ここは異世界ですか?~今まで読んできた異世界テンプレがないんだけどどういうこと?~
本を読むスライム
第1話 次元を超えたピエロ
「チッ……」
布団の中に潜り込んでいた俺― 神座温斗は不愉快に舌を打った。
ケータイに現れた結果はN6、R2、SR1、UR1で全体的に悪い結果ではなかったけどほしいものは一つもなかったからだ。
残りのジェムはあと3500個。そろそろ危機意識を持たなければならない。
軽く深呼吸して12回目のガチャを始める。
500個のジェムを対価にかわいいマスコットキャラが10個の流星群を持ってくる。
……失敗。
13回も失敗するはずがないと否定する。
失敗。
14回目はいくら何でもと怒る。
失敗。
そろそろ得られないんじゃないかと不安に震える。
失敗。
これを得られるなら何でもやるって祈る。
失敗。
半分あきらめた気分で17回目に挑戦する。
失敗。
-ケータイを枕に投げた。
「フザケンナこのクソゲー!どんだけやったと思ってんだよ!?これぐらいやったら一つくらいは出てこいや!」
この日のために一週間も同じ狩場を繰り返した。なのにそれがだった10分で消えてしまったのだ。
怒りを超えてむなしさに頭がどうかしちゃいそうだ。
横に置いておいたコーラを飲む。口の周りに残ったコーラを手で拭いてもう一度ケータイの画面をにらんだ。
「残りのチャレンジチャンスはあと1回。確率を考えても可能性は低すぎる。いっそのこと金を使ったほうが……」
このゲームは高い代わりに一度の課金でほしいキャラを得られるというシステムになってる。
残ったジェムまで使っちゃうよりは多少の金を使って確定サーチをするのが今後のプレーを考えても賢明だといえるだろう。
……でも
「いや…… やっぱだめだ。」
課金のために伸ばした手を戻す。その代わり、頭を荒く掻いた。
「今までの無課金記録がもったいない……」
ガチャゲームをする前に俺なりに決めておいたルールがある。それは課金をせずゲームを楽しむことだ。
どんなゲームであれあきる時が必ず来る。その時ゲームから手を引くためにはゲームに使った金がいちゃいけないのだ。そうじゃないとつかった金がもったいなくて面白くもないゲームを続けるというバカげた状況が起こってしまうからだ。
「まずは落ち着こう……」
頭が苛烈すぎだ。冷やすためにも身を起こして顔でも洗いに行く。
久々に動くわけでもないのに、重いからだから骨がなる音が聞こえてきた。
「……げぇ」
洗面上の鏡と目が合った瞬間、俺はそんな声を出すしかなかった。
いくら自分でも、あまりにもひどいありざまをしていたからだ。
外に出ないから肌自体は白い。だが目の下には疲労の証である黒いクマが下りてきてただですらよくない印象をさらに悪くしていた。
アーモンド形の瞳はそれなりにきれいな赤茶色。何日も切らず、洗わなかった髪は脂がだらだらして肩まで下りてくるちょっと長い黒髪だ。
身長はふつう、体格は昔運動をやった分多少の筋肉がついていたけど着ている服が白いフードだから全然かっこよくない。
家に引きこもってこんな生活をし始めたのは高校一年の夏が終わるころだった。
引きこもった理由は非常に勝手なことにも[面白くないから]だったなぁ。
当時漫画や小説、ドラマで見た楽しそうな高校生活を期待した俺は、残念なことにも強者が弱者をいじめる風景や女の子たちの友情ごっこ、無能なオタクどもがこっそりラノベを読むという絶望的な現実に飽きてしまったのだった。
それから学校をやめて何もせずに時間と金だけをむさぼりながら2年を送った。
幸いというか不幸というか、俺には家族も、友達も、愛する人もいなかったので迷惑だけはかけていなかった。
他人の目にはどう映っているのか知らんけど、俺はこんな生と毎日で満足できていた。
だって、幸せは感じられなくても、不幸を感じることもないから。
むしろ今みたいに不幸が蔓延した世界でこんな風に生きるのは紛れもない幸せだと信じている。
「……………ん?」
気を取り直して最後のガチャを始めようとするのに、背後から人の気配が感じられた。
そこには、生まれて初めて見たピエロの男が立っていた。
今の時代恐怖というか、怖いイメージが強いのがピエロだというのにこいつは本当に愉快そうなデザインのピエロ仮面をかぶっていた。
白いほっぺにはそれぞれ涙と星が押されていて、二つに分かれた長い帽子は少し暗い濃紫だ。
服装も濃紫と黄色が混ざった派手なやつを着ている。
まずは握っていたケータイで110を押しながら丁寧に尋ねる。
「強盗ですか?」
「失礼しま~す!僕の名前はエミリア!アーデラルという異世界からあなたをお迎えするために来ました~ん」
「……Sorry?」
「聞き間違いじゃないですよん!アーデラルです!アーデラル!英語にすれば!Aderal~」
……ふむ
「もしかして狂ったんですか?」
相手が傷つけないように気を使いながら聞いたんだが、彼は面白い冗談でも言われたみたいにキャハハと笑った。
「口では難しいですからねん。説明は行った後にしましょう。大丈夫です。あなたならきっと、楽しく暮らせますから。」
ピエロがそういった瞬間得体のしれない光が体を包み始めた。
直後だった。鈍い感覚が体を覆って視界が一変する。
俺はぼーっと空を見つめた。
限りなく青い空だけが広く広がっている。
目に慣れた家の天井ではない。
周りを見てみる。
何度見ても自分の部屋ではなかった。
岩の山だ。そして遠いところで巨大な何かが空を飛んでいるのが見える。あれは…… ファンタジーゲームに出てくるワイバーンてやつだ。
「え?うそ。なにこれ……」
俺は頭がいい。自分で言えるほど頭の回転が速い。あえて証明できる事例を一つ挙げると、中学校の頃成績で学年トップをとったことだってある。
そんな自慢の頭脳が回路を焼き払う勢いで加速し、さっき聞いた[異世界]と[ネット小説]という単語を結んで一つの答えを出した。
「うそでしょ。え? いやだこれ…… ひょっとしてこれ……」
い、いいいい、い! い!!
異世界、召喚てやつぅぅぅぅ!??!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、改めて紹介しますね。ここはアーデラルという異世界!そしてあなたはここアーデラルの勇者として召喚されたのです!」
「今すぐ元の世界に帰せ。」
「やだなぁ~ 何度も言ったじゃないですか~ん。僕はあくまでも勇者様を呼び出すだけが目的である精霊!帰す方法なんて、知りません!」
「じゃあ呼び出すんじゃねよ!帰す方法も知らない癖に何勝手に呼んでんだ!」
宝くじに当たりました!テンションのピエロに、俺は頭を抱えたまま叫んだ。
やっぱ、聞き間違いでも、判断が間違ったわけでもない。俺、神座温斗17歳はー どうやら異世界に来ちまったようだ。
異世界とはネット小説で流行ってるジャンルの一つとして、チートと美少女と馬鹿どもが溢れるめでたい世界である。結構好きなジャンルだから暇なときにはよくサイトに入って読んでたりしてたけど、あくまでもこんな世界ありえないと批判する派で行ってみたいなんて思ったことは一度たりともいない。
ピエロが楽しそうに言った。
「あはははは!そんなに喜んでもらえると連れてきたかいがありますニャン。」
「絶叫してんだよ!てめえの目には俺がうれしくて歓喜にふるえてるに見えるのかい!?」
「もちろん!だって異世界ですよん?誰もが来たがる夢の世界だもん。そんなところに連れてきたのに嫌がるわけがないじゃないですか~ん」
「ここにいるじゃねえか!わけわかんない世界に召喚されて喜んでるやつらのほうがどうかしてるんだから!どうすんだこれどうすんだ俺!」
起きた出来事のスケールが大きすぎて頭では理解しても心とか体がついていけない。
当惑して手が震えて、背中からは冷や汗が出た。
「素直にありがとう~って言えばいいのに。勇者様ってシャイちゃんだったんですね?」
パチッ、と我慢て書かれた糸が目の前で切れる。思いっきり胸ぐらをつかみ上げると奴が「いたたたた?!」と悲鳴を上げた。
「ここで落とせば…… 少しは伝わるのか……?」
「え?ええ???ええええ?!!?ま、まさか…… ほんとに怒ってるわけじゃないですよね……?」
「さっきからそう言ってんだろうがクソボケ!まじで落とすぞコラア!」
ヒイッ?!って悲鳴を上げたやつが必死に胸ぐらをつかんだ俺の手をつかむ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!なんでそんなに嫌がるんですか?!勇者ですよ勇者!人々を救ってちやほやされたりいろんな場所を旅したりきれいな女の子と恋に落ちたり。男のロマンじゃないですか!」
「フザケンナ!なんで無償で人なんか救わなければならないんだ?なんで平和をあきらめて旅なんかしなければならないんだ?何が悲しくて美少女が俺なんかに惚れてくれるんだよ?!」
ぶっちゃけ、引きオタクとしてあこがれがないわけじゃない。ないけど、あこがれはあこがれで終わったほうがいい。だってそうでしょ?元の世界でもダメだったのに異世界に来たくらいで何かが変わるとはとても思えない。
もし俺が異世界でも行ける奴だったら元の世界でも恋人とか友達とかいっぱいできてリア充生活を満喫していたはずだ。
「そんな…… ネガティブすぎですよん。勇者様そこそこいけてるのに。それに人は環境が変われば変わるもんなんですよ?」
「人間は直して使うもんじゃねんだよ!環境が変わっても根っこは変わらない。17年間何回見てきたと思ってんだ!」
「17年?!赤ちゃんじゃないですか。そんな人が人生通達した人みたいな顔しちゃだめですよ?」
「ああん?!腹立つ言い方だなこいつ!」
「ちなみに僕は勇者様より長生きした大人ですん。」
「聞いてねんだよ!」
さっきからなんだこいつ?誘拐犯のくせに軽すぎる。知らない人から見たら友達だと勘違いしちまうくらい軽かった。腹立たしくてやつを揺らすと「ちょ、ちょっと……!揺らさないで!そんなに揺らしたら何か出ちゃー うぶぶ……」って言ってきたので放すしかなかった。
熱かった頭がゆっくりと冷める。すると、怒りはどんどんと当惑感に変わっていった。
クソ…… なんだよこれ。なんで俺が異世界なんかに来なければならねんだ。なんで寄りにもよって俺なんだ?
そりゃあオタクとか引きこもりとかぼっちニートとかいろいろ条件はあってるけど…… 一番大事なイベントとか発生してないじゃん…… トラックあってねえじゃん…… なのになんでこんな……
心の中でぶつぶつ言っていた嘆きが少しずつ口から漏れ出る。そんな時に、何とか体を回復させたピエロが身なりを整えながら言った。
「まぁ…… 怒ったのはわかりました。それじゃ今から僕と一緒に王国へ行ってください。」
「……いやだ。なんで俺がそんなとこに行かなければならないんだ。」
とにかく断った。冷静な判断ていうよりは子供が意地を張ってるのに近い。こいつの言うことなんか何一つ聞きたくなかった。
「いかないと僕が困るんですよん。」
「知ったことかよ……」
「この世界にはモンスターがいて人がいる場所に行かなければ危険ですよん?」
「お前のせいだし……」
「だから責任を取ろうとしてるんじゃないですか。帰りたいでしょ?元の世界に。」
「…………え?」
元の世界というキーワードに顔を上げる。するとピエロがパッ!手腰に手を乗せた。
「僕は知らないけど召喚魔法を使った王族の方なら、送還魔法を知ってるかもしれません。その方に頼んでみましょうよ。」
「お、王族……?どういうことだ?」
話によると、どうやら俺の異世界召喚は王が勇者に用があって呼んだという、異世界召喚の中でも最悪のパターンらしい。その王族が使った魔法は勇者を呼び出す精霊を召喚する魔法であり、なぜ勇者を呼んだのかはその王族に聞かなければならないといった。またさっきも言った通り自分はあくまでも呼ぶ精霊だから帰る方法は王族にしか聞けないらしい。
「じゃああいつらに聞けば帰れるのか?」
「多分ですけどねん。こちらの世界に呼んだから帰す方法も知ってるはずですん。」
可能性は高い。呼ぶ方法を知ってるのに帰す方法を知らないなんて、常識的にありえない。召喚した張本人ならきっと送還魔法も知ってるはずだ。
けれど…… 王が俺に用があるというとこが問題だった。
こんな物語の王はたいてい国家戦力として利用するために勇者を呼ぶ。国の発展のために力を貸してくれならまだましだけど、戦争みたいな危ないタグならシャレにならない。
ーでも
「そう、か…… そうだな。確かにその通りだ。なら話は変わる。」
「一緒に行ってくれるんですかん?」
「ああ。」
それ以外に俺にできる選択肢がない。送還魔法を知ってるやつらがそいつらしかいないなら、そいつらに会わなければならない。
膝のほこりを払って起こるとピエロが意外そうに言った。
「思ったより素直に行ってくれるんですね?」
「なんだよ思ったよりって。」
「だって勇者様性格悪そうですもん。絶対行かない、て粘ると思いましたよん。」
頭を殴ってあげた。すると不思議なことに仮面の+だった目がXに変わる。漫画みたいだ。それより仮面だと思ってたけどまさかこれが顔なのか?
「ぼ、暴力はやめてくださいん!僕は喧嘩が苦手なんですよ!」
「じゃあケンカを売るな!さっきから語尾の先に[ん]つけるのもやめろ。からかってんのか?」
「ええ?[ん]つけるのかわいくないですかん?」
「そんなわけあるか。成人の男が語尾に[ん]つけたら腹立つだけなんだよ。」
「それは勇者様の心が腐ってるからですよん!子供たちはこういうの好きですからん!」
もう一発殴って黙らせる。
まったく…… 本当に嫌な奴だ。精霊とか言ってたけど、これからこいつとずっと一緒って展開になるんじゃないだろうな。それだけは勘弁してほしい。
いたたたたたとまたすぐ回復した奴は「まぁ好みってものは人それぞれですからねん。」と軽い足取りで先を進んだ。そんな奴の後を溜息を吐きながら追う。
強烈な太陽のもと、家からそのまま召喚された俺の生足には硬い岩と土の感触が伝わってきた。今更地面の感触とともに気持ちいいそよ風が肌に当たってこれが夢ではないことをもう一度実感させてくれる。
「イタッ!くう……っ」
「どうかしましたか?」
「いや、石を踏んだだけだ。ところで召喚ていうのはふつう魔法陣の中央やちょっと神聖な場所でするもんじゃねえのか?なんで俺は岩山なんだ?」
「召喚自体は王宮の魔導陣の上でやりました。ただ、召喚魔法ってそう簡単なもんじゃないですからね~ しかも今回のは次元を超える異世界召喚。召喚自体もめちゃくちゃ大変なのに座標を正確に指定するなんて不可能なんです。だから召喚陣から15㎞範囲でランダムに召喚されるんですん。」
「15㎞?!」
その中でも俺はちょうど端の15㎞に召喚されたらしい。当然のことだが人は15㎞も歩いたら普通に死ねる。ガチャからして運がなさすぎだと喚いたらピエロ野郎が笑ったので尻をけってあげた。
「モンスターがいるって言ったよな?この世界には。」
「はいん!大人なら誰もが倒せるスライムから、人類を滅ぼせるドラゴンまで存在しますですん!まさしくファンタジー!」
「へぇー、てことはそれを狩る冒険家やファンタジティックな魔法の職業もあるのか?」
「それもはい!ですん!人々はみんな天賦的に持って生まれる天職というものがあるんですけどん、種類はいろいろですが騎士や武道家みたいな戦闘に特化された天職を持ってる人たちが冒険をします。まあ持ってない人も普通にやってますけどね。」
ゲームみたいだな。ますますネット小説ぽく見える。
「それで?その天職を確認するためにはどうすればいいんだ?ステータスオンとか叫べばいいのか?」
「え?ステータス?」
「自分のレベルや現在の能力値を表示してくれる画面のことだよ。」
別に大したことを聞いたわけじゃないのに、ピエロは俺の説明を聞いて何も答えずボーとした顔で俺を見つめた。なんだ?と思って眉をしかめると、奴はプッ!クスクスと笑い始めた。
「なんですかそのチートぽい能力は~」
「え?」
「確かにこの世界にはレベルも天職もあるけどそれらを表示してくれる能力はありませんよん。もしあったら誰もが自分の才能やどれほどの努力が必要なのか自覚できるはずなのに、あきらめる人や失敗する人がでるわけないでしょう?」
……確かにその通りだ。ゲームファンタジーに基本的に出る設定だから慣れてしまったけど、考えてみればステータスを見れるのってとんでもないチートだ。
自分の能力値、自分の才能。それらを見れる世界だったらわざわざ勇者なんか呼ぶ必要はなかったのだろう。
「確かにそうだな。じゃあその天職とレベルは同確認すればいいんだ?確認できる方法があるから存在するって言えるんだろう?」
「アティーナの啓示という魔法の道具を使って調べるんです。めちゃくちゃ貴重なものだから貴族どころか王族ですらめったには使えない品物なんですけどね。ちなみにいうと先天的に持って生まれる天職以外にも努力して天職を作り出す人もいるんです。」
つまり、先天的な才能と後天的な才能だと理解すればいいんだな。
聞くまでもないが努力して天職を作り出すのはとても厳しいことなのだろう。それにいくら努力しても持って生まれなければ得られないユニーク天職という物もあるらしくて、異世界にしちゃひどい話だと思った。
「勇者様は勇者様だから王国に行けばどれぐらいの能力値を持ってるか調べてくれるはずです。」
「そりゃそうだろうな。」
貴重なアイテムでも勇者の俺になら使ってくれるはずだ。
いや、絶対使うだろ。
俺も自分のステータスってものには興味があったけど、王家ってやつらには公開されたくなかった。
だって俺がやつらに会いに行く理由はあくまでも元の世界に戻る方法を聞くためであり、勇者として奴らを救いに行くわけではない。
「でもあれですね。レベルと天職だけなら今ここでも僕が調べられますよん。」
「え?本当に?」
「勇者を呼ぶ精霊なだけに僕が連れてきた勇者様限定ですけどね。どうですか?僕すごいでしょ?でしょ?ほめてくれてもいいんですよん?」
正直言えばレベルは1だろうし天職も勇者になっているだろうから能力値を見るわけじゃないのならそこまで意味はないと思う。
でももしものこともあるし今はちっぽけな情報も惜しい状況なので「はいはいお前すごいよ。」って適当に合わせてあげた。すると返事が気に食わなかったのかピエロは口をとがらせて「反応薄いい~」とぶちぶちいった。
俺がこぶしを握るとやっと慌てながら俺の胸から何かが書かれた紙を引き抜いて渡してくれる。
これで終わりか?魔法というよりは手品を見た気分で気が抜ける。
紙の中を見てみた。
???
レベル ― 1
天職 ― 創造人
名刺程度の紙にはだった三つの文章しか書かれてなかった。レベルは予想通り1だったけどそのほかには全部予想外のことが書かれてあってびっくりする。
まず一つ目に驚いたのは、
「なにこれ…… 生まれて初めて見た言語なのに、読める。」
「そういえばいうの忘れちゃいましたね。異世界召喚魔法には座標を指定できない代わりに大きなメリットをもらえるんです。召喚から正確に24時間。その間この世界の言語を理解できる魔法にかかるんです。」
「まじ?!でたらめな召喚魔法だと思ったけど意外とバランスはとっていたもんだな。時間制ってのは残念だけど。」
「見ての通り文字は違うけど音声言語は完ぺきに一致してますから勉強するのに困難はないと思いますん。」
確かに。聞こえてくるのが日本語で理解されてるわけではなく、日本語そのものなら外国語を学ぶよりは簡単なはずだ。
次は???について聞く。
「あ~ それは名前ですん。この世界に呼ばれてきたら名前を一度失っちゃうんで。でも大丈夫ですよ。自分で名前を決めればそれだけでまた名前ができますから。」
「名前が?なんでわざわざ名前が…… まさかデメリットとかあるんじゃないだろうな。」
「そんなものはいません。勇者様はほかの世界からいらっしゃったんだからある意味生まれ変わったのです。だからほかの世界で使う名前が必要なだけですからん。」
「……ならいいけど。」
「あ、でも元の世界で使ってた名前は使わないことをおすすめしますよ?」
「それはなんでだ?」
「ここは異世界じゃないですか。勇者様のもとの名前は知りませんがこの世界でその名前を使ったら目立つと思いますん。」
目立つのがお好きでしたら使ってもいいと思いますけどん。とピエロが笑う。
ううむ…… 確かにそこまでは考えが及ばなかった。この世界の名前がどんな感じなのかも知らないのに俺の名前を入れるのはやめたほうがよさそうだ。
馬鹿だと思ったのに鋭いところがあって意外だ。だが俺がこの世界で生きることを断定するような口ぶりは気に食わない。
最後に、天職創造人について聞く。
「天職創造人、ですか?」
「勇者を呼ぶ精霊だから知ってることぐらいあるんだろう?」
「はいまぁ。でもそれは僕に聞くよりご自分で調べたほうがいいと思いますよ?自分の天職をはっきりと自覚してるのなら知りたいと思っただけでどんな能力の天職なのか頭に浮かびますから。」
「能力?」
天職は才能である同時に一つの魔法らしい。例えばネクロマンサーの天職を持った人は死んだものを動かせる魔法を使えるし料理人の天職を持った人はどうすれば料理がよりうまくなれるのか本能的に感じられるみたいだ。
要するに専用スキルってものだ。
いわれた通り目をつぶって創造人について念じてみると不思議なことにも本当にどんな能力なのか頭の中に浮かんだ。
【創造人。この世に存在するものと存在しないものを創造する能力。】
うわ…… 見た時から思ってたけど、俺TUEEE系の天職だな。一応勇者として召喚されたから当然といえば当然だけど……
問題はこんなチート能力を奴らにばれた場合だった。俺の手助けが必要で俺を召喚した奴らだ。もしばれることになったら……
「帰してくれ、って言葉は絶対聞いてくれないだろうな……」
「え?なんですと?」
独り言に反応するピエロに何でもないとごまかす。色々教えてくれた奴だけど、とにかく俺を呼んだ王家ってやつらの見方だからな。すべてを相談するわけにはいかない。
それからピエロ野郎が勝手に騒ぐことを聞いたり思いついたことを聞いたりしながら王国に向かって歩いた。もちろん、頭の中ではこれからの展開とそれを打破する方法を考えながら。
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