第4話

 ルークはマオに笑いかけると、乗り捨てられたのか、それとも持ち主が別にいるのか、分からない黒塗りの車の傍に寄る。そして手をそっと触れた。

 すると黒塗りの車体は、ほのかに光って見せた。

「これが『スキャン』調査対象の状態を事細かに知ることが出来る。こいつには罠は仕掛けられてないみたいだな」

「……へぇ」

 ルークは状況について説明する。黒塗りの車の安全性を伝える。

 マオは、法力にそんな使い方がある事を初めて知り、感心する。

「次はそうだな。こうやって『具現化』で鍵を作る事もできるが――」

 ルークはまるで手品のように鍵を掌から生み出す。そのカギは車のロックを容易く開いた。

 しかしルークは首を振って鍵を再び無に帰す。

「――マオくんは『具現化』も出来るようだし、これじゃつまらないな。ちょっとした面白いものを見せてあげよう。さぁ出ておいで『召喚』」

 彼は悪戯な笑みを浮かべるとそう一言呟いた。それと同時に車のエンジンがかかる。

「――え?これは?」

 マオは首を傾げる。車にはキーは刺さっていない。エンジンを掛けるそぶりも見せなかった。

 その時、カーラジオからジャズの旋律が流れる。サックスの音色が心を躍らす

「ははっ、いい趣味してるな!」

「……どういう事ですか?」

 その音楽に嬉しそうに笑うルーク。この状況の説明を求めるマオ。その時だった。

 ジャズの音色をBGMにカーラジオから陽気な声が流れる。それは随分と親しげだった。

「はーい!おー久しぶりだねオゥニーさぁん!へーい!」

「久しぶりだなポーン。元気にしていたか?」

 その声に親しげに返すルーク。まるで古い知り合いと会話をしているかのようだった。

 マオはたまらず問いかける。

「……す、すいません。一体なんですか、これ――」

「――おいおいおーい!元気にしていたかとは随分な質問だなオゥニーさぁん!こちとら太平洋に沈められたぶりの再会じゃねーのぉ?元気な訳があるかいよぉ?」

 マオの言葉を遮りカーラジオは叫ぶ。その壮絶な過去にマオは苦い顔を隠せない。


「あっはっは、そうだったか?悪いな。とりあえず、今回も軽いお使いがあるんだ。向こうの通りまで、お前の全速力見せてくれよ」

 ルークはカーラジオの声に笑うと、通りの向こうに指を指す。西から指す光がビルの合間をくぐり、通りを橙に照らしていた。マオはその先を見つめて眉根をひそめる。


「ルークさん。あの先は――」

「――おっと。わかっても口に出さない」

 マオは通りの気配に気付く。あの先は人間の殺気が尻尾を見せている。しかし、マオのセリフはルークによって止められた。

「へっへーい!嬉しい事を言ってくれるね。しっかし、こいつぁ一切手入れされてねぇぞ! まぁ、俺の力をつかやぁ一発でぇい!行ってくらぁ!」

 するとカーラジオの声は嬉しそうに叫ぶとエンジンを一吹きさせる。直後強烈な空回りをかます後輪。右、左と大きく車体を揺らすと、爆発的な加速をもって通りを突っ切った。

「……ポーンのお仕事終了だな」

 ルークは呟く。

「――え?」

 その言葉にマオが耳を疑うと共に、放たれる銃撃の連続音。それと共に風を引き摺る音。うねる煙の尾を引きながら、それは一直線に車に向かった。

 それは、今や過去の産物となった兵器『携帯対戦車グレネード』。


 その存在に気付いた喋るカーラジオ『ポーン』は叫んだ。

「うおぉぉい!また謀りやがったなオゥニーさん!また沈めるって言うの――」

 直後。爆散。黒塗りの車はもの言わぬ破片に成り下がる。通りを黒煙が包む。敵の攻撃が止んだ事で、黒煙によってあちらが視界を得られていない事が、こちらからも把握できた。

「さてと、これが僕の愛用している法力の使い方『召喚』だ。命無き無機物に疑似生命を与えると言うものだ。条件もある。俺の場合は『スピーカー付属物に限る』と言うもんだ」

 ルークはこの惨状を前に、マオの質問にいまさらながら答えた。


 しかし、今やマオの興味は移っている。

「いや、その『召喚』についてはよくわかりました。ただ一言だけ。なぜ殺したし」

 それはポーンを爆散させた理由だ。ルークは、あの通りの先に危険がある事を知っていたように思える。少なくともマオは気付いていた。


「え?あぁそれはマオくんに説明する一環でもあるんだ。この『召喚』は制約もあってね。召喚中は、術者の力を何割かに抑えてしまうんだ。だから役目を終えたら処分しなくちゃならない。けれど、問題もある。召喚された使い魔どもは、全力で命乞いするんだよ」


「……命乞いですか」

 ルークの言葉に、苦笑いを浮かべるマオ。

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