第15話

 襲撃事件から二日目。

 ニュースでは、人間による通り魔事件によって、三人の死者が出た事を伝えていた。

 しかし、ワイドショーでは、いまだにヒーローの責任に言及している。


 そんな中、『ザ・ヒーロー』ジャポン支部特別訓練場で叫び声。

「――もうやだ!キュアウサギ殺す!」

「いーやだー!こーうなりゃ、しーにたーくねー!」

 少女は、傷だらけになりながら訓練をしていた。しかし、少女に耐えられるはずもなく、二日前の決心は、空の彼方。刀をもってウサギを追いかける。

 二日前は献身的な態度を見せたウサギも、こうなれば全力で抵抗する。

「……」

 その様を無言で見つめる仮面ライダー鈴木。呆れるほかない。

「――はぁ。おいおめぇら!とりあえずこっちにこぉぉい!」

 一人と一匹を呼ぶ怒声。二人は互いにけん制し合いながら、鈴木の前に立った。

「……ちょっといいか?お前ら、いくらなんでも軸がぶれすぎだろ?漢なら言った事に責任を持ちやがれ!いくらなんでも漢気がたりねぇ!」

 鈴木は苛立ちを隠さずに、怒声を浴びせる。


「……」「……」

 黙り込み、そっぽを向く一人と一匹。

「おい!聞いてんのか!」

 その様に再び苛立つ鈴木。

「――聞いてるよ!うるっさいなぁ!私は子供なの!そもそも漢じゃない!ぶれさせ

 てよ!ぶっれぶれでいいじゃん!昨日の目標は昨日の目標で、今日の目標は今日の目標なの!別物!まるで、何もなかったかのように、一、二週間ぼーっとしてもいいでしょ?」

「こうなーりゃ、いーじでも、しーなーねー」


 わがままを吐き捨てるマオとウサギ。それに頭を抱える鈴木。

「……はぁ。ジャスティスも何を考えてるんだか」

「――はぁ?なんか言った?」

 マオは聞き直す。さっき、こいつはジャスティスと言わなかったか?

「……いや、なんでもない」

 鈴木は、マオの言葉に応えない。

「こうなりゃ、お前たちは協力しろ。運命共同体だ」


 鈴木は言う。実直に鍛えるだけでは、この少女は強くなれない。それならば、他のやり方をこの少女たちに伝えよう。

 考えられるヴァリアヴァロン攻略法は、いくつかある。

 ひとつは力で敵のガードを撃ち抜く事。これは既にマーマレードが失敗している。

 もうひとつは手数。一撃で破れないならば、何度でも、最大出力で連撃。その為に、マオの地力を回復させる『ウサギの殺害』を提案。却下された。

 ならばと、特訓による地力の向上を図ったが、マオの根性が足りなかった。

 そして、最後のひとつ。手数による突破口の派生。それが、一人と一匹の連携だ。

「……えー」「……えー」

 しかし、その提案に不満げなマオとウサギ。


 けれど、その態度に、いちいち文句を垂れる時間はない。鈴木は説明を続ける。

「……まず、俺の見解を話そう。ヒーローとしての素質、そして地力だけで言うならば、お前はマーマレードよりも強い。それは間違いないだろう」

「――え?」

 鈴木の言葉に耳を疑うマオ。マーマレードは、間違いなくマオより強いはずだ。

「しかし、マーマレードが、お前より弱い訳ではない。彼女は確実に強い。何故なら、彼女は自分に合った戦い方を知っているからだ。敵を捕らえ、少ない力を一点に集中させる。今回の奴は、ヴァリアヴァロンに増幅効果を掛けられなかったからだな」

 マーマレードの強さとはすなわち己を知っている事。法力の総量が少ないからこそ、長期戦を避け、敵を捕らえ、橙の輪による増幅の力を使い、一撃にすべてを込める。

 ヴァリアヴァロンには、増幅の力が掛かっていなかった。それが敗因だと鈴木は言う。


「……狐なら問題なく倒せたと?」

「間違いない。だからこそ、あの獅子は庇うために割り込んだのだろう」

 マオの問いに、鈴木は頷いた。

「そーれでー?地力があってーも、マーマレード―にかーてなーい?」

 ウサギは先程の鈴木の言葉を復唱する。鈴木は頷き説明を続けた。

「あぁ、そうだ。何故ならお前は自分の事を知らない。召喚前の自身の法力の量に頼った戦い方をしているんだ。心当たりはねぇか?」

 鈴木の言葉に内心、苛立つマオ。


 自分の事を知らない。過去に頼った戦い方。少女は考える。そして、出た結論。

「――ない!私は悪くない!」

「――よし!一から説明しよう。黙って聞いてろ!」

 マオは宣言する。完璧な流れからの一撃を、防ぎもせずに止められた。

 自分の全力だったのだ。悪いところはなかったと。


 鈴木は呆れ、説明を続行。

「お前は、もとより法力をかなりの量、持っていたみたいだな。半分を失った今でも、下手なヒーローよりはあるだろう。その上で問題がある。お前は手数が多すぎる。法力を込めた刀による連撃。鉢巻きを炎に変質させる事。さらに、接触可能な物質に再構築、それをさらに操作し、相手を捕まえる。そして、法力を込めた一撃。随分と色々な技を盛り込んでいる。連撃としては満点と言えるだろう」


 鈴木はマオの事を、注意すると共に褒めちぎる。マオは少しだけ得意げに笑みを見せた。

 わかっているじゃないかと鼻、高々になる。しかし鈴木は言った。

「しかし、最後の攻撃はなんだ?法力が持たず、お前の刀はほとんど、ひとりでに折れてしまったようなもんだ。今のお前の法力と、お前の戦い方は、根本から合っていないんだ。それに対して『自身を知らない』と俺は言っている!」

 マオの戦い方は、自身の能力に伴っていない。


「……うぐ」

 指摘されたマオは苦い顔を見せる。鈴木は間違ったことは言っていない。

 これがぐうの音も出ない。という事なのだろうとマオは感じた。

「じーぶんのたたかーい方を知ってるー。そーれとーきょーどーたい?かんけーなくね?」

 ウサギはこの結論と、先ほどの言葉の関係性を問う。

「……確かに関係あるの?私が考えて戦えばいいだけじゃない」

 マオも言う。ウサギと運命共同体になるつもりなどない。と言うような言い草だ。

「……ちっ、それじゃたりねぇって言っているんだ。法力を全力で出せない今、召喚を利用しない手はない。それこそ特攻させるつもりでな。まずは敵の隙をつくり、その上で全力を使い敵の懐を切り裂く。その為にはお前らの息の合った連係が必要になる」

 男は言う。やるべき事は全力で敵を切り裂く事。それにはウサギの協力と、連携が必要になる。問題はそこから先。彼女の刃が通るかどうか。

「……そう簡単に、出来るかな?」


 マオは問いかける。力を温存し敵の隙をつくり、全力で切りかかる。それでも通らない可能性は十分にある。賭けであることに違いはないのだ。

「簡単に出来なくてもやれよ。けど、まぁ、短期間で奴を倒す可能性は、これ以外にない」

「……まぁ、だよね」

 これは圧倒的な力の差で行われる戦い。逃げる方が正しいと言う人物も多くいるだろう。その上で賭けに勝つ可能性を示唆する。


「どうする。やるか?」

「……やるよ。今の特訓よりは楽そうだし、可能性も高そう」

「ふっ、なんとなく、お前が分かってきたよ」

 打算的な応えに鈴木は笑う。マオはやる気になったようだ。

「……よし、まずは、お前らで協力して俺に一太刀入れてみせろ。それが特訓だ」

「怪我をしても知らないよ?」「やーってやーるぜ」


 一人と一匹は不敵に笑う。

「俺が、お前らから、一太刀でもくらう訳がないだろ。まぁいい。こいよ」

 ライダー鈴木は笑う。彼の本気を見せるまでもないと。

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