第12話
決戦の朝、その日は生憎の雨模様、あまり気分は晴れない。
「なあ、付喪神 暁!!」
「なんだよ、サヤカ。腹が減ったのか?飯ならさっき食っていただろ」
「ち〜が〜うっ!!アンタらを街まで案内した人のこと、教えてよ。もしかしたら、知ってるやつかもしれないから……」
「ああ、そういうことか。でも、顔は見えなかったぞ。風貌はローブをまとった暗黒騎士みたいな格好をしていた。だが、鎧は銀じゃなかったな……」
「……やっぱり」
「それがどうかしたのか?」
「え!?ううん、何でもない何でもない。ただ、多分その暗黒騎士みたいな奴、ヴァンパイアだよ。ヴァンパイアは、銀の物が嫌いだから」
「なるほどな……、じゃあ、元魔王軍ってことも有り得るわけか……」
「そうね、その可能性は高いわ」
「ところでさ……」
「何?」
俺は空に手を伸ばし、
「何で雨降ってるのに俺たち濡れないわけ?」
「そんなの、私のスキルに決まってるじゃない。『
「つまり、絶対反射の範囲内で桜のバフフィールドを発動すれば、無傷で敵を倒せるのか……」
「そうですね、盾としてとても便利です」
「ちょっと待って!!私がタンクすることになってるのは、気の所為よね!!」
「ヘイト使いましょうか?」
「あぁ、頼む」
「ちょっと、なんでソフィアも乗り気なの!?」
そう言いながら頬を膨らませる。
なんでだろう、無性に殴りたくなる……、辞めておこう殺してしまいそうだ……
「すまない、いつもの悪ふざけが過ぎた」
不服だが、俺は謝ることにした。
「まあいいわ、言いたいことは沢山あるけど、私は攻撃の時に一番活躍できるわ。今は教えないけど、使う時に教えてあげる、私の転移特典のチートスキル!!」
「……、『神眼』」
「待って、アンタ今私のステータスどころかプロパティまで覗いたでしょ!!不届きなスキル名と怪し過ぎる神気の移動が見えたわよ!!」
「……なるほどな、周りにはバレないようにBと言っているが、実はAなのか……」
「そうなの!?サヤカ、私の事騙してたの!!」
「違っ……、てアンタ今サラッと私の秘密バラしたわね!!本当に許さないんだから!!」
「心配するな、実はしょ……んぐっ!?」
「そろそろお口にチャックをしましょうね!!」
この女、俺の口に右手を突っ込んできやがった!!
しかも素手で……、これはもしやチャンスでは?
ペロペロペロペロ……
俺は舌でサヤカの指と指の間をしつこく舐めた。
「ぃやっ、ちょっ、きゃっ!!」
すんなりと俺の口から手を抜いた。
面白くねぇな……
「普段なら、噛みちぎるところだが、素手なら舐めた方が楽しいからな!!」
サヤカにドヤ顔で言うと、涙目になりながら、顔を真っ赤にしたサヤカが俺の舐めた右手で握り拳を作っていた
「……あの、サヤカさん?その拳は、何かな?」
「……たいっ!!」
「あの、もう一度お願いします?」
この時、俺は迂闊だった。
マジギレしている女の子に対して顔を近づける行為は、
「このっ、変態っ!!」
サヤカの拳は俺の左頬を抉るように飛んできた……
この日初めて、俺はやり過ぎるのは良くないと言うことを学んだのだった。
第12話 怒りの鉄拳 ー[完]ー
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