第9話
昼休み。
友人たちに次の曲の”コンセプト”についてのネタバラシ的なことをしていると、いつもは俺を殴ってくる宮口がやけにおとなしく俺の近くに来た。
「ねえ川崎君、この後時間あるかな?」
彼女は俺の腕をつかんで甘ったるい声でそう言ってきた。
こういう時にはどんな反応をすればいいのだろう……
戸惑って口をもごもごさせていると、宮口はしびれを切らしたのかちょっと不機嫌そうには話してきた。
「いきなりごめんもしよかったら今日の放課後に体育館裏に来てね!」
宮口はそう言い捨てて、仲良さそうな取り巻きたちと話し始めた。
「うわぁ……どんまい川崎」
友人たちは俺のことを憐れむような目で見てきた。
まいったな、放課後になるまでにあいつを振る理由を考えなきゃな……
普通の人だったら理由とかは言わなくていいと思うのだけれど、今回は違う。
相手は暴力で人を手名付けている宮口だ。
あいつに納得してもらえるような理由がないと暴力を振るわれるだろう。
「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくるよ」
俺は情報を整理するために教室から出た。
廊下をのんびり歩いていると、なんだか懐かしい……というより、鼓動が早くなるような匂いの女の子とすれ違った。
この匂い、どこかで同じものを……。
喉くらいまで出てきているのに、あとちょっとで思い出せない!
たしか、たしか……
「ピアノの人だ!」
思い出した俺は、その場で叫んでしまった。
もう、一目ぼれしたあの子と付き合うしかない!
「あの……ちょっといいかな?」
俺はさっきすれ違った彼女に声をかけた。
彼女はおどおどしながらだったけれど振り向いてくれた。
「な、なんでしょうか……?」
「ああ、いや、その……」
ここまでは100点満点の出来だったのかもしれないけれど、ここから何を話せばいいのだろうか。
日曜日に会ったことを話すのか、それとも今初めて会った風を装って話すのか……
俺が迷っていると、彼女も手をたたいてうなずいた。
「もしかして、とても上手にピアノを弾いていた人じゃないですか?」
「あ、うん。覚えててくれたんだ。それで、ちょっと話があるんだけど……」
最後のほうを濁していった。
俺は覚悟を決めた。
今すぐこの子に告白しよう。
じゃないと、俺は宮口と付き合うことになってしまう。
そんなことは絶対に避けなければ……!
「ぼ、僕と付き合ってください……!」
名前も知らない女の子。
彼女のことで分かっていることと言えば、身長が俺よりこぶし1個分小さく、ポニーテールの黒髪ロングのカワイイ女の子ということだけだ。
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