたが、危険が来ないと分かると静かになる。
衝突後、どうなったのか。
ぐるりと視線を巡らせる。
周囲は宇宙空間だ。
『まだです』
秀将は理解できず、軽く固まる。
何がまだなのか?
少しの静寂。
どこを見ても星だらけで、次に何が起こるのか分からない。
分からないからこそ、気になる。
キョロキョロしていたら、点から丸になった星を見付けた。
また星が近付いてきたようだ。
今度はなんなのか。
進行方向の星が徐々に大きくなってくる。
模様も認識できるくらいになる。
茶や白の縞模様だ。
どこかで見たことのあるような星だ。
その星はどんどんどんどんでかくなっていく。
しかしまだ激突ではない。
縞模様が更に鮮明になってくる。
大きさは、視界に収まりきらないまでになった。
だというのに、まだまだ大きくなっていく。
「お、おおおお大きい……!」
とんでもないでかさだ。家の玄関開けたら目の前に富士山が、いやエベレストがあったとしたらなんじゃこりゃあってなるだろう。それぐらいでかい。太陽系で一番大きな惑星だと教わってはいたけど。これに比べたら地球なんてまだまだ小さいことが分かる。
こんな大きな星に当たって大丈夫なのだろうか?
だが、当たると思いきや、軌道が微妙にずれていることに気付く。
このまま直進すれば巨大な星の近くを通り過ぎる形になるはずだ。
巨大な星の脇の空間に入る。
通り過ぎざまに巨星の姿を目に焼き付けようとみんなが目を向ける。
そうしたら、急に景色がぐるんと回った。
いったい何が起こったのか?
当たってはいないはず。
だが、大きく視界はブレた。
いつの間にか後ろの方へ木星が遠ざかっていく。
「スイングバイか……!」
徳丸が謎のフレーズを口にする。
秀将が何ですかという顔を向けると徳丸は察したようだ。
「星の近傍を通り過ぎる物体は星に引っ張られて、星に近付く軌道に曲げられる。木星の巨大な重力を利用して、地球の進行方向を変えたんだ」
「なるほど……」
秀将も重力のことはある程度想像がつく。
木星重力が大きいことも漫画とかで知識はある。
「普通は惑星探査機でやることなんだよ。それを地球でやろうなんて、スケールがでかすぎる……! 地球くらいの質量があれば木星の軌道にもある程度影響を与えたはずだ」
木星はあっという間に小さくなってしまった。
あんなに大きい星が、遠くなると最後は点になってしまう。それは不思議なことのように思えた。
徳丸はそれを難しい顔で見送っている。
「うーむ……何だかこれは速度というより……いやまさか」
何か言いたそうだが、寸前で留めている感じだ。
その留まっているものが何なのか。
少し待ってみたが出てこない。
そこここで声が上がる。何かを見付けたようで、あれを見ろ、と叫んでいるようだ。
進行方向に目を戻すと、新たな星が近付いてきていた。
これも大きい。
だが木星に比べれば随分小さいようだ。
これに当てるのか?
しかし軌道がズレている。
このままでは当たらない。
もしやこの星もスイングバイを?
『当てます』
その宣言は現実になった。
進路がぐぐぐっと変わり、衝突コースに入る。これはスイングバイではない。自力で進路を変えたように感じられた。
目の前の星との距離が縮まっていく。縮まっていく。星の模様が鮮明になり、細かい模様まで分かるようになって。
ぶつかる!
この瞬間、秀将はまた身構えてしまった。正面にとてつもない大きな物が迫ってくれば反射的に体が動いてしまう。
激突。
視界は一瞬ぐちゃぐちゃになる。
それから星同士が離れていく。
衝撃は、来ない。
「……ふぅ」
秀将は安全が分かると、肩の力を抜いた。
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