第2話 勇者集結


 なんていうか、王が住む町ヒストリスは俺が思っていた異世界の町とは少し違う姿をしていた。


 一応建物は定石通り中世風ってとこだ。鉄はほぼ見えないし石材と木材、そしてガラスで作られた建物たちが街を飾っている。人々の外見は東洋人よりは西洋人に近いし髪の色も金髪から青、赤などとてもカラフルだ。髪を染めるのが流行ってるのかもしれないけど魔法もある世界だからあれが生まれつきだとしても納得できないことはない。


 問題はそれからだった。


 まだ寒気があるとはいえ、人々のファッションが長いコートからブーツ、ストッキング、セーターやフードなど現代に近い恰好をしていた。鎧やローブ、軍人の制服などコスプレみたいな恰好をしている人々もあったけど違和感もないしそれを気にする人もいなかった。おかげでフード姿の俺と道化の服装をしているピエロにも視線を向ける人はいない。


 舗装路を走っているのは馬車を引く馬ではなく車輪が3台付いた車だった。少し粗末な赤と緑の信号を守りながら秩序正しく運行されている。


 馬もあるっちゃあるけど遅いし交通手段というよりは観光用に見える。


 ざっと見渡せばファンタジー世界というよりはコスプレ祭りをやっているヨーロッパのとある国って感じだ。


「……でも、やっぱ異世界は異世界だな。」


 目の前を猫耳を持った青年がパンを抱えたまま通る。ファッションが自由だから耳も付けたものかもしれないけど、自然に動く尻尾はとても作ったものには見えなかった。

 周りの人に比べてかなり汚い服装をしていたが、ピエロに聞くと彼は獸人族の奴隷らしい。


「奴隷?文明がかなり発展した世界に見えるんだけど…… それでも奴隷がいるのか?」


「奴隷は活用性が高い大事な人力ですからね。この世界には必ず必要な存在なんです。勇者様の世界にはいないんですか?」


「ない。ていうかすべての国から禁止されている。表面的にはね……」


 言葉の意味に気が付いてないのかピエロは「平和な世界ですね」とのんびり笑った。

 王という階級制度があるからだいたい予想はしてたけど、実際に見るといい気分ではない。人間が人間を祖有しているって光景が。


 再び城に向かう途中にも周りを見ながら新しい情報を探そうとする。


 猫や犬みたいな動物があちこちに見えるし目的地である城が近づくたびに高い建物が増える。大都市ならではの摩天楼が並んでいるとそれだけでも異国的な感じがする。


「はい!つきました。ここが王様が住んでる城です。」


「はあ…… はあ…… しぬ、死ぬかと思った……」


「もう~ 3時間しか歩いてないのに死ぬって、運動不足がすぎますよ?」


「3時間も飲まず休まず歩いたら人は普通に疲れるんだよ!」


 汗だらけの顔を拭いて首を上げた。


 城は50mくらいの湖に囲まれていた。正面の橋以外には特に入れそうな入れ口が見えない。

 灰色の城壁は高く、その中にはとある魔法学校に似た城が威厳を放っていた。関門の前で見た制服の人々がそこを往来している。


 城に近づくと制服の兵士たちがこちらに気が付いたけど驚くだけで、止めたりはしない。むしろ自然な動きで城門を開けてくれた。

 おそらくこのピエロが何者か知ってるからなのだろう。

 ピエロについて城の中を歩くと、大きな扉の前に到着した。


「さあ、ここに勇者様以外の勇者様たちが待ってるはずですん。」


「俺以外?俺以外にも召喚された奴らがいるのか?」


「そういえばそれも説明してなかったんですねん。勇者様はいつも5人です。僕たちが一番遠い場所に召喚されたからほかの方々はもうこの中にいるはずですん。」


 忘れたのが多すぎだろこのくそピエロ!しかもあれもこれも重要なものばかりだ!


 入る前にもう一発殴ろうとしたのに、ピエロはくるっと回って俺から距離をとった。


「それじゃ勇者様。僕はこれで失礼しますん。」


「え?どこかに行くのか?」


「僕の任務は勇者様をここまで案内することですん。任務が終わったから僕は僕がいるべき場所に行かなければなりません。」


「へえ、そうなんだ。」


 幸いこいつとともに行動するという展開にはならないみたいだ。

 信用はしていなかったが、異世界で初めて出会ったやつが行っちゃうと少しだけ寂しい気分もする。


「最後に一つ。」


「ん?」


「勇者様の名前。聞いてもいいですか?」


「俺の名前?」


 そういえばなんかくだらない話はいっぱいやったのに、名前は教えてあげなかった。

 別にいいので軽く話す。


「神座温斗だ。」


「かむくら…… はると」


 一度つぶやいた奴はどこかうれしそうに笑って、別れの挨拶をした。


「短い出会いだったんですが結構楽しかったです。それじゃ楽しい異世界生活になりますように。はると。」


 奴はらしくないことにも礼儀正しく顔を下げて、そのまま青い光とともに一瞬にして消えた。


 しばらくピエロが消えた場所を眺めて、俺は再び門のほうへ顔を向けた。そして溜息とは違う長い息を吐きながら門を開ける。


 そこには大きな六角形のテーブルを中心に五人の人が座っていた。その五人が同時に視線を向けると中央の男と目が合った。


 鋭くはないけど顔の線が濃い少年だ。年齢は俺より一つ二つ年下に見える。

 古典的というか、まだあんなのを着せる学校があるんだと思わせる真っ黒なガクランを着ている。

 切って間もない髪は東洋美を感じらせる黒い色だ。

 大きな瞳に対比される鼻は彫りついたように鋭く、口は笑えばきらっと光りそうな感じを与える。


やつは俺を見てそっと眉をひそめた。失礼だな。


「い、いらっしゃいませ。五番目の勇者様。」


 そういいながら起きたのは華麗なドレスを着ている少女だった。

 日本人どころか東洋人とは思えない顔の線を持っている美しい少女だ。全体的に細い体なのに出るところはちゃんと出ている。いわばボンキュッボンだ。


 徹底的に管理したような輝くオレンジ色の髪はカールが入ったのを腰まで伸ばし、その上には昔話に出てくる姫様がかぶっていたティアラを載せている。真っ白な肌に髪の色と同じ瞳は大きくて愛らしい。


「あまりにも遅いので何かあるんじゃないかと心配しましたけど、無事にたどり着いてくださってよかったです。」


 最初は戸惑う顔だった彼女がすぐきれいな笑みを渡しながらそう言った。まさしく優しそうな姫様って感じの笑みだ。


「ですが申し訳ございません。いらっしゃったばかりの方に面目ないですが、今からここにいらっしゃるほかの勇者様たちと一緒に国王陛下のところに行ってください。今回の出来事に詳しい説明がしたいです。」


 正直に言えば少し休みたい。歩くの事態が久しぶりだったから。でもここに来た目的のためには弱音を吐くわけにはいかない。


 俺がうなずくと少女は今度、感謝を込めて顔を下げた。


 勇者と呼ばれたほかの四人も席から起きる。


 こうやって俺たち五人は少女が導くまま、国王がいる玉座のへやに向かった。


 行く途中にも周りを観察することを忘れない。


 外は現代とファンタジーが混ぜたって感じなのに城の中は文字通りファンタジーだった。大きな絵や高そうな骨董品が飾られてるし、窓の外には兵士たちが武器訓練を受けているのが見えた。


 漫画で見た派手な魔法は使ってないけど人間だとは思えない激しい動きから十分すぎるほどの異常感を与えてくれる。


 そして勇者たち、と呼ばれた四人も観察する。


 さっきの少年以外には三人の少女がいる。


 まず少年の隣で一番親しそうな少女。


 薄い茶色の髪は秋の落ち葉を思い出させる。短いボブカットに先が上がった目付きは自信に満ちて見えるし、大きくて黒い瞳はりりしく見える。


 全体的にボリュームが足りないからだだけど無駄がないスレンダーな体格には妙な魅力があった。


 こっちも制服みたいなものを着ている。白いティーシャツにネクタイ、そしてそのすべてを包んだ制服は革製のカーディガンだ。プリーツスカートがとても短いんだけど活発してそうな彼女ととてもよく似合う。


 次は彼女の反対側の女。


 一緒に話している少年少女よりは少し劣る感じだけど決して不細工とは言えない外見だった。


 あの中で一番小柄な少女。肩まで届きそうなカールが入った黄色い髪を左に結んでおいた。目はキツネのようにそっと開けていて色は見えない。


 さっき言った少女とは違う服を着ていたんだけど、膝の上にスカートが上がって活動的な草色の衣服にニーハイスタイルの黒いストッキングを履いている。変わったデザインだけど制服ってことはすぐわかった。だってどう見ても学生なのに俺みたいな引きこもりと同類じゃなければ学校にいるとき召喚されたはずだから。見た目はギャルっぽい印象だ。


「あ、あの。こんにちは。」


 突然そう言いながら近づいてきたのは最後の勇者だった。


 彼女は確か、俺を見て眉をひそめた三人の勇者とは違って少し驚いた表情をしてた。

 すぐにでも壊れそうなか弱い体のくせに胸だけは豊満だ。光を含んだような透明な白肌。


 顔は昔のやまとなでしこをそのまま移しておいたような印象だ。


 額全体を隠すぱっつん前髪。黒檀のような真っ黒い髪の毛が首と腰を流れ、尻まで降りてくる。


 濃い睫毛の中にある瞳は見る角度によって少しずつ色を変えて優しい光を見せる。ちょっと垂れた目ははかない感じを与えてさらに魅力的に見える。


 彼女もほかの二人と全く違う制服を着ていたんだけど…… こっちはどこかで見たような制服だった。


「どちらさま?」


 俺の問いに少女は少し迷う顔をして、すぐ表情を直した。


「初めまして。冬月雪花と申します。17歳です。よろしくお願いします。」


「……神座温斗。同じく17歳です。こちらこそよろしくお願いします。」


「いきなりこんなことになって驚きましたね。私は町の外れに召喚されましたが、神座さんはどこに召喚されたんですか?」


「私は岩山でした。私を呼んだ精霊によるとぴったり15㎞に召喚されたらしいです。おかげでここまで来るのに苦労しましたよ。」


「さ、災難だったんですね。ご苦労様でした。」


 冗談ぽく軽い感じで言うと彼女は苦笑いしながら慰めの言葉を渡した。

 見たところ同じ勇者同士で仲良くなるために声をかけたって感じだった。


 正直に言えば俺にはその気が全くない。が、彼女に通じて得られる情報には興味があった。


「まぁそうですね。ところで皆さん全員着ている服が違うのにも仲がよさそうですね。お互い知り合いなんですか?」


「いいえ私たちはみんな今日初めて会いました。それぞれ住んでる所も違うし召喚される前にいた場所も違いました。あ、ひかりさんとまさるさんは同じ学校の同じクラス出身らしいですけど。」


「へえ」


「仲がいいのはみんな優しい人たちだからです。人見知りの私に声をかけてくれたし、話してみるとみんないい人たちだったのでもう下の名前に呼べる中になりました。」


 今日会ったばかりなのにもう下の名前って…… どんだけリア充なんだこいつら。

 

 少年の名前は大山勝。16歳の高校2年生で彼と一番仲がよさそうな少女の名前は星空光だった。年は大山と同じ16歳であり残りの少女の名前は森先鈴蘭で15歳の俺たちの中では最年少者らしい。


 ほかにも聞きたいことがあったのに、もうついてしまったのか姫さん?が大きな扉の前に立ち止まった。


「ここに王様がいらっしゃいます。」


 使用人たちが扉を開けると、白い王室が目に移った。大きな窓にはまだ暮れてない日の光が入っており赤いカーペットを中心に両方に偉そうなやつらが俺たちに視線を向けていた。


「おお、お会いできてうれしいぞ。異世界の勇者たちよ。」


 その中に足を踏み入れると、王座に座っている人物が温かい笑みを浮かべながらそう言った。

 それに大山が俺たちを代表するかのように前に出て少し緊張が付いた声で聞いた。


「私の名前は大山勝です。あなた方が私たちを呼んだ国王陛下、ですよね?どうして私たちをここに召喚したんですか?」


「はは、さっそく本論か。だがそれが当然。大体的な説明はイリヤがしたと思うが詳しい説明はまだだろう。これからは余が説明をするとしよう。」


 国の名前はヒストリス。この世界、アーデラルに存在するヒューマンの国の中では一番大きな国であり王座に座っているあの男が見ての通りこの国の国王、ラヒラル・バン・ヒストリスらしい。

 そして俺たちをここに案内してくれた少女がイリヤ・バン・ヒストリスでこの国の第2王女であって俺たちをここに召喚した張本人だった。


 アーデラルは四つの大陸になっておりそれぞれの種族がそれぞれの大陸を支配しているって設定だ。


 まず最初に説明を聞いた種族はエルフ。彼らは肌が白くて耳が長い太陽を敬愛するホワイトエルフと茶色の肌に月を敬愛するダークエルフに分かれている。


 二人は同じ種族でありながら敬愛するものが違うという理由で仲が悪く、今は休戦中にも臨戦態勢を維持していると王は残念そうに言った。


 二つ目の種族は獸人族。ヒューマンの見た目に動物の耳と尻尾を持っていて種類によっては鱗や翼が付いた種族だった。彼らは種類によって獣の特性を身に着けていて身体能力が優れている。

 王はそれぞれの種類ごと天敵がいる場合があると付き加えた。例えば犬と猫みたいな……


 次に言われたのがヒューマン。つまり我々のことだったんだが、驚いたことにもヒューマンにも種類がいるらしい。


 背が小さく全体的に子供の体型の小人族。我々中人族。いくら小さくても中人族の二倍にはなる巨人族。

 全体的に仲が悪くないゆえうまく共存していてすべての国からの同盟の証、冒険家協会もあるらしい。


 最後に聞いたのが魔族だ。


 魔族は例外なしにみんな角を持っていてここはほかの種族とは別件に一人の王、だから魔王が魔族全体を仕切っているらしい。


 定石的にも俺たちがこの世界に召喚された理由は魔族だった。


 始まりは初代魔王の世界征服。種族の中で最も大きな魔力を持って生まれる自分たちこそがすべての種族を支配する資格があると、世界を侵攻した。

 ヒューマンと獸人とエルフは力を合わせてそれに対抗したが、科学も魔法も発展してない当時の時代には純粋に魔力が高い魔族を防ぐには力不足だった。圧倒的な力に人々があきらめを始めた瞬間、ヒューマンの方から勇者が現われた。


 子供のころから魔王を滅するために鍛錬してきた彼らは獸人のような身体能力と魔族のような魔力を持って戦場の状況をひっくり返し、いよいよ魔王を倒すことまで至る。ヒューマンはもちろん獸人とエルフは勇者をたたえ、世界は平和を取り戻した。


 だが…… 残念なことにもその平和は長引かなかった。魔王を殺した勇者と彼らを呼んだヒューマンに魔族は強い憎しみを持つことになったのだ。それから魔族は何度もヒューマンを挑発したり一部の地域を攻撃した。戦争が終わったのにも大勢の血が流れた。たくさんの人々が苦しんでた。何百年も繰り返された歴史が自分たちの代にまで続かれてきたのだ。


 この悪循環を終わらせたかった今の王は20年前に一度、魔族との同盟条約の場を作った。もうヒューマンも魔族も苦しまないように。


 だが…… 魔族の答えは一発のファイアボールで始まった。魔族の裏切り…… それによって平和につながると信じていたその場は無ざまなひの海になってしまった。幸いその場で魔王が死んで魔族は退き、戦争にまでは広がってないけどすぐ魔王の子供が就任して父親の復讐を準備し始めた。


 王はやっと気づいた。彼らには憎しみと復讐心しかないてことを……


 魔族の侵攻に備え始めた王だったけど、直接被害がなかった獸人とエルフは王の同盟を断った。同じヒューマンの国々も自分たちの国政問題だけでも忙しいとか、20年間平和だったんだから大丈夫だろうという安易な考えのせいで力を合わせるのが容易ではなかった。


 このままだとヒューマンが滅んでしまい、最悪の場合アーデラルが崩れる。これを止めるためにも王は異世界から勇者を呼ぶしかなかった。


 始まりの魔王を倒し、しばらくでもヒューマンに平和をもたらせてくれた勇者たちが今度こそ自分たちを救ってくれることを望みながら。


 続く王の話は魔族によって疲弊した土地の話や魔族に殺されたヒューマンに関する話だった。


 実は王にはイリヤ以外にももう一人の娘があったけど魔族との同盟の場についてきて殺されたらしい。

 話すたびに空気は重くなり周りの人々は悲痛な顔になっていった。王は先代の王たちと自分が無力だったせいだと涙まで流した。


「なるほど。ヒューマンを魔族から守るために俺たちはここに呼ばれたってことか。」

 

 大山勝は説明を聞いてかわいそうに首をうなずけた。


 俺は静かにその風景を観察する。


 不自然なんて一つもない説明と話。それを理解し、同情する勇者。


 俺はそのすべてが、まるで約束でもしたような光景に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る