第13話
「があっはっはっは!見事だ。魔法少女共!」
マーマレードとバンジェリンの間に立つ、巨大な獅子。
必殺の一撃は、ヴァリアヴァロンの胸元で止まっていた。
それは一切の防御なく、ただ完全なる力による圧倒だった。
「――んな、通らない?」
マーマレードは目を見開く。
回避も防御もしない上で、この獅子は攻撃を止めた。
その獅子の後方には、折れた刀を握り、呆然自失となったマオの姿。この場にいるヒーローの攻撃は、ヴァリアヴァロンの皮膚に傷一つ、つけられていない。
「お、おい。これって」「……う、嘘でしょ?」
初めて観衆にも動揺が走る。
彼らは慌てふためき、ヒーローショー等ではない事に気付く。
「見苦しいぞ貴様らぁぁああ!漸く死地だと悟ったかぁぁぁぁああああ!!」
獅子の咆哮。そして、それと共に彼はアスファルトの地面を踏み抜いた。彼を中心に地面には縦横無尽に亀裂が走る。それらは観衆の足場を崩し、多くの人間を転倒させた。
彼の行動によりバンジェリンの拘束は解け、マーマレードは体勢を崩す。
「ここはひとつ、恐怖の楔を打ち込もう。『獅子の片腕』」
「くっ、これは――」
王の風格を漂わせる行動に、マーマレードは死を自覚する。
マーマレードは咄嗟に腕を交差させる。そして獅子の手が彼女に触れた。その瞬間だった。マーマレードの身体は、まるで突風に煽られた木切れの様に、一直線に吹き飛び、背後のビルを突き破り、この場から姿を消した。 ――戦慄。それを皮切りに、せきを切ったように、人々は我先にと逃げ出した。
「うわぁぁぁぁぁああ!」「だめだ!」「なんだよあいつはぁぁあ!」
その濁流は他人を顧みない。
転んだ人間など、足場でしかないかのように踏み抜いて、彼らは逃げていく。
その様子に瞳を逸らすマオ。こんなはずではなかった。
あの獅子は全くと言って力を使ってなどいない。魔力を薄く纏っているだけだ。
「……こんなはずじゃ」
マオは呟く。彼女の身体を纏う法力は繋がりを弱め、淡い光となって消え始める。
そんな彼女を見つめるヴィランの二人。
「……すいやせん。迷惑かけました。あのガキは私めが」
「――構わん」
バンジェリンは、先程の失態を取り戻そうと、一歩前に出る。
それを、ヴァリアヴァロンは止めた。瞳を伏せ、首を左右に振る。
そして、代わりに獅子が、ゆっくりとマオの元へと歩みを進める。
その時、その間に一匹のウサギの人形が、ふわりと立ち塞がった。
「おおーい!こーから先はいーかせんーぞー!」
それはマオの召喚によって生まれたキュアウサギ。一秒の時間稼ぎにもならない。
しかし、百獣の王は歩みを止めた。
「今、多くの者が死のうとしている。恐怖から人間は人間を殺す。顧みなどしない」
王はこの状況を伝える。
「そーれが、なんーだ」
ウサギは、キッと睨み付けて言う。
「儂は、そんな人間を守るヒーローと言うものが理解できない」
獅子は言う。
その言葉にマオは揺れる。それは彼女の中に眠るひとつの疑問でもあった。
「しかしだな――」
けれど、王は言った。
「儂はそんなヒーローが好きだ。だからこそ戦いたいと願うのだ。この場は小さきヒーローに免じて去るとしよう。魔法少女よ。己の責務を果たせ」
それは嘘偽りない親愛の言葉。そして宣戦布告。
王はマオの背中にそう一言残すと、毛深い腕を器用に使い指を鳴らす。すると、足元の影に吸い込まれるように、ヴィランの二人はこの場から姿を消した。
マオの命は紙一重で繋がった。彼女は腰砕けとなり、膝を着く。
「た、助かった」
瞳から涙。そして、冷や汗が自身でも、驚くほど流れていた。
『己の責務』そんな物など、かなぐり捨てて逃げ出したい。すべてを捨ててまた、静かな場所に逃げ出そう。今度は誰もいないところを選ぼう。
しかし、彼女には出来なかった。そんなことできるはずがなかった。
あの獅子は、ヒーローが好きだと言ったのだ。弱い人間を守るヒーローが。
優しくて強い。そして、人間を守るヒーロー。それは少女が憧れ、なりたいと思ったヒーローの姿だった。あんな言葉を言われては逃げる訳にはいかなかった。
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