第8話

 あれから一か月後。

 昨日の夜のことなのだけれど、俺の処女作のMVが動画配信サイトで公開されたらしい。

 だけれども、見るのが恥ずかしくてまだ見れていなかった。

 まあ、どうせ批判コメントがたくさんあるだろうからいいんだけどなぁ……。


 そう思いながら学校へ入った。

 はあ、今日も宮口に殴られるのかなぁ……

 覚悟を決めてから教室に入ったのだけれど、なんと今日はあいつが寄ってこないではないか!


 何かあったのだろうか……?

 いつもは殴られていたからちょっと気になってしまった。

 まあ、好きとかそういうことではないんだけれど。


 予想外のことが起きたのでその場で戸惑っていると、比較的よく話してくれる男子達が話しかけてきた。


「なあ川崎、この曲ってお前が作ったの?」


 そいつはそう言ってスマホを見せてきた。

 確かに俺の処女作だな……んっ?


 再生数100万回で高評価10万!?

 その数字に驚いた俺は、思わず友人からスマホを奪って見つめてしまった。


「うん、間違いなく俺の作った曲だよ」

 そう言うと、さっきまでうるさかった教室の中が一瞬で静かになった。

 もしかして、何か変なこと言っちゃ多野だろうか……?


 不安になってしまったのだけれど、そんな不安はすぐに吹き飛んだ。

 みんなが俺の近くに走り寄ってきて


「川崎君がボカロPだとは思わなかったよ、すごいじゃん!」


「こんなにいい曲を作れるなんてヤバイな川崎~!」


「お前と同じクラスでよかったよ!」


「まじかよ川崎……おめでとう!」


 と俺のことをちやほやしてくれた。

 人からこんなにほめてもらえるのは初めてだ……!

 そう思うと、心の底から涙があふれてきた。


「みんなありがとう」


 泣いている俺には、これでもいうのが限界だった。

 それを言ったら、なんだか照れ臭くなってしまって笑ってしまった。

 そうすると、みんなも俺につられたのか笑ってくれた。


 みんなで大笑いしている時に気づいたのだけれど、この人だかりの中に宮口の姿がなかった。

 あいつの顔が見てみたかったんだけどなぁ……


 つま先立ちして友人たちの頭の上から教室を見渡してみると、なんと宮口は自分の席に座っておとなしく読書をしていた。

 普段は絶対に読書をしていない彼女だったので、そのかわりようにおどろいた。

 どうやら、俺に”おめでとう”というのがよっぽどいやらしい。

 ちょっと優越感に浸れるな。


 一瞬そう思ったのだけれど、俺の周りを囲ってくれているクラスメイト達から新曲のことについて聞かれたりしたので宮口のことなんかに頭を使えなくなってしまった。

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