第9話

マオとマーマレードの二人は、タイムカードを通すと現場に急行する。

渋谷ハチ公前。多くの人間が存在する場所。そこにヴィランが現れたとの事だ。

緊急事態。しかし、そこに辿り着いたマオは目を疑う。

「キャー!」「うわー!」「すげー!」「本物だー!」

響く歓声。彼らに共通することは、逃げる事よりも、携帯で写真を撮る事。

ヴィランを中心に、円を描くように群衆たちは位置取っていた。

「こ、これって」

「ヒーローショーみたいでしょ?私は慣れちゃったけど、他から来たヒーローは驚くわね」

狼狽えるマオに、マーマレードは笑ってみせる。

「……人間達はヴィランを恐れないんですか?」

マオはそんなマーマレードに疑問をぶつける。彼ら人間が、ヒーローを信頼しているとしてもこれは異常だ。そして、それを笑えるヒーローも。

マオの言葉にマーマレードは、顎に綺麗にネイルアートが施された指を当てて逡巡。

「……そうねぇ。確かに不思議かも。きっと、ジャポンの人たちは、アニメや漫画、はたまた特撮か何かと思っているのよ。ほら、昔から日曜七時半からスーパーヒーロータイムだもの」

「ん?そういうものですか?」

マーマレードの返答にマオは首を傾げる。


「ま、敵も顔見知りが多いし、やることなす事しょぼいから、怖がる必要はないわよ。強い奴は、ジャスティス・ジャポン支部が食い止めるしね」

そんな彼女を安心させるために、マーマレードはそう言葉にした。

しかし、その言葉にマオは違和感を隠せなかった。不意に体を鳥肌が包む。

「――え?強い奴を食い止める?」

その時だった。再び大きな歓声が上がる。

「あら、いけない。やっこさんも、そう長く待ってくれない様ね」

マーマレードは、そう言うと、絵本に出てきそうな魔女のほうきを具現化する。それは手から離すと地面に対して水平に浮いた。そして、腰掛けるとマオに手を伸ばした。


「さぁ行きましょう。ヒーローの初陣よ」

マーマレードはウインクする。

「……は、はい」

マオは不安を拭えないまま、彼女の手を掴んだ。

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