第2話

中塚は、マンションを出た。

目的地である新しい会社は自宅から車で20分ほどの場所だ。

車に住所地を告げ、備え付けのソファに横になる。

およそ100年前は車にハンドルが付いていて、それを物理的に回すことで車を移動させていたというのだから、驚きだ。

そんなことを考えている内に、中塚は車の中で寝てしまった。


何分が経ったろう。気づくとそこは自宅のベッドの上だった。あり得ない。中塚はさっき部屋を出たばかりの自分がなぜ部屋にいるのか理解ができなかった。

慌てて、カレンダーを確認する。

4月2日(土)。

さっきまで、4月1日(金)だったはずだ。


中塚は混乱する頭の中で、彼が置かれた状況について、仮説を立てた。例えば1つの仮説はこうだ。24時間車の中で寝てしまっていた。

でも、車の中で寝てたとしたら、なぜ自室で目が覚めるのだろう。どの仮説も合点がいく説明ができなかった。


その内、どうでも良く思えてきた。金曜日を働きもせず乗り越えたんだから幸運とさえ思えてきた。中塚は、土曜日の効用を最大限に得るためその日一日を遊び倒した。


そのツケが回ったのだろうか。その夜、中塚はひどい風邪をひいた。高熱で頭はガンガンし、下痢と吐き気がひどかった。結局高熱で寝ることができず朝を迎えた。


まだ頭が痛い。ベッドの上でじっとしているとチャイムが鳴った。

しばらく動けずいると「おーい、中塚ー」と聞き覚えのある声がする。まさかなあと思いつつ、這うようにしてドアに近づき扉を開くとそこには本前がいた。

中塚は呆然とした。本前が笑顔でこう言う。「いやー、実はさ、お前が具合悪いっつーのSNSで見かけて心配になってさ笑これでも飲んで元気出せよ。」

本前は、日本からわざわざ栄養剤やポカリスエットを差し入れに来てくれたのだ。

中塚はあまりの嬉しさに嗚咽し、お礼の言葉もろくにいえないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る