うそーん……

 朝ごはんを食べたあと、私は激痛に襲われました。


 もう、ナースコールを連打しまくるほどのものでした。今思えば、すごく迷惑だったろうなぁ。でも痛かったんだもの、しょうがないですよね。

 駆け付けた主治医さんのお話では、どうやら胃が荒れているというお話でした。なので、痛み止と胃薬が追加されたのです。

 ほっとして素直に飲んでいたのですが……。



 今思えば『誤診ごしん』なんです、これ。



 たんのう摘出手術って、たんのうに繋がる胆管たんかんをクリップで止めて、胆のうをおへそに開けた穴から出すんですって。

 その時に胆管たんかんから体内にれた胆汁たんじゅうを、右肋骨みぎろっこつの下の辺りに開けた穴からぶっといストローみたいなチューブをしといて、外に出すんです。

 そのチューブの先をガーゼで保護している状態なのですが、私の場合、その漏れた量が多かったみたいなんですね。


「なんかいっぱい出てますね~、お布団までシミシミ(染み出している)だわ~」

 と、そのガーゼを替えに来てくださった可愛らしい看護婦さんが言ってました。


 ……それって多いの? 普通なの?

 不安になったので聞いたところ個人差があるとの事で、すっかり安心してました。

 この時はまだ、食べた後の痛みと結びつけてはいませんでしたよ。

 それがまさか、悪夢の始まりだったなんて思いもよらなかったのですもの。



 その痛みは、ご飯を食べるたびに私を襲いました。

 そのたびにナースコールで呼び出した看護婦さんに点滴を打ってもらいました。

 後で知り合いの看護婦さんに教えてもらったのですが、その時点では、私は『痛みに弱い人』認定だったみたいです。

 時々、何だかんだで打ってもらえなくて、飲み薬をのんでじっと耐えてました。

 今思えばよく頑張ったと思います。


 看護婦さん達はよく痛みを「1から10」で表しませんか?


 その時の私の痛みは「8から9」でした。

 8は『横隔膜おうかくまくをムキムキマッチョが力の限りで雑巾絞ぞうきんしぼりしてるような痛み』でした。

 9は『熱々あつあつねっしたトングをおもいっきり手術跡しゅじゅつあとに突っ込んだ痛み』です。


 ……独特過ぎてわかりません?

 でも日記にこう書いてあったんです。


 それが食事のたびにやってくるので、いつまでっても私の食事はおかゆさん。それを完食するのもできないまま、黄色の胆汁たんじゅうもだんだんと量を減らしながらも出っぱなしの日が続きました。


 なんだか、おかしいですよね?

 2泊3日で帰れる手術なのにかなり痛いし、胆汁たんじゅうれたまま。

 もしかして、おかしいんじゃないの?

 そう感じ始めた私も痛みの特徴とかを、何度も伝えたんですよ?

『焼かれるような痛さです』って。


 でも痛みの感じかたって、人の数ほどあることも事実です。

 そして痛がる人が集まるのも病院です。


「そっかー。じゃあ痛み止の点滴いれますねー」

 笑顔の看護婦さんもこなしれていました。

 でもこの対応はすごくわかる気がします。

 何人もの患者さんを見なければいけないので大変なんです。おじいちゃんが手を叩いて呼んでいるのを聞いたときには、本当にご苦労様ですって思いましたもん。


 私が入院して3日目には、同じ胆のう摘出手術をした方が同室になりました。

 私の入院日数を聞いたときにはビックリしてましたよ。

 その人は持病があるので、一週間の入院の予定だったみたいですが、私みたいに何回も痛み止の点滴を打ってなかったので、とても不思議に思っていました。


 もしかして、あの痛みを耐えられないの、私だけ?


 その時の私は6時間に1度の感覚で2種類の痛み止の点滴を打ってました。

 飲み薬だけでは過ごせないほどの痛みだったんですよ。でも、間隔を開けないと点滴が打てなかったので、その間はずっと我慢。

 じっとしていられなかったので、廊下をうろうろしてました。


 その痛みを耐えられるなんて凄い! と話したところ。

「そんなに痛みは来ないかもー?」

 との解答をいただきました。


 ……やっぱり私の体の中で何か起きてるんじゃないかと、とても不安になりました。

 何度も看護婦さんや主治医さんに訴えまして、再検査をしてもらいました。

 結果は『胃炎』です。

 その痛みがきてるのと、やはり切っているからその痛みだろうと言われました。


 原因は別にあったんですけどね!


 そうして退院前日にお腹のチューブを外しました。胆汁漏たんじゅうもれもほとんど出なくなったので、出てもあとは散るだろうということです。


 ですが、その日の夜中に痛みレベル『10』が唐突に私を襲いました。


 痛みで飛び起きると、歯を食い縛ることしか出来ないんです。

 私のうめき声で起きた同室の方がナースコールを押してくれたみたいで、飛んできた看護婦さんが急いで点滴の針を射して痛み止を入れてくれました。


 効いてきたときはもう、本当にほっとしましたよ。

 その後なんだかヒリヒリするとお腹を見ると、右の肋骨ろっこつ辺りが真っ赤っかに充血している。

 どうやら痛みで自らかきむしっていたようです。右手の爪が真っ赤っか。


 それでもその日の昼に退院できたんですから、ある意味凄いですよね。

 ま、次の日には同じ病室に再入院して来たんですけどね。




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