第46話 終末カウントダウン

 パキスタンは四つの州と連邦首都イスラマバード及び、連邦直轄地からなる連邦国家である。


 かつてイギリスの植民地であったパキスタンは、独立後の一九四七年一〇月、一九六五年九月、一九七一年の一二月と、同じくイギリスから独立したインドと、カシミール地域をめぐって三度の戦争を行った。


 とくに一九七一年の第三次「印パ戦争」においてはわずか一四日間でインドに大敗し、東パキスタンは「バングラデシュ」として独立。このときパキスタンは国土の二割と人口の六〇パーセントを失った。


 パキスタンにとってインドは仮想敵であり、パキスタンの国家安全保障戦略は、いかに隣の大国インドからの脅威に対し対抗すべきかというところに重きが置かれてきた。


 一九九八年五月にパキスタン南西部のチャガイ丘陵で地下核実験を行ったのも、その約二週間前にインドがパキスタンとの国境近いタール砂漠で地下核実験を行ったことへの対抗に他ならなかった。


 一九四九年一月、国連の仲介によって敷かれた一三○○キロメートルにわたる軍事境界線では、今日までパキスタンとインドの小競り合いが続いている。


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 九月――。

 パキスタン与党本部――。


「先月、国境ワーガに落下し、回収した不死隕石の件でご報告があります」


 今年の秋に就任したばかりのアヴドゥル大統領は複数の軍人を従え、首相の元を訪れた。


 部屋に緊張が走り、秘書たちは壁際に張り付くようにして立っている。


 アヴドゥルは滴り落ちる汗を絹のハンカチで拭うと目の前の大男に「アッサラーム・アライクム」とイスラム教の挨拶をする。


「よく来たな。アヴドゥル」


 大仰な革張りのチェアに身を沈めたムハンマド首相が、アヴドゥルを一瞥した。


 白髪交じりの頭髪と口髭が巨躯のムハンマドに貫禄を与えている。一方のアヴドゥルは年は取っているが若々しく見せようと頭髪は黒く染めており体格も小柄な部類に入る方だった。


 首相と大統領。両者のパワーバランスは一目瞭然だった。


「それで。インド側はなんと言っておる」


「陸路国境に落下したものである以上、両国で協議するべきであると。一足先に軍を出動させ隕石を回収させた我々を糾弾しています」


 アヴドゥルは自らを大統領にまで引き上げてくれたムハンマドを敬う口調で事実を述べた。


「中国という巨大な後ろ盾がない今、私も決断を迷った。今も冷や汗と震えが止まらない」


「だが、あなたはそれを強行するほかなかった」


 アヴドゥルは、目の前のムハンマドの気持ちは痛いほどに理解できる。


 パキスタンは建国以来、隣の大国インドとの緊張状態を保ちながら世界情勢を生き抜いてきた。


 時にインドの仮想敵国である中国と友好関係を結び、インドに対抗するべく核実験に踏み切ったのが一九九八年、五月。


 カシミール帰属問題、通称カシミール紛争に端を発する三度の印パ戦争を経験したパキスタンにとって、隣の大国インドは恐怖の象徴であり、隙あらば制しなければならない天敵だった。


 インドとパキスタンの国境に落下した不死隕石をインド側に渡すことだけは避けなければならない。ムハンマドは危険を承知で軍を出動させたのだった。


「あの隕石は実際、核保有に匹敵する国防上の切り札といえます」


 アヴドゥルの言葉にムハンマドは頷く。


「事実、日本政府はたかが数十名の不死兵士たちに国家転覆されかけた。日本が軍隊を持たぬ国といえ、あの隕石の恐ろしさは国際社会で実証済みだ」


 ムハンマドは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「そのすぐ後ですからね…ワーガ国境に隕石が落下したのは」


 アヴドゥルも苦い顔をした。


「中国の不死兵士たちが、あと一歩のところで退いた理由はわからないがね」


「一部からの情報ですと、あの不死兵士たちはチェルシースマイル…劉水が個人的に派遣した黒孩子(ヘイハイズ)とのこと。彼らは本物の人民解放軍兵士ではなかった。それが甘さにつながり、頓挫してしまったのでしょう」


 アヴドゥルは子飼いの諜報員を世界各地に散らばらせているため、情報をそれなりに保持している。


 ムハンマドは腑に落ちるところがあったのか深く頷いた。


「いずれにせよ、日本の聖域である皇居および国会議事堂、各地に散らばった原発を彼ら不死兵士たちが占領に成功した事実は揺るがない。これは世界的に見ても衝撃の出来事だ」


 ムハンマドは首相室の奥に目をやり、強化ガラスのケースに保存された直径二メートルほどの隕石を眺める。


 それは透明度の高い水晶を思わせる隕石だった。隕石は室内灯を受けて深紅からオレンジや紫といった豊かな変容を見せる。


 起伏の富んだ表面の凹凸に向かって深層部分より伸びた幾つものクラックが神経や血管を思わせた。


「見てみろ。亀裂が声かけによって伸縮する。これはある種の生物かもしれない」


 隕石を守るようにして十数名の武装した直立した兵士たち。


 ムハンマドは彼らに労いの言葉をかけつつ、アヴドゥルを手招きし、二人で隕石を至近距離から観察した。


「しかしこんなちっぽけな隕石が世界を脅かすとは。宝石のように美しいが、これはまさに悪魔の落とし子だ。パキスタンで一番安全な場所とはいえここに置いておくのも心許ないな」


「軍は全面強化でこの建物を守っています」


「私は戦争を始めてしまったのだろうか。アヴドゥルよ」


 ムハンマドは額の汗を懐から取り出した上等なハンカチで拭う。


「これをインド側に取られれば、我々は未来永劫あの国に屈服せねばならなくなる。ムハンマドさま、私はあなたのご英断を私は支持します」


 アヴドゥルは敬意を表しながら言った。


「我が国は、同胞である中国が成し得なかった夢物語を叶えなければならない。それはこの南アジア全域を支配すること」


 ムハンマドは再びデスクに戻るとキーボードを操作し、デスクトップに広がる世界地図のうちインド、パキスタン、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、ブータン、モルティブの七カ国を赤く点滅させた。


「中国からこちらへ亡命してきた研究者が何人かいます。この隕石さえあればそう遠くない未来、国内で不死兵士を再現できるでしょう」


 その言葉にムハンマドが深く頷いた。事実、水面下では中国での研究を受け継ぐ形で様々な肌の色の研究者たちが走り回っている。


「周遠源国家主席の安らかな眠りを祈るばかりです」


 アヴドゥルは今は亡き中国の最高権力者の菩薩のような微笑みを思い出し、少し涙ぐんだ。


「その意味も含め、今日はあれを用意した」


 ムハンマドは側近の一人に声をかける。側近は姿を一瞬くらませたかと思うとパック詰めされた食料品を二、三個持ってきた。


「…それは…?」


「今日の昼食にどうかと思ってな。昨年の夏だったかな。盟友でもあった周遠源くんからもらった特製カレーだ」


 それは珈琲色した濃厚なルーに肉や野菜が形を失った状態で浮遊したカレーの透明なパックだった。


「ずいぶん濃厚なカレーですね」


 アヴドゥルはそのカレーのパックを訝しげに見つめる。


 パックに貼られた正方形のラベルシールには、青空を背景にした周遠源の菩薩のような笑顔がプリントされており、端っこには孔子の格言「その人を知らざれば、その友を見よ」が毛筆で印字されている。


「周くんは言った。これは盟友に送るべき相応しいカレーであると。彼らの国では親しい者どうしでカレーをご馳走し合う習慣があるそうだ」


 ムハンマドは笑った。


 大柄に口髭のムハンマドは笑うと幼い顔つきになる。よって対外政治の厳しい局面では意図的に笑顔を見せないようにしているため、彼の笑顔は数少ない者しか見ることができなかった。


「美しい習慣ですね」


「追悼の意味もかねて…これを温めてご飯にかけてくれないか。私とアヴドゥルと…二つを頼む」


 ムハンマドは側近に声をかけた。


「畏まりました」


 側近はカレーのレトルトパックを手にしたまま再び姿を消す。


 そして十数分後。


 彼らの前に大皿に盛られたカレーが二つ出された。


 側近はカレーから顔を背けている。


「なっ、なんだ…この臭い…これはチーズの一種…なのか…?」


「おそらく…それは…その…」


 困惑するムハンマド。そしてそのカレーの正体について言及するのを躊躇うアヴドゥル。


 周囲のものたちは吐き気を堪えて、えづいていた。


「そ…そうか…彼ら中国人には食糞文化があったのだったな…」


「そうでしたね。私もいつだったか聞いたことがある…食糞は儒教の観点で相手を思いやる最上級の行為だと…ぶっ…」


「中国を束ねた偉大な男からの贈り物だぞ。私は食べてみせる…」


「ま、待ってくださ…」


 制止するアヴドゥルの言葉に耳を傾けず、ムハンマドは自らの口内へと無理矢理それを押し込んだ。


「んぶぐっ」


 周遠源の胃と腸を使ってクズクズに煮込まれた未消化の肉や野菜がムハンマドの口内を占領する。


「んぶぐっ…私はこれを何がなんでも食べきる。食べきってみせる。それができないような男に国を守ることなど、で…できないからな…ぶっ、むぶっ、むんぐぶっ」


「ムハンマドさま…」


 アヴドゥルもそれに倣って銀のスプーンでカレーをすくい上げ口に放り込んだ。


「ぶぐっ…んぶぶぶっ」


 首相室は在りし日の周遠源が遺した排泄物とメタンガスの臭いに満たされ、兵士や側近たちは涙目でそれを見つめていた。


 大便は食べ物ではありません。


 誰もが言い掛けたが、国家のトップ二人が必死に平らげようとしているその場面ではそれを口にすることはできなかった。


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 同時刻――。


 インド首相官邸――。


「パキスタン側は交渉のテーブルにつく気はなさそうだ」


 第十八代インド首相サティッシュは官僚からの電話を切ると革張りの白いソファに身を沈め、深いため息をつく。


「もはやアメリカに頼るしか手だてはないのか」


 執務室にはヒンドゥー教の神々を象ったタペストリーが飾られており、サティッシュは縋るような目でそれを見つめた。


「もう武力行使しかないよ」


 サティッシュのデスクの前には、涼やかな瞳をした青年が立っていた。


「シャカ。アメリカを交えた話し合いは無駄だと言いたいのか」


 サティッシュはインド政界に大きな影響を持つその青年――、シャカの顔を見つめて言った。


「いかにも」


 青いシャツに豊かな長髪。石炭のような黒い瞳は常に燃え続けている。


 シャカは二十九歳にして亡父から引き継いだ石油精製の巨大企業を率いており、アメリカの戦争狂いことドールアイズ、ロシアの顔無しノーフェイス、ヨーロッパとアフリカに父母をもつ女傑カラーレス、そして今は亡き中国黒社会の大物チェルシースマイルと並び、世界の五強と呼ばれる実力者だった。


「パキスタンは圧力には屈しないよ。パキスタン側の気持ちになって考えてみなよ」


 シャカは金のピアスを揺らし、目尻を下げる。


「アメリカはかつて東西冷戦時、南下するソ連への防壁としてパキスタンを利用し核開発を見て見ぬふりしてた。でも冷戦が終結すると一気にパキスタンの核開発を非難して経済制裁まではじめたよね。おまけにクリントン政権下では米国経済再生を掲げて、彼らの敵である僕らインドに接近してきた。彼らにとって一番信用ならないのはアメリカだろう」


「彼らには世界警察の威光は通用しないと言いたいのか…」


 サティッシュは、自らとオブライアン米国大統領が握手を交わし笑顔で収まった一枚の写真を見つめて冷や汗をかいた。


「こんな状態で僕らが暴走するパキスタンを前に平和主義者に甘んじる理由などあるかい?」


「この私に、戦争を始めろという意味か」


 シャカの挑発にサティッシュは目を細める。


「悲しいことだけどさ…世界三番目の原爆投下をちらつかせなければ彼らは話し合いのテーブルにつかないだろう」


「彼らパキスタンも核武装国家だぞ」


「パキスタンが保持する核兵器はウラン型。小型・軽量化ができないのに加え、臨界量は僕らが保持するプルトニウム型核兵器の約二倍の大きさ、四倍の重さを要する木偶の坊だ。確かに事前実験を必要としないガン・バーレル方式のウラン型は脅威ではあるけど、戦争となればミサイル搭載の核攻撃が想定される以上、プルトニウム型の核を保有している僕らの方が軍事的優位にある」


「何が言いたい」


 サティッシュは自分の半分以下しか生きていない青年を前にして、目を逸らしてしまう自分を恥じた。


「核の撃ち合いになれば最終的にはインドが勝つ。インドはパキスタンの七倍の人口だ。ナイフを持った七対一の喧嘩を想像してみなよ。こっちの一人か二人は死ぬかもしれないけど、五人がかりで叩けばあっちは確実に死ぬ。数は暴力なんだ」


 シャカは立ったままデスクに身を乗り出して笑った。


 まるで明日の旅行の計画について話すようにシャカは笑う。少女のようにあどけないその笑顔がサティッシュにさらなる恐怖を与えた。


「シャカ…君は自分の言ってることが分かってるのか…?」


 サティッシュはかつて文化大革命で自国民を大量虐殺したという中国の指導者、毛沢東の言葉を思い出した。


 毛沢東は「中国人は(当時)六億人いる。半分死んでも三億人が残る。恐れるものはない。核戦争になっても別に構わない」と発言して世界を震撼させた。


「取られるくらいなら壊してしまえ。これが国際スタンダードだよ。隕石争奪で遅れをとって、なおかつパキスタンに不死の兵士などつくられた日にはこの国は失墜する」


 それは血に飢えた独裁者の顔だった。


 シャカと毛沢東は生まれた時代も国も生い立ちも違うが、狂人は似た思考回路で世界を俯瞰しているらしい。


「仕方がない…軍に指令を出せ。我々も本気であるという姿勢を見せなければならない…くそっ…」


 サティッシュの言葉に向こうで待機していた秘書が頷き、その場で軍幹部に電話をかける。歯車は回り始めた。


「ようやく理解してもらえたみたいで何よりだよ」


 インドの国家元首たるサティッシュは、ようやくシャカと目を合わせた。


 シャカは姿形だけ見れば首都ニューデリーの酒場で若い女をナンパしてるような青年たちと何ら変わりない。


「シャカ。まさか彼らとのゲームに我々を巻き込むつもりじゃなかろうな」


 彼らとは国際レベルの五大裏権力者(ファイヴ・フィクサー)。先日死去したチェルシースマイルの他、ドールアイズやノーフェイス、カラーレスのことを指した。


 世界をかき回し、国家をけしかけ、戦争を起こしたがる彼らをサティッシュは快く思ってはいない。


 それもそのはず、ここ十数年で世界市民が目にする国家規模の紛争のニュースは、彼らがゲームに興じた「勝敗の結果」のようなものだったからだ。


「厭だなぁ。人聞きの悪い。これは神が始めたゲームなんだ。僕らはこの時代に生を受けた以上、そのテーブルに座らなければならない。手札はこれまでの歴史で積み上げてきたもの全てさ」


「…この先にあるものはなんだと思う」


 サティッシュは若者の言葉遊びに付き合いながら、額から滝のように汗を滴らせる。


「人類の新しいステージ。世界の新しい勢力図。僕はそう考えてるよ」


 シャカは笑った。子供のように。


 そして――。

 九月某日――。


 シャカによる児戯にも等しい思いつきが、翌朝、百万人の命を一瞬で奪った。


 迎撃システムが追いつかないほどの核弾頭が、パキスタンに落下したのだ。


 パキスタン首都イスラマバードにインドからの核ミサイルが発射されたという事実が世界中で報道されるころ、パキスタンのムハンマド首相は避難先で「インドへの報復」の声明を発表した。


「宣戦布告の翌日に核を落とすバカがどこにいる!とち狂ったか」


 ムハンマドは、不死隕石と共にパキスタン最大都市カラチの地下施設にいたため、難を逃れていた。


 隕石はカラチの地下研究所にて大勢の研究者によって解析、実験を繰り返されていたが、インドによる核攻撃で実験を中断せざるを得なくなっていた。


「もうじきここも危ない。隕石を持って移動しよう。そうだ…サウジアラビアがいい!私にはコネがある」


 ムハンマドがそう言うと、秘書たちは頷いた。


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 数日後――。

 死の街と化した、パキスタン首都イスラマバード――。


「これが核兵器の威力!現地に来て正解!パキスタン政府関係者に金を渡して正解!」


 分厚い放射線防護服に身を包んだ女が、瓦解した街の中で叫ぶ。


 彼女が一歩一歩踏みしめるのは、パキスタンがイギリスの植民地から解放されてから少しずつ積み上げてきた栄光の残骸だった。


 高層ビルは跡形もなく粉砕され広大な跡地だけが残されていた。


 空は汚染され灰色の雲を作り出し、太陽を手の届かない場所へと追いやってしまった。


 人だったもの。


 かつて人間だったものの肉片が、強力な放射能をまき散らしながらそこかしこで散らばっている。


 そして向こう側には水や川を求めてさまよう死者の列。誰もかれもが全裸で皮膚が溶けており、うめき声をあげ安らかな死を乞い願っている。


「この世の地獄ね」


 血液の枯れ果てた性別不明の人間が、女のすぐ目の前で力尽きて倒れた。


 女は、その人の形をした放射能物質を蹴りあげて笑った。人としての尊厳などそこにはない。


「マリアさま」


 女の傍を歩く、これまた分厚い防護服を着込んだ執事が語気を強めた。


「そろそろ時間です。もうこの防護服でも耐えられなくなります。引き返しましょう」


 女は舌打ちする。


「分かってる。帰りましょ」


 女は踵を返してヘリコプターに乗り込む。


「…いい眺めね」


 上空から見るパキスタン首都イスラマバードは更地になっていた。それは真っ白な髑髏を思わせる楕円形の傷跡に見えた。


「久々に濡れた…ほら、すごい…私の密林からねっとりした粘液が糸を引いて溢れ出しているわ…」


 マリアと呼ばれた女は浅黒い肌をしている。


 彼女は欧州帝王と呼ばれる大富豪ヤコブ・シュミットバウワーを父に、金やダイヤモンド、レアメタルといった地下資源を牛耳る南アフリカの権力者の娘を父に持つ、ムラート(白人と黒人の混血)だった。


 ニックネームは「カラーレス」


 彼女は有色人種でありながら、世界中の誰よりも透明な存在として世界を股にかける「色」を持たない女傑として裏の社会で知られた存在だった。


「国境に落ちた隕石が他にもあったわよね」


「ええ。フランスとイタリア、ドイツとポーランドの境にも落下したようです」


 執事はヘリを操縦しながら応える。


「パキスタンの首相みたいに行方を眩まされたら意味がないもの。永遠の命の争奪戦勝利の鍵は先制攻撃よ」


 カラーレスはドレスの裾を割って股ぐらに右手を滑り込ませるとクチュクチュと自慰行為をはじめた。


「フランスの政府高官に電話を繋いで…あいつらパパに買収されてるから話が早いわ」


「畏まりました」


「イク!!!あああああああ!!!!」


 大股開きのカラーレスは何度か痙攣したのち、死の街と化したイスラマバード上空で瑞々しい潮を吹いた。


 ヘリの中は酸っぱい香りで満たされ、執事は沈黙したままヘリを操縦し続けた。

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